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印刷会社の業態変革に必要な「人」の変革とは

全印工連の「2008計画」を改めて読みなおしてみても、印刷業界の現在を概括してみても、業態を変革しなくては印刷業が今後立ち行かなくなるであろう事はもはや疑い得ないことであるし、今や、よほどの外的条件に恵まれていない限り、なにがしかの変革は必須と言えよう。 印刷会社という代々続いた金看板、すなわち印刷業という「業種」に縛られてしまうのではなく、収益を生み出す「業態」から自らを括りなおし、それに合わせた変革を推し進めて行く必要があろう。
しかしここまでは正論だとしても、これをお読みの皆様も大なり小なり「新しい制度を導入し、既存のしくみを変えたのに、なぜ企業変革はうまくいかないのか」という思いを抱かれたことがあるのではないだろうか。
印刷会社の受け身体質からの脱却。提案型営業スタイルの確立。顧客とのコミュニケーションの強化、パートナー化。部門間の対立の解消。そして、自社に相応しいありうべき業態開発。……と問題が山積している中で、トップ一人でこの大問題を抱え込んでいてもなかなかブレイクスルーが見つからないのは、これまでの印刷業界を見直してみれば分かることだ。
名称を変えても、仕組みを変えても、「社員の意識」が変わらなければ「身」にならない。だからブレークスルーできない。そしてまたぞろ「新しい制度を導入し、既存のしくみを変えたのに、なぜ企業変革はうまくいかないのか」というところに立ち戻ってしまうのである。
「一つの儲かる仕組み」の中で効率化あるいは高質化の努力をすることで右肩上がりの収益が安定的に得られた時期と、今の業態変革をしながら右肩上がりの収益構造を模索する時期とでは、トップも社員も共に考え方を変えなければ上手く着地できないのである。

かつてビジネス書のベストセラーとなり現在もロングセラーを続けている『なぜ会社は変われないのか』(日本経済新聞社=刊)の著者であり、企業風土改革の第一人者である柴田昌治氏((株)スコラ・コンサルト代表)は、自著の中で「「意識改革が必要だ」と、社長をはじめ責任ある立場の人はしばしば口にする。しかし、社長が言うようには意識改革が進んでいないことの方が圧倒的に多い」と述べている。
「部署間で意見の調整に手間取ったり、利害衝突が目立ち、方針がなかなか実行されない」「経営方針が担当者レベルまで伝わっていないと感じる」「何となく体裁を整えたような情報は入ってくるが、悪い情報が生々しくは伝わってこない」など、経営者が日常的に抱える問題に対処するためには企業風土改革が必要で、先の柴田氏(スコラ・コンサルト)によれば、
「それを経営課題として捉えなおすと、風土を変えることによってめざすものは、以下の3点にまとめることができます。
1 オペレーションの質を高める
2 新たな商品、サービス、ビジネスモデルを打ち出す
3 人が成長し知的財産が蓄積される」
とし、さらに、
「「仕事のやり方」においては、たとえば、「責任者は明確にしないほうがいい」から「課題が明確になったら必ず責任者を明確にする」へ、「経営会議は経営方針に関わらず、いつも予算の達成状況を報告する場である」から「経営会議は経営方針の中で優先順位の高い課題を実行するために知恵を出す場である」へと変えていくことが新たな常識をつくることです。
また、「人と人との関係」では、たとえば、「他人の仕事に口出しはしない」「余計な波風を立てない」などの暗黙の常識を、「おかしいことはおかしいと言う」「弱みを含めて相手を認める」といった新たな常識に変えることです。」
とし、そのための取り組みとして柴田氏は「社員を主役とする新しいトップダウン」作りの方法を打ち出している。それは「経営に対する信頼感」「仲間に対する信頼感」「社員の主体行動」が循環する仕組みを目指す方法だという。

先に述べた、印刷会社の受け身体質からの脱却から業態開発までの流れは、すべて「人」あってこその問題であるということである。トップ一人が思いつきでいくら旗を振っても、下が動かなければ何も生み出せない。あるいは闇雲ににボトムアップと言って実施しても、見当違いの提案や議論が続出しては、かえって社内は無秩序な混沌となりかねない。無責任な評論家、批判者の温床にさえなりかねない。
社員含めたすべての人材が、トップの経営方針、戦略を共有し、その戦略の元に自ら考え動けるようになること、それこそが印刷会社が自らの「殻」を破り、業態変革を成功させる唯一の道ではないだろうか。その時のキーコンセプトは「社員を主役とするトップダウン」でなかろうか。


経営層向情報サービス『TechnoFocus』No.#1410-2005/10/11より転載

2005/10/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会