◆新高速印刷株式会社 取締役工場長 拝野 務
私自身,DTPエキスパートには興味はありましたが,受験するとまでは考えていなかったのが事実です。当社の場合は,社員の自主的な受験というよりも,業務の一環として資格者を養成してきた事例だと思います。以下,資格取得前のいわば常識や先入観,そして実際はどうであったかも含めて思いつくままに記してみました。
「DTPエキスパートは難しい」
いいえ。難しくはありません。もっとも,何と比較するかによって難易度は変わりますが,合格率は過去数年40〜50%を維持しているようです。世の中には合格率が数%という資格試験はざらにあります。しかし,合格率を鵜呑(うの)みにしてきちんとカリキュラムの範囲を学習せずに,自分の知識に頼って試験に挑んでも合格は難しいでしょう。反対に,カリキュラムに沿って実直に勉強した人や,自らの知識を再整理した人が気合を入れて試験に臨めば,約半数の人が合格できるということだと思います。
「DTPエキスパートは専門的な資格だ」
いいえ。名称はさすがにスマートでプロフェッショナルな響きがありますが,実際は狭義のDTPの範ちゅうには収まらず,営業的な知識を始めとして印刷分野全体並びに関連分野にわたっています。DTP分野に特化しているというより,DTPを中心としたすそ野の広い知識を要求しています。営業部門の必須の資格と位置付けている会社も多いというのもうなずけます。カテゴリーの一つでも合格基準に満たないとアウト。分かりやすい基準と言えます。
「DTPエキスパートは若手社員が挑戦を」
いいえ。JAGATのデータによれば,さすがに受験者層は20歳代,30歳代が多いようですが,40歳代,50歳代の方も多く挑戦しています。なかには60歳代の方もおります。素晴らしいと思います。会社主導で取得を推進していく場合は,上層部から取得を推進するのも一つの方法かもしれません。ちなみに部門長と言われる方たちに資格取得の業務命令を出すと効果てきめんです。日ごろ偉そうなことを言っている手前,がむしゃらにやります。退路を断つ。これは当社の例です。
「勉強する時間がない」
いいえ。勉強する時間はないが,酒を飲む時間はある,というのが実態です。酒を飲まない人は夜遊びをする時間はあります。そこで,酒を飲む時間を勉強に充てる。休肝日を週5日にする。健康面でも素晴らしい。そして無事に試験に合格したら倒れるまで飲む。また,夜遊びの時間を勉強に回す。お金が減らず,一挙両得です。見事,試験に合格したら倒れるまで遊ぶ。
ただ言えることは,この我慢ができるのは1カ月,長くて2カ月というところでしょう。
あれは2002年の6月。ISOの審査が終了してホッとしていたら,「幹部社員はDTPエキスパートを取得すること。これは資格取得の奨励じゃないよ。業務命令だよ」社長の一言で部門長7名を選抜。平均年齢40数歳。第18期の試験に挑戦することになりました。メーカー主催のDTPスクールに参加を申し込み,受講開始。実質1カ月半の休日の集中特訓となりました。
「落ちたら立場がないよな」これが合言葉。
「歳を取ると記憶力が落ちてね」
いいえ。この試験は集中力が勝負です。記憶は1年間保持するのは至難の業ですが,1カ月,2カ月くらいなら何とかなります。
2002年の8月。夏季休暇,せみ時雨の中,家族サービスをキャンセルしてテキスト,問題集に取り組んでいたのは,一人二人ではなかったはずです。徹底的に過去問をやる。条件反射的に解答ができるまでやる。とにかくアタマに詰め込む。試験までの1,2カ月は。その後は個人差がありますが,2年後に更新試験で再度記憶を呼び戻すことになります。当然,新しい分野の問題も含まれますので,日ごろの情報収集の力をフル稼働して問題に取り組むことになります。これはいわゆる「継続的改善」に近いと思われます。
「上司が先に取得すると次が続かない」
いいえ。「え! ○○さん合格したの。へえ〜」言葉に出すかどうかは分かりませんが,日頃,Macにも触っていない上司が合格すると,がぜん次の層がやる気を出します。できるだけエキスパートに遠そうな幹部が合格するとその効果は絶大。当社はこのサイクルがよく回りました。
「エキスパートが増えると売り上げが上がる」
いいえ。というより分かりません。経営面で見ると受験料の会社負担や資格手当または報奨金などの何らかの支出(教育的投資)を伴っている場合が多いはずですから,一番気になるところです。支出金額と売り上げアップは相関関係にあるか? ちなみに当社においては,不明です。資格取得者は頑として口をつぐんでいます。長い目で見てほしい,と心の中で思っているようです。
「めでたし,めでたし,で終わりか」
いいえ。当社の場合,第1陣の7名は幸いにも全員合格。次の年の5名も全員合格。さらに次の年は全員とはいかなかったですが4名合格となり,現在16名のDTPエキスパートがおります。全国に1万数千名の資格取得者がいることを考えれば,決して多いほうではないでしょうが,第1段階としてはまずまずではないでしょうか。
経営者は,この好循環をさらに展開したいと考えるのは当然でしょう。現在,情報処理やXML関連の資格に挑戦している(させられている?)管理職もいます。結果はここでは書きませんが,挑戦する意気込みは評価できるでしょう。
「資格取得者は仕事がデキル」
分かりません。試験合格イコール仕事がデキルと断定することはできませんが,デキル可能性は高い。百歩譲って,デキルようになる可能性が高い,と言えるでしょう。よく言われるように,どのような資格でもそれがゴールではなくスタートのはずです。例えば資格取得後の努力いかんで「バリバリエキスパート」になるか「そこそこエキスパート」になるかに分かれます。間違っても「ほんとに?エキスパート」にはなりたくないものです。
話は変わりますが,昨今,有名企業の不祥事が多く報道されています。企業の社会的責任の話題も多く出ます。対外的,社内的その動機はさまざまでしょうが,いろいろな第三者認証を取得することが多くなっています。これこれこういう認証を得ていますから,安心してお任せください。ということです。看板と実態が合っていれば問題はありませんが,そうでないケースがあるのでしょう。他山の石と言うべきでしょうか。
「DTPエキスパート資格は良い資格だ」
はい。何も主催者の片棒を担ぐわけではありませんが,現状,わが業界の知識・技術を体系的に網羅した唯一の資格制度だと思います。かつては,専門的で特別な資格というイメージがありましたが,現在は新入社員や営業マンの教育のツールとしても一般的なものになりつつあります。自社で独自に教育カリキュラムをおもちの企業は多いはずですが,業界の一般教養的な位置付けで,この制度を会社主導,自己啓発を問わずに有効に活用するメリットは大きいと思います。
資格がすべてではないのは当然です。資格には無縁でも素晴らしく有能な人はいるでしょう。ただ,自らを動機付け,その資格取得を目指して学習することは,それ自体意義のあることです。さらにレベルを維持・向上することはなお大事です。 早いもので来年には,2回目の更新試験があります。平均年齢がさらに上がった第1陣が無事に更新できることを願っております。
2005/08/15 00:00:00