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てんやにみる顧客をつかむプロモーション その2

3万人のモニターの声を経営政策に反映

運営を進めていくに従って、会員の中でも特に積極的に「てんや」を応援したいというファンによる「てんや応援団」という名称のモニター組織の活躍が顕著になり、登録している約3万人の応援団の声を経営政策にまで反映するという動きが生じてきた。会員とのコミュニケーションを通じて、実際に販売メニューの立案を行ったり、新しい店舗のプレオープンのセレモニーに招いて店内を見てもらったり、商品を試食してもらいコメントをもらうというような実績が生まれてきた。現在では、CS経営の意思を決定する存在感のある会員組織となっている。
「てんや」では、四季折々の食材を用いたメニューをワンシーズンに2〜3回キャンペーンメニューとして提案している。
これまでは、担当責任部署である商品開発部が商品を提案し、プロモーションを担当する営業企画部や販売する店舗所属の営業部の部長、あるいは経営者が試食会で新メニューを協議決定していた。しかし、経営陣が選択したものと、現場で働く者との間に大きな相違があり、メニュー決定が思うように進まなかった。
こうした時に、てんや応援団のモニターを登場させてみたらどうかという提案が持ち上がった。日ごろからアンケートやクイズに慣れ親しんでいた会員たちだったので、スムーズに受け入れられた。案件を応援団にお願いするところからスタートして、メールを作成して配信し、簡単な集計をするだけなら1時間も掛からない。選挙の開票速報のような感覚で、4000から7000の回答を得られる。
いつでもメールの向こう側には、「てんや」をよく知ったモニターがスタンバイしていることは非常に大きな強みとなった。また、このアンケートは単に会社の意思決定を促すという役割だけでなく、会員への次のメニューの事前告知という、プロモーションにもなっている。発売までの期待感を盛り上げ、口コミ力につながり、発売スタートと同時に売上実績となっているのだ。

メールでフォローできないシルバー層は

店頭でコミュニケーション
「てんや」では、ロイヤルカスタマーである高齢者への働き掛けも行っている。リピート率が高く、口コミも上手な既来店の高齢者は、パソコンや携帯電話を利用しないというだけで、メールプロモーションに参加できないのは大変惜しいと考えた。てんや倶楽部は、インターネットとメール環境がなければどんなに足繁く通っても優待が受けられないというデメリットがある。なぜ割引きが受けられないのか、という顧客からの声も多くあった。そうした人たちの店離れを防ぎ、引き続き来店してもらえるように、シルバー会員というシステムを作った。
60歳以上に限り、店舗に置いてある「お客さまの声はがき」を利用したメンバーズカードの発行をサポートすることにした。はがきと引き換えに郵送でカードを送ることも可能だが、必ず来店してもらい、売り上げが発生してからカードを手渡すようにしている。
てんや倶楽部の会員と違い、月々の優待情報を知らせる手段がなく、郵送でのDM発送も考えていない。そのため、店で「今月の優待は何か」と聞いてくるシルバー会員に対して、従業員がコミュニケーションを取りつつ返答していくという形を取っている。現在は約1000名を超えるシルバー会員がいる。
Eメールや携帯電話だけでは拾い切れないシルバー層を取り込むために、インターネットだけでなく紙媒体も利用した試みだ。

新たなマーケティングへの挑戦

メールからWeb経由の来店のほか、モバイルメールとファックスという流れもあり、それを生かして予約販売を受け付けた例を挙げる。
家庭にパソコンもしくは携帯はあるが、プリンタがない人向けのものだ。まず、イベントの予約受け付け開始を知らせるメールを配信する。予約する意思がある人はファックス番号を返信してもらう。予約券を送信し、その予約券を持って会員が来店するという仕組みである。あらかじめ、ファックス番号を知らせてくれた、予約意思のある会員だけに送信されるものなので、一切の無駄打ちがないというメリットがある。
今注目されている有効なメディアとしてブログが挙げられているが、今後はブログサイトによる新たなマーケティングを考えている。これまで会員と「てんや」とのコミュニケーションはメールを通じて行ってきたが、会員同士、顧客同士といったコミュニケーションの場がなかった。よって、ネット上にコミュニティを設けて、新たなマーケティングへの挑戦ができればと考えている。
全くゼロからの立ち上げではなく、てんや倶楽部というネットユーザーの確保ができているため、同じインターネットというフィールドでの仕掛けは成功するのではないか。開設から3カ月でひと月に2万7000ページビュー、1年後にはひと月に6万7500ページビューを目指したい。

以上テンコーポレーションの取り組みを紹介した。新規の顧客を獲得することも大事だが、既存の客をつなぎ止め、再び来店してもらうにはどうすればいいのか? てんや倶楽部の会員に送られてくるメールは、決して事務的な口調ではなく、書き手の気配を感じさせ、親近感がわくような言葉で書いてある。加えて、この春に行われたイベントのように、参加者意識を盛り上げる工夫も忘れていない。「来店数記録にチャレンジ」したこのイベントは、1日の来店者数の記録更新に応じて、天丼無料券をプレゼントしたものだ。
適度なタイミングでメールを送り、双方向のコミュニケーションを図り、「てんやを応援したい」といった一体感をもってもらう。
インターネット、Eメールや携帯電話を利用したプロモーションは、比較的効果測定も容易で、企画によっては高い効果が期待できる。しかし、同社のような幅広い顧客層をもつ企業にとっては、インターネット、Eメールや携帯電話などだけでは販促活動をカバーし切れない。そういった意味で各メディアの特性を理解してうまく活用することが、これからのプロモーションに求められるであろう。

その1 | その2

『プリンターズサークル6月号』より

2006/06/14 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会