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カラーマネジメントの標準化動向

 カラー画像が産業として扱われるようになった時代から,それぞれのカラー画像システムでは,適切な色を記録・伝送・再現する取り組みが進められてきた。それらを実現するためのカラーマネジメントのなかで,標準化団体や規格化の動向について富士ゼロックスの仲谷 文雄氏にお話を伺った。

はじめに

 21世紀に入り,写真,印刷,テレビ,照明などのカラー技術はますます発展すると共に急速にデジタル化が進み,これまでのCRT,LCD,カラープリンタ,ファックス,複写機,スキャナ等に加え,デジタルカメラ(携帯電話に附属のカメラを含む),デジタルビデオなどの新しい機器も急速に普及している。これからのマルチメディアの世界では,更に新しい機器が出現するであろうが,これら多数のカラー機器を統一してカラー情報処理を行う「カラーマネジメント」の考え方が機器,OSやソフトの作り手の間で重要となってきている。

 また,家庭やオフィスで一般ユーザがカラー情報を取り扱う機会が増えるのに伴い,「色を合わせる」ことへのユーザの要求が増大している。さらに,インターネットで代表されるグローバルなネットワークを通し,カラー情報の送り手と受け手が世界中に広がった結果,写真や年賀状,美術品や商品カタログを初め,カラーマネジメントに対する要求があちこちで高まっている。
 このような環境の変化に呼応して多くの団体がカラーマネジメントの規格化活動を進めている。このカラーマネジメント規格化の現状と課題について説明する。

カラーマネジメントの規格化の動向/課題と対応

 カラーマネジメントという言葉は一昔前から既に存在しており,「異なるメディア間での色情報を制御する方法」を意味しているが,インターネットが普及する前と後では,その意味合いが大きく異なっている。
 インターネットの普及前は,既知の人々のコミュニティの中で,既知の機器の組み合わせについて,色情報のやりとりに不具合がないように機器やソフトを最適化することが可能であったが,インターネットの普及後は,未知の人々と未知の機器の組み合わせとなったため,最適化するための情報が容易に入手できないという状況となった。

 したがって,このような環境でカラーマネジメントを行うためには,作り手側のだれでもが閲覧できるルール=規格を設ける必要が生じた。
 国際照明委員会(CIE)は当初,第1部会(視覚と色)と第2部会(光と放射の物理測定)でカラーマネジメントの規格化に対応していたが,デジタル化の進展が予想以上に進んだため,1998年9月に第8部会(画像技術)を新設し,現在ではカラーマネジメントの規格化の先導役となっている。
 このような活動により,これまでにカラーマネジメントの規格が,いくつか実用化されている。代表的なものとしては,sRGB,ICC profile,CIECAM02が挙げられる。

 sRGBは,Standard RGBもしくはSingle RGBの略で,1999年に国際電気標準会議(IEC)のTC100において IEC 61966-2-1: Multimedia systems and equipment - Colour measurement and management - Part 2-1: Colour management - Default RGB colour space)として規格化したものである。
 sRGBとは,「RGBと1931 CIEXYZの関係がIEC 61966-2-1に記載された関係式で定義されたもの」で色空間の1つである。原則的には,sRGBに従った機器の入力と出力の色は1931 CIE XYZで表現して入力と出力のカラーマネジメントに使用できる。

 sRGBは既存のCRT色再現域の平均値から求められたものであり,各種機器で広く採用されている。sRGBの課題は,sRGB色空間の外にある色を扱うことが出来ないという点にあり,例えばカラープリンタではsRGBより広い色空間の規格化が望まれ,拡張色空間として規格化が進められている。
 一方,ICCはInternal Color Consortiumの略で,1993年に8つの企業が集まって設立されたコンソーシアムである。だれもが自由に使用できる機器間のカラーマネジメントシステム構成とその要素の作成,普及,規格化/改定の促進を行っている。

 ICC profileは種々の機器の色の入出力特性を記述するフォーマットを規格化したものであり,「機器の色空間」から,「機器に依存しない色空間(Profile Connection Space)」への変換を定義するものである。
 ICC profileは,sRGBと比較して機器の入出力の色をより詳細で柔軟に記述できる点が特徴である。sRGBは詳細な取り決めが無くとも良く,簡便である。以前は機器毎に採用している色空間はまちまちであったが,sRGBで統一することにより,機器の接続,例えばデジタルカメラとカラープリンタの接続における色再現の問題は少なくなった。

 機器のICC profileが既知の場合はそれを用い,未知の場合はsRGBと仮定して色信号の処理を行うというやり方が実践的に用いられている。このように,sRGBとICC profileは互いにその機能を補間しあうような形で共存している。
 CIECAM02は,Colour Appearance Model 2002の略で,CIE Publicationとして2004年に発行された色の見えモデルである。
 照明光源やその明るさ等の観察条件によって観察対象の色がどのように変化するかを推定することができる。 CIECAM02の入力は,対象とする色の三刺激値と観察条件を表わす種々のパラメータである。出力として明るさQ,明度J,色相角h,色相成分H,カラフルネスM,クロマC,飽和度sが得られる。

 これらの色の見えを表わす属性は環境に依存しないものなので,カラーマネジメントにおける色情報のやり取りに最適なものとなる。
 また,機器間の色空間の変換処理(Gamut Mapping Algorithm)の規格化がCIE TC8-03で進められており,Gamut Mapping Algorithmの評価方法が2003年に発行されている。
CIEはこのGuidelineに基づいたGamut Mapping Algorithmの公開実験への参加を呼びかけている。

 さらに,画像の保存や処理,画像のやり取りを行う上で必要な,画像の入力から出力までの処理の流れ,種々の画像符号化状態とその間の関係について,その構造と必要要件がISO22028-1として規格化されている。
 画像符号化状態としては静止画や動画を撮影して得られたScene referred colour encodings,スキャナで入力して得られたOriginal referred colour encodings, ディスプレイ表示やプリンタ出力に用いられるOutput referred colour encodingsの3種類が定義されている。入力から出力までの種々の機器間のInter Operabilityを向上させるための1つのガイドラインとして注目されている。

おわりに

 マルチメディアの世界では専門知識を持たないエンドユーザーが意識することなくカラーマネジメントを実施し得るために,カラーマネジメントの自動化が必要となる。
 メモリーカラーなどに対する個々の企業や産業界の蓄積情報を共有化することで,画像の入力から出力までの色情報の相互交換が容易になる。競争(差をつける)と共通化(差を無くす)に対して基本的な取り決めを設けることにより,エンドユーザーの利便性が増す。このような付帯情報の受け渡し方法の規格化が進んでいる。
 個々のハードの個別設計からハード間,ハードとソフトの連携と協業がますます重要性を増している。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2005/11/22 00:00:00


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