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自動組版の難しさと印刷会社に期待される役割

(特別対談)自動組版は印刷会社に何をもたらすか(1)

印刷物制作がDTP化され,インターネットが普及してIT化が進展し,印刷会社の置かれた環境はそれ以前とは大きく変化している。これからはかつてのように印刷物がどんどん発注されるということは望めない。
そのような中で,印刷会社が自動組版に取り組むことは,受注を確保していく上で他社との差別化,コスト低減という点からも有効な手段になる。しかし,自動組版のハードルは決して低くはない。
今までデータベース・パブリッシング業務に取り組んできたデジタル・アド・サービス常務取締役松田孝氏とJAGAT研究調査部の千葉弘幸が,その意義と現実にぶつかる課題について激論を戦わせた。

(株)デジタル・アド・サービス 常務取締役 松田 孝氏
自動組版がうまくいかないのはなぜか?

松田
これまで自動組版に取り組んできたが,組版ソフトやツールのベンダーが主張するような理想的な形ではうまくいっていないのが現状だ。
自動組版に取り組むこと自体が無意味と思っているわけではないし,物量や納期の問題があるため,自動組版を行わないと難しい仕事もある。しかし実際には,事前準備やシステム開発費の負荷があることに加え,デザインの自由度も制限されるなど,必ずしも想定していたような成功には結び付いていない。これは,なぜだろうか?
データベース・パブリッシングにおいて,自動組版がどんどん利用されるという状況にはならないように思える。

千葉
まず自動組版とは何を指すのかということがある。本質は,データベース・パブリッシングである。データベースを活用して,いかに制作を効率化するかということがある。電話帳などは何十年も前からすべてコンピュータ化して一括で組版処理されてきた。それは,うまくいっている事例だろうし,今さら取り上げるような話でもない。
印刷物の分野,対象によって実現しやすさ,効果も違う。何でも自動組版にすべきとか,自動組版が主流になると主張しているのではない。例えば,不定型なデザインのものは難しいと思う。自動組版としてやるべき仕事を見極めることが重要だろう。

松田
印刷会社の中で自動組版を行っているという手の内を明かしてしまうと,発注側から制作単価を下げろという要求が出てくる。これが営業的な課題である。現状では自動組版を行ったからと言って,事前準備や開発費などを考慮すると,劇的にコストが低下するわけではない。レイアウトパターンが一定で,定期的にオーダーがあるような仕事は別だが,それ以外の状況で自動組版はなかなか売り物にしづらい。
最終的に,頭のいい発注側なら,自分たちで自動組版システムを運用してしまいたいと考える場合もあるだろう。印刷部分で利益が出せればいいという考え方もあるだろうが,制作会社の場合はそうもいかない。

千葉
それは自動組版の対象が何かで,事情が違うのでないか。定型的なものは,発注側から見ても自動処理は当然と見なされているはずであり,価格面への影響も大きいだろう。定型的でないデザインのものは,簡単に自動処理できるとは思えないし,価格への影響は小さいのではないか。

松田
難易度について言えば,名簿と論文集のように一定のパターンがあるものは難易度が低く,それほど技術的に問題になるようなことはない。文書構造,データ構造が明確なものは,問題にはならない。
次に,少し複雑度が上がったもので,例えば旅行プランを一覧にしたカタログのように,アイテムごとの面積が一定で,各種項目データを流し込んでいくタイプのものがある。これは一見,容易に自動組版ができそうなのだが,このレベルでさえ,実際にはそう簡単ではない。ホテルや旅館名の部分は自動組版が可能でも,料金表の部分は恣意(しい)的な構造であることが多く,現実には自動化は不可能に近い。
ベンダーは「一般の通販カタログみたいなものでも準備すれば自動組版できます」と言っているように思われる。しかし「発注側も受注側も自動組版で万々歳!」という事例が本当にたくさんあるのだろうか。

印刷会社に期待される役割

千葉
確かに,どのような仕事に対して自動化を適用したらよいのかは,ベンダーからの情報としてはあまり伝わっていない。
一般の通販カタログレベルのものは自動組版の対象としては高度であり,すべて自動組版の対象として見なすのは難しいだろう。しかし,名簿と通販カタログの中間レベルのものは,世の中にかなりの数あるのではないか。例えばチラシや,それに準じたカタログなどは自動組版の対象になるのではないだろうか。チラシなどをデータベース化しているというところは少ないが,本来はもう少し自動化されてもよいのではと思う。

また,印刷業界から見た「できる,できない」の議論もあるが,データベースを構築してデータベース・パブリッシングを行うことを,発注側が望んでいるという現実がある。それは,Webでの情報発信と印刷物での情報発信を,できるだけ一元化するというクロスメディア展開を意識しており,紙に印刷するだけではなくなっている。
そうなると,発注側はある程度体裁は割り切って,ものによっては目をつむって,コストを下げてほしいと要求するようなこともある。さらには,手動でやって校正ミスが起こるのだったら,自動化を進めることで校正ミスをなくすほうがよいという面もある。

松田
クロスメディアは,確かにすごく甘く響く言葉ではあり,発注側でも意識しているところは多い。しかし,発注側の中でも先進的なところでは,紙の役割とWebの役割を明確に区別し,単に同じ内容を紙とWebで共有するというようなレベルは望んではいない。紙にふさわしい見せ方とWebにふさわしい見せ方には違いがあり,本来目的も違うはずだ。全く同じものを紙とWebで見せることができればよいというのではないだろう。
紙とWebの役割分担も考慮した上でクロスメディアは議論されなければいけない。

千葉
本来はこうあるべき,こう見せるべきという面と,やはりあまりコストを掛けたくないという面の両面がある。
例えばWebに掛けるコストや労力が1で,印刷物が10などということはあり得なくて,ある程度,平準化されていく。今後,印刷物だけに突出して費用と手間暇を掛けることは,できなくなるだろう。それが発注側の要請ということである。
印刷物を減らしたり,安くしたりする努力をしないと,発注元からどんどん見捨てられるわけで,仕事を確保するためには,そういう観点からも自動化は取り組まざるを得ないケースも出てくる。

松田
印刷会社が印刷物を減らす提案をしていくということは,印刷会社としてはかなり厳しい。プロモーションやマーケティング・コンサルティングの立場ならともかく,自己否定的な提案は印刷会社には構造的に不可能と言ってもいい。 確かにコストを落とすという要請はあるが,では,例えば販促物は経費なのか,それとも投資なのかという議論もある。投資という観点で「売り上げが10%上がるのであれば,その分のコストには意義がある」という考え方を発注側に示していくような姿勢も必要ではないか。

「自動組版は印刷会社の武器となり得るか」へ続く

「プリンターズサークル」(JAGAT)2005.12号より転載

2005/12/03 00:00:00


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