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印刷物製造工程のカラーマネジメント

 印刷物製作におけるプリプレス工程は,フルデジタル化が進んだが,各デバイスにおける色再現は,多様な環境条件もあり問題点も多い。この色再現を,効率良く運用する手段として,カラーマネジメントシステムがある。これは,スキャナやデジタルカメラなどの入力デバイス,モニタやプリンタなどの出力デバイス,そして最終印刷に至るまでの工程において色再現をトータルに管理するための技術である。

RGBデータによるワークフローの変化

 デジタルカメラの高品質化に伴い,印刷原稿としてRGBデータがごく普通に入稿されるようになった。印刷会社におけるRGBデータ入稿は,前年と比較して47%増加したという調査結果もある(デジタルカメラによるRGBワークフローアンケート,JAGAT2005年9月実施)。
 RGBデータ入稿は,従来のフィルム入稿に代わって増加しており,印刷原稿の大部分がデジタルカメラを使用したデータ入稿に置き替わる可能性がある。

 また,RGBデータは,プリンタやWebなど多様な用途に使用できる。このようなRGBには基準が必要とされ,その色を決めるための入れ物,すなわち色空間(カラースペース)が,sRGBやAdobeRGBという名前で呼ばれているものである。
 sRGBは,IEC(国際電気標準会議,International Electrotechnical Commission)が策定した色空間の国際標準規格である。CRTの色表現をベースに策定されており,モニタやプリンタなど機器の違いに左右されない,意図したとおりの色を再現するための表現形式を定めている。

 AdobeRGBはAdobe Systems社が提唱したカラースペースである。一般的なモニタなどで採用されているsRGBに比べて,より広い色域を持っており,DTPワークフローでは一般的なカラースペースとして利用されている。
 この比較的印刷に向いているAdobeRGB標準色空間をベースに使用することにより,カメラマンや得意先,印刷会社など複数の環境の中で,モニタ上で印刷色をシミュレーションするなど色の共有ができるようになる。

 一方,CMYKの色空間はAdobeRGBやsRGBよりも狭い部分がある。したがって,RGBデータをCMYKデータに変換する際は,カラースペースの違いから,全体の圧縮などを中心とした,それぞれの色の情報を限られた範囲内に対応づけ変換するマッピングと呼ばれる処理が行われる。
 したがって,RGBやCMYKなどカラースペースの異なる状況で色変換やデータ運用をする場合は,基本的に色空間の広いRGBデータを保存するという考え方がある。色の情報として,幅広く持っているものを残し,それを利用していくことは,情報が狭くなってしまったものから再運用するよりはよいということである。

 また,RGBデータのCMYK変換は,画像補正処理後に行うことが望ましい。CMYKに変換したらできるだけデータを修整しないことで画像品質を保つことができる。つまりデジタル画像データはRGBデータの段階で,補正済みの確定した画像データにしておき,印刷条件に最適化した変換処理等を印刷直前の段階で行うことが望ましい。
 印刷条件が特定されていない画像のデジタル化は,RGBデータとして取り込み運用することで加工性や汎用性が高くなる。すなわち,デジタル画像データの運用は,RGBベースで構築しないと汎用性に欠けたものになり,用途も限定されることになる。

 近年,印刷会社で扱われる画像データは,印刷物製作だけではなく,Webへの掲載やデータ配信,マルチユース対応など幅広い用途に利用されるようになった。したがって,従来CMYKデータを中心に行っていた印刷会社のプリプレス工程は,RGBデータとの混在作業が主流になっている。
 デジタルカメラによるRGBデータが,上流工程である得意先から入稿することや,RGBカラースペースがCMYKのカラースペースより広く,汎用性が高いことなどから,印刷会社におけるRGBワークフローが重要になっている。

カラーマネジメントのためのインフラ

 近年のDTPによるフルデジタル化,CTPの普及,高速ネットワークの実現により,印刷工程のデジタル化が急速に展開した。これらの流れは,従来のアナログ作業からの工程の置き換えだけではなく,自社のスタイルに合ったワークフローの構築が鍵になる。さらに,カラーマネジメントがポイントになっており,入力から印刷までの一貫した色管理を実現することが重要になる。
 カラーマネジメントの基本は,デバイスの特性に依存しない(デバイス・インディペンデント)色再現の実現である。しかし,スキャナ,モニタ,プリンタなど,入出力のデバイスにはそれぞれに特有の入出力機構と特性があり,色再現域にも違いがある。

 そこで,あらかじめどのような印刷物をシミュレーションするのか基準を決めておく必要もある。その色再現をICCプロファイルというデータで用意する。
 ICCプロファイルとは,ICC(International Color Consortium)により策定された,あるデバイスがどのようにカラーを再現するか,そのカラースペースや特性について記述したファイルであり,実体は変換テーブルである。RGBとCMYK の間で色の設定を変換する場合や,モニタやプリンタの色を調整する場合に参照することで,より正確な色の再現性を得ることができる。

 例えば,画像データをAdobeRGBによって運用,管理するとどのような効果があるのだろうか。モニタをAdobeRGB対応に統一することで,どの場所のモニタでも同じ色域で見るベースができる。これは,カメラマン,デザイナー,得意先,印刷会社など複数のモニタの条件を合わせることで,sRGBではできなかった印刷における色再現を,より広い色域で実現することができる。
 従来,AdobeRGBは印刷再現ができても,それを確認できるモニタが存在しなかった。したがって,モニタに再現できない色は調整のしようがないのでsRGBデータで十分という意見も多く聞かれた。

 ナナオの「EIZO ColorEdge CG220」は,AdobeRGB色域に対応したキャリブレーション対応カラー液晶モニタである。滑らかな階調表現や製品出荷時にガンマ値を最適化している。従来の液晶モニタが抱えていた階調表現,個体差,色再現域という問題を改善している。また,AdobeRGBの色域に対応することで,印刷,広告業界で基準とされている色域をカバーし,モニタプルーフによる効率化などに活用することも可能である。
 今後,このようなAdobeRGB対応のモニタの普及によって,より印刷の色に近い色域表示が可能になり,印刷業界の環境を含めたワークフローにも大きな変化をもたらすであろう。

 これらの実現のためにモニタプロファイルは重要である。モニタの発色は固体差や経年変化もある。ガンマ値を調整しても,人間の眼は調整したカラーに慣れてしまうため,ガンマ値のカーブだけでは正確なモニタ調整はできない。
 また,モニタのカラー再現をより正確にするためには,測色計を利用してモニタ上のカラーや濃度を測定して正したモニタプロファイルの作成が不可欠である。

 きもとが扱うGretagMacbeth社のProfile Makerは,スキャナ,デジタルカメラ,CRT,液晶モニタ,プリンタ,印刷機など,デバイスのICCプロファイルを作成する。その他,分光反射率を測定する測色器Eye-oneやソフトウェアRIPの機能を搭載する O.R.I.S. Color Tunerなど,カラーマッチングツールを揃えている。

印刷工程の数値管理による標準化

 印刷工程が抱える色の問題は,人や眼の感覚に依存する部分が多く,表現が曖昧であったり,印刷の色再現を経験と勘に頼っていることなど解決しなければならない課題が数多くある。
 従来,印刷の色管理は印刷会社ごとに違っていることが当たり前であった。さらに,一つの印刷会社の中でも機械や担当者ごとによって違いがあり不安定な要素になっていた。また,企業によっては,品質重視であれば手間やコストを惜しまない傾向も少なくなかった。

 これらは,印刷が工業製品であるという考え方から反しており,常に安定した品質の印刷物をクライアントに提供できる環境を構築しなければならない。これらの改善のため,各工程の数値による管理が大前提になる。
 例えば,印刷の標準化への取り組みに期待するものとしては,見た目による印刷から脱却して,数値管理によって印刷状態を把握し,印刷の刷り上がり状態を均一化することである。そのためにはデータ収集と分析,機器の保守とメンテナンスルールから整備することが求められる。

 印刷色のICCプロファイルは,印刷会社が自社の印刷色再現を標準化した後に用意して,制作側に供給するのが一つの理想である。
 しかし,近年のオープン化したワークフローでは,個別の印刷会社の色ではなく,広範囲のメンバーが共有できる印刷色再現の基準が求められている。米国ではSWOP,欧州ではEuroPressという標準色が定められ,プロファイルが用意されている。日本では,国内の平均的な印刷条件を基準にしたJapan Colorなどの基準色が利用されている。

 Japan Colorは,ISO制定規格のためのISO/TC130国内委員会が,社団法人日本印刷学会の協力で制作したオフセット印刷のための色標準である。共通の色基準を利用することにより,色に関する議論が的確にできるようになり,印刷工程管理の標準化が容易になる。
 また,雑誌広告基準カラー(JMPAカラー)は,社団法人日本雑誌協会によって定められた雑誌広告におけるオフセット輪転機をターゲットにした色の基準である。特に雑誌広告デジタル校了ワークフローにおけるカラープリンタ等の色標準について定められており,大手広告主にも採用され雑誌広告業界の基準色として浸透している。

 この基準を色の確認が必要な広告主,広告会社,制作会社,出版社,製版・印刷会社間で共有することにより,色校正ワークフローの大幅な改善が可能になる。この運用により広告主は,印刷会社からの校正刷りを見なくても,上流工程で最終印刷に近い品質確認ができる。よって校正刷りの必要がない一方通行のワークフローが実現する。
 Japan Colorとの相違点は,Japan Colorが国内のオフセット枚葉印刷色標準を定めたものに対してJMPAカラーはDDCPやカラープリンタの色基準を重点に定めたものになる。標準インキ,標準用紙,標準印刷条件の数値および許容誤差範囲などは,実際に運用するなかで広告主の意向を受けて設定する必要がある。

 一方,新聞用Japan Color(JCN:Japan Color For Newspaper)は,新聞印刷における色標準である。新聞用印刷における標準的な用紙とインキを使い,標準的な印刷条件で印刷した場合の色の基準を明度,色相,彩度を示すL*a*b*値で表現している。新聞広告用カラー原稿のデジタル送稿や各新聞のカラー広告の色調にバラつきが発生しないようにするための基準である。
 雑誌広告や新聞広告関連では,色についての標準化は実現段階ではなく普及段階にきている。

 印刷工程の数値管理による標準化は,常に安定した印刷物を生産するためのベースになるもので,今後の印刷会社における生命線になる。
 また,デジタルデータ入稿が進むにつれ,色管理の重要性が増してくる。最終的にはカラーマネジメントされた入稿データにおいて,色確認作業が不要になる可能性もある。

(月刊プリンターズサークル2006年1月号「企画特集」より)

2006/01/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会