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自動組版は印刷会社の武器となり得るか

(特別対談)自動組版は印刷会社に何をもたらすか(2)

「自動組版の難しさと印刷会社に期待される役割」より続く

(株)デジタル・アド・サービス 常務取締役 松田 孝氏
カタログ制作用データベースの整備は誰がやるべきか?

松田
自動組版は,実際には困難にもかかわらず,成功事例だけが表面的に語られているような気がする。その困難さは,まず,発注側からのデータが不完全であるということに起因している。場合によっては,データ構造もいい加減であることが多い。また,データを流し込んだ後に,泥縄的に修正が入ってくるという状況もある。再度の流し込みができればいいのだが,DTPソフト上で修正を施した後で,もう一度流し込むことは困難である。本当にビジュアルデザインのみが修正されているだけならよいのだが,データ構造が変わるような修正が発生するケースも多い。加えて,プログラミングやツールの設定も簡単ではない。

それなのに,自動組版だからということだけで値段が下がると発注側は期待してしまう。発注側が,データチェックや整備にエネルギーを掛けたような場合,コストダウンの期待はなお大きくなってしまうだろう。
最後に,データベースソフト上でチェックしたら簡単に済む修正を,わざわざレイアウトされてから目視でチェックして校正するというケースは思いのほか多い。DTPソフトで修正した内容をデータベース側に反映するといったツールや仕組みで対応することも可能ではあるが,それは本質的な負荷削減にはつながらない。

千葉
データが整備されていないということはよくある話で,それがむしろ普通だろう。だからこそ整備されていないデータを使って印刷物を作るのが一つのビジネスになると考えられないだろうか。印刷物を作るだけではなくて,データを整備するというビジネスも可能性がある。
潜在的なニーズはたくさんあるし,それを実現する能力が高いのは,印刷会社ではないかと考えている。なぜなら,今までさんざんそのようなものを扱って印刷物を作っているので,ベースとなる技術や知識はもっている。しかし,現在はそれを商売とせずに,印刷物を作るための手段としているだけである。データを整備するというビジネスを立ち上げたら,それはそれで成り立つ。

松田
われわれも,印刷物に必要なデータが用意されていない,整備されていることが少ないなら,印刷物を作るプロセスをその機会にしましょう,ということを発注側に提案している。
データベースがあれば, Web展開の自動化は紙よりもやりやすい。ただ,やはり紙は物理的面積の制限を受けるところがWebとは異なるわけだが。いずれにしても,ワンソース・マルチユースと言っても,ソースの部分がきちんとしていないまま,ユースのところだけが華やかに語られるのがどうも引っ掛かる。

弊社の場合,データベース・パブリッシングの仕事は,発注側の対象データベースをきちんと整備してあげることが一番のポイントになっている。ただそれに対してきちんと必要なコストを払ってもらえるかどうかという課題はあり,「整備されたデータベースには価値がありますよ。データベースが整備されることによって,Web展開も発注側での内部利用もできるじゃないですか」という営業的アプローチをしている。

千葉
それが本当にビジネスとして,対価が得られて成り立っていけば,そこから先の印刷物制作は,でき上がったデータから自動組版で作るということになる。すごく透明になる。

松田
そのようなアプローチが取れれば,確かにかなり透明度は上がるが,やはり自動組版はそう単純ではない。
例えば,スペースが空いたら写真を大きくするとか,この商品は売れ筋商品なので写真はちょっと大きめに取り上げたいなどの要望があった時に,それを自動的に処理することは相当難しいはずだ。

あるいは商品のカタログを作る際に,商品情報のデータベースはあっても,それには台割情報は入っていないのが普通だ。商品情報データベースから台割情報データベースが自動で生成されることと,台割情報データベースと商品情報データベースを元に自動組版を行うことが混同されているように思える。この混同が自動組版の一番のハードルではないか。

千葉
自動組版のハードルが高くて,印刷会社側にとっては大変な部分もある。しかし,発注側がデータベース・パブリッシングを求める要因には,手動でやると,必ず間違いが起きるということがある。そのためのチェックの手間もかなり大変だ。大きなミスも起きる。データベース・パブリッシングの目的としてミスをいかに減らしたいかということもあるが,突き詰めると最終的には印刷物の価値とWebの価値の比較になってくる。つまり,印刷物にはミスが付き物で,Webでは違うとなると,印刷物には費用を掛ける意味が薄れてくる。

松田
確かに,Webは自動組版と相性がいい。面積の制限を受けにくいから,文字どおり「流し込んでも」決定的な問題は発生しない。
しかし,紙の場合はページ数とその面積,物理的な紙の制限があり,相当細かいことに気をつけないと自動化はできない。残念ながら,現実的には自動組版はペイしないというのが,現時点での弊社の結論だ。

自動組版をマーケティング用語と割り切って営業的に使い,ほかの仕事を取るための呼び水にするというのは十分理解できる。しかし,現場の観点からは現実的な対応が必要となるだろう。
自動組版のためのツールを批判したいわけではない。恩恵にもあずかってきた。しかし残念ながら,理想的なデータが用意されることが前提となっているものが多い,ということだ。
自動組版のための準備が,通常のDTPプロセスより時間が掛かってしまうのだったら,ビジネス的に無意味である。そういう面を考慮せずに単に「次の印刷・制作業界の課題は自動組版です」というのは奇妙だ。

千葉
自動組版もオールマイティーに何でもできるということはないが,やはりそれによっていろいろできること,新たにできること,新たにビジネスが成り立つということもやはりたくさんある。

印刷会社は何を武器にすべきか

松田
商業印刷の場合,印刷会社への発注窓口となっているのは発注側の広告宣伝部門であることが多い。この部門では,まだまだ印刷物としての品質を重視している。広告宣伝部門では,奇麗な印刷物を作ることが主目的となっている。 しかし,より中枢の企画部門などは,社内の基幹システムとして商品情報データベースを充実させ,Webとも連携することなどに関心があり,さらに費用対効果にも敏感である。むしろ,そういった相談はシステムインテグレータやシステムコンサルタントにいってしまうことも多いだろう。この役割を制作会社や印刷会社の制作部門がやれないものだろうか。

千葉
システムインテグレータではWebやカタログでコンテンツを扱うためのノウハウや経験は多くないはずで,印刷会社の優位の部分である。このような優位性を生かすためにも,商品データベースを中心としたカタログ製作と発注側の価値向上・効率化を,発注側企業の中枢部門にアピールする必要があるのかもしれない。
また,紙面上のレイアウトや表現についても,「こうすればアピールできる」「こうすれば売れる」など,もっと印刷会社から提案すべきである。そのような提案には,トライアル&エラーが必要である。自動組版は,トライア ル&エラーのための手段としての意味も大きい。

「プリンターズサークル」(JAGAT)2005.12号より転載

2005/12/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会