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「DTPエキスパート認証試験」への思い

法規書籍印刷株式会社 事業本部長 伊藤 博

 
印刷とコンピュータの関連を体系的に勉強したくて
私がDTPエキスパート認証試験を受験したのは,今から約8年半前の1997年3月,第7期の試験でした。当時の印刷業界は,制作現場へのパソコンを中心とするコンピュータの急速な導入が予想され,いわゆる「デジタル化の波」に備えた各社の対応の必要性が認識され始めたころだったと思います。DTPという概念も徐々に浸透してきたころでした。
私としては,1994年ごろまでの7年間ほどコンピュータ業界に身を置いていた立場から,自分なりに「印刷関連技術」と「コンピュータ」を結び付けて学んでみたいという思いがあり,何か良い題材はないかと探していた時に,このDTPエキスパート認証試験の存在を知りました。その出題内容を確認したところ,「これなら望んでいた内容を体系的に勉強できる。さらにこれからの印刷関連技術を先取りして勉強できる」と判断し,受験を決意しました。 当時は,DTPによる制作ラインは,まだ地元長野地域の印刷業界にはそれほど普及しておらず,DTPと言えば「MacDTP」がほとんどでした。私がDTPに関わっていく上で幸いだったのは,試験を受験する1年前に当社内にPS出力対応のDTPシステムが導入されたことでした。その立ち上げから運用のリーダーを任されたことも受験を決意するきっかけとなりました。

試験の準備期間は約2カ月ぐらいだったと思います。JAGATから出版されている試験対策教材や試験問題を買いあさり,教材を読みながら繰り返し試験問題を解くという勉強方法で,東京まで行って対策講座やセミナーを受講する気もなく,もっぱら独学でした。実務などでは全く関わっていない内容も数多くあり,その分野についてはただ問題と回答を丸暗記するといった状態でした。結果は,自分で思っていた以上に正答率が高く,運良く1回の試験で合格することができました。
試験自体の知名度も当時は低かったのでしょうか。受験者も長野地域にはあまり多くはいなかったと思います。合格した時,その喜びを当社社員や業界のメンバーに伝えたかったのですが,「へぇ〜すごいね。何それ?」というような反応で,少々寂しい思いをしたこと覚えています。
出題内容の中には,「こんなことを覚えても何か役に立つのだろうか?」と思うような知識や概念もありましたが,その後のCTPラインの立ち上げやデータベース関連の実務作業などの中で,実際にその場面に出くわすことも多くありました。特に何のことか分からないまま丸暗記したような内容について,実務でその内容を再確認できたときは,「これって,そういうことだったのか!」とすっきりとした気持ちになりました。
私の中では,現在でも約8年半前にこの試験のために勉強し修得した基礎知識が,これまで次々に登場してきた印刷関連の新しい技術や概念に対応するための「よりどころ」になっている気がしています。

激しい環境変化とDTPエキスパート認証試験の存在
この10年,私たち印刷業界を取り巻く環境は大きく変化し,現在も変化しつつあります。
その変化の状況を具体的に思い起こしてみますと,

  1. 組版部門のある印刷会社であれば,それまでの専用機のみのラインだった状況から,少なくとも1ライン以上「DTPによる制作ライン」を所有するようになりました。
  2. デジタル出力のイメージセッタの導入が進みました。最近では,CTPの導入も当たり前になっており,同じデジタルでもフィルム出力は減少の一途をたどっているようです。
  3. DTPについても,Windows環境でも動作するアプリケーションが増え,「WindowsDTP」も一般的となりました。
  4. デジタルカメラの普及により,画像素材のデジタル入稿が急増し,「RGBワークフロー」なる新しいソリューションが登場しました。
  5. パソコンの急激な一般大衆化によって,顧客からのデジタルメディアへ要求が強まり,その対応が急務となりました。その分野では,XML技術なども注目を浴びました。
少し考えただけでも,いくつもの項目を挙げることができ,「デジタル化の波」は確実に印刷業界を飲み込んだことを思い知らされます。
DTPエキスパート認証試験は,その激しい変化の中で,常に印刷業界の人材に求められる知識と方向性を示す役割を果たしてきたように思います。その試験合格後も,資格継続のためには2年に1度の更新試験が義務付けられ,更新試験の内容を見ても毎回新たな項目が加わっています。まさに印刷業界を取り巻く環境変化への迅速な対応の意図が感じられます。
この試験への取り組みを社員教育の一環として取り入れる企業が増えるなどで,印刷業界全体としても資格保有者が年々増えています。これは大変望ましい状況であり,この試験を社員教育や人事評価の一環として企業が採用していくのはとても有意義であると感じます。

前にも述べましたが,試験内容の中には,確かに実務に関係ない内容も多く含まれていたり,知らなくたって実務には影響ないと感じられるものも多くあります。しかし,自社で取り組んでいない技術や知識についても体系的に学べるメリットは大きいと思います。知らなくたって実務はできるかもしれないけれど,知っているに越したことはないわけです。私は物事の原理原則をしっかり学ぶことの大切さは,いつの時代もどんな分野でも変わりないと思っています。特に激しい環境変化の中,印刷業界の将来を担っていくべき若い世代の皆さんには,ぜひこの大切さを理解した上でこの試験にどんどん挑戦していってほしいものです。
顧客との対応の面でも,広い知識が必要な時代です。IT技術が急速に普及する今日では,パソコンに関してはかなり詳しいお客様もいらっしゃいます。そのような顧客の要望に対して,営業マンが何を言われているのか分からないようでは,その会社の信用も危うくなります。営業マンもこの試験に挑戦し,幅広い知識を身に着けることをお勧めしたいと思います。
いろいろな意味で,DTPエキスパート認証試験への取り組みは,印刷業界がこの難しい局面を乗り切るための「よりどころ」としては十分なものと,私は感じています。

今後の「DTPエキスパート認証試験」のあり方について思うこと
印刷業界の激しい変化の中で,DTPエキスパート認証試験の果たしてきた役割が大きいことは間違いありませんが,今後この試験はどのように展開していくのでしょうか。
印刷業界に求められる役割の多様化とともに,資格試験もいくつかに細分化していくのではないかと予想できます。現在のDTPエキスパート認証試験の内容を見ても,勉強を通じて広範囲な知識に触れることができる点ではもちろん有意義ですが,少々広くなり過ぎている気もします。何らかの基準で出題範囲を分けて,試験区分を分けていくような方向もあり得るのではないでしょうか。
2006年3月からは,JAGAT認証のクロスメディアエキスパート認証試験の実施が決定されました。その出題内容を見ますと,今後将来に向かって印刷業界に求められる一つの典型的な人材像を表しているように思います。DTPという名前ではないものの,試験区分の細分化の方向とも感じます。こちらに関しても,今後大いに注目していきたいと思います。

 

 
JAGAT info 2005年12月号

 
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2006/01/04 00:00:00


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