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マルチメディアからクロスメディアへ

社団法人日本印刷技術協会 副会長 和久井孝太郎

2005年10月13日の時点でインターネット情報検索サイトのGoogleにアクセスして、「クロスメディア」をキーワードとして総検索数を調べてみた。 「クロスメディア」の総件数は約84,600件であることが分かったが、1から10件目の検索の中にJAGATのホームページに掲載されている『クロスメディア、ニッポン放送VSライブドア(堀江貴文社長)その2』が出ている。

ついでだから言うが、今日の夕方からテレビニュース番組を賑わし、翌日の新聞各紙1面を賑わしているのは、「楽天グループ(三木谷社長)が、テレビ・ラジオのキーステーションの雄TBST株式の15%強を取得し筆頭株主に躍り出て、共同持ち株会社方式による経営統合をTBS社に持ちかけた」と言う話題である。 当のTBS社は困惑顔であるが、三木谷社長の狙いはテレビ・ラジオとインターネットとのデジタルクロスメディア効果を踏み台として、自らはインターネット企業の勝ち組として発展していきたい、と言うことであろう。

筆者の個人的な見解であるが、メディアのトータルデジタル化が急速に進む中で、テレビ・ラジオは、地上波デジタル放送+コンピュータ機能内蔵の薄型大画面テレビ、テレビ・ラジオ受信機能付携帯電話の普及を目前に、放送は強力な無線LAN(広帯域大電力電波免許)を持つ大変魅力的な未来型メディアなのである。 しかし、国からの免許事業の世界の中で揺籃期から成熟時代の今日まで、強力ジャーナリズムの一翼として営々と努力してきた放送関係者には、デジタルワールドの成り上り者が土足で踏み込んできた黒船襲来と見えているのだろう。

いずれにしても今何よりも経営者に求められているのは、10年先、50年先の未来を科学的に見通し、足元の揺らぎに惑わされない合理的な判断に基づく実行力である。

「来年のことを言うと鬼が笑う」的な日本人の精神構造では、未来は深い霧の中かもしれないが、現代科学の目で歴史を正しく分析すれば、現在は本質的に揺らいでいるが、しかし未来は見え見えなのである。

ヤフー社長の孫正義氏も、「足元の2、3年先は断定できないが30年先は的確に見える」 とこの間NHKの番組で話していた。彼の経営方針は、足元の揺らぎに惑わされることなく未来のビジョンに向けて自信を持って突き進むである。 これに対してNHKのアナウンサーが、「30年先が見通せるなんて普通の人にはできない。孫社長は天才だからできるのでしょう」と発言しているのを聞いて、筆者はこの馬鹿野郎と腹だたしかったのをよく覚えている。

JAGATが『クロスメディアエキスパート認証制度創設』を公表 2005年9月21日JAGATは、「急速に展開しつつあるデジタルメディア環境の中で、印刷企業の更なる発展を目的として、紙メディアとデジタルメディアの相乗効果発揮をデザインし、それを実現のものとする能力を身につけた印刷現場のデレクターを育成し、認証する制度を創設した」と記者発表した。


▲クロスメディアエキスパート育成カリキュラムの領域

クロスメディアの本質

すでに述べたクロスメディアをキーワードとする情報検索サイトGoogleでの検索結果の詳細は次のとおりである。

キーワード⇒クロスメディアのみ:約84,600件
キーワード⇒クロスメディア+α
+α=印刷業:約13,000件
+α=インターネット:約41,200件
+α=新聞:約17,100件
+α=出版:約22,100件
+α=テレビ:約29,300件
+α=通信: 約27,800件
+α=マーケティング:約28,000件

クロスメディアに対する印刷企業や各メディア界の関心の度合いの広まりと見て取れる、と筆者は考えている。

筆者がかつてJAGATinfo誌上でも説明したことがある「マルチ・メディア曼荼羅」は、いまや「クロスメディア曼荼羅」のレベルへと進化した。


▲クロスメディア曼荼羅

筆者の見通しでは、将来さらにマイロボットを核とするレベルへと進化すると考えている。

クロスメディアへの期待は、ビジネス側と生活者側では当然異なる。
ビジネス側⇒多媒体相乗効果
生活者側⇒多媒体環境で生活する自分のために
メディア(media)=媒体、媒介、中間
クロス(cross)=十字架・・・、交差
クロスメディア=交差媒体、交差媒介
マルチ・メディア=多媒体(媒体多様化)
マルチメディア=多機能媒体(文字・静止画・音声・動画を扱い、記録も双方向通信もできる=インターネット+パソコン、近未来に携帯電話もテレビも多機能媒体に変化!)

ビジネス側における携帯電話やモバイルをハブとするデジタル型クロスメディアマーケティングの具体事例を図3に示した。


▲図3クロスメディア型マーケティング

これに対して生活者側は一般論として、自らの生活環境としてのメディア環境が急速に進化することを望んではいない。一般生活者は好むと好まざるに関わらず、クロスメディア曼荼羅の中核に自らを置いて生活している。生活者のメディアリテラシーは、千差万別で大多数の人びとは現在の進歩からは置き去りにされている。

メディア環境での不公平は拡大する一方である。時代変化の本質が、米国の科学哲学者ダニエル・C・デネットが言うように「自由の進化」にあるとすれば、自らの欲求と社会の調和を自己の責任で図るためには、自らの情報生活を親身になってサポートしてくれる存在としてのマイパートナー・ロボットがクロスメディアのハブとして不可欠になってくる。

2005/11/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会