出版コンテンツの一元管理とは

掲載日:2015年7月9日

*講談社とNECは、2014年9月に印刷物や電子書籍用のコンテンツ制作・管理システム、スマート・ソース・エディター(以下SSE)を開発し、本格運用すると発表した。さらに、2015年6月にはKADOKAWAが同システムを導入すると発表されている。出版社によるコンテンツ管理のねらいとは何か。

スマート・ソース・エディターが実現する 「コンテンツファースト」

page2015では、講談社デジタル製作部次長の増子昌也氏がSSEによるコンテンツファーストについて、講演した。

印刷用データを2次利用してEPUBへ変換すると、DTPアプリケーションのバージョンや文字コードの相違によって、一から校正せざるを得ない状況となる。文芸作品を文庫化するだけでも、実際には一から校正している。これらの問題を解決するには、テキスト情報の中身を紙でも電子でも使い回しがきく状態で保存することである。

SSEの保存形式は、独自のXML形式でUnicodeを採用している。これからの書籍の制作、将来的には雑誌の制作も、このツールを使ってコンテンツファーストという考えでいきたい。
SSEの文字表示は、情報処理推進機構(IPA)が提供している5万字強のIPAmj明朝フォントを採用している。Unicodeであるため、そのままInDesign、EPUBへ文字情報を引き継ぐことができる。
数字や欧文の全角半角の検知や一括修正といった原稿整理機能や、表記統一、誤用、送り仮名規準などをチェックする校正支援機能や校閲機能も備えている。
初校の組版や電子書籍製作については、各印刷会社内でSSEコアデータから一括変換しているため、作業期間を大幅に短縮することができた。

保存形式がXMLのため、将来的に特定のアプリケーションやOS、バージョンに依存することがない。SSEコアデータを中心に雑誌の連載や単行本、文庫本、電子書籍などの多メディア展開を容易に実現することができる。
SSEの画面は原稿用紙のイメージである。文字修飾として「強調」というタグが表される。書体名や具体的な文字サイズではなく「強調の何番」と設定する。 入稿する際に「強調1」「強調2」との対応を指示する方式である。強調番号で指定するのは、作業するアプリケーションが、InDesignやMCB2による紙の本を作る環境とは限らないためである。

これが、講談社の考える「使い回し」がきく汎用データである。著者からお預かりしたデータを将来的に提供し続けるための仕組みである。
現時点で、この仕組みで300点以上の書籍を製作した。将来は、雑誌のネーム・コミックの吹き出し等にも使用していきたい。併せて、写真や画像・素材の管理等も同時におこなえるような仕組みを検討していきたい。

※page2015カンファレンス「これからの出版コンテンツ制作」より

出版社によるコンテンツ管理のメリット

日本電気でSSEの製品企画を担当する放送・メディア事業部マネージャーの東朋広氏にも話を伺った。

日本電気では、数多くの新聞社向けに日本語組版や校正システム、コンテンツ管理システムなどを納入してきた。出版社向けの校正システムにも長年、関わってきた経緯がある。

多くの出版社では、いわゆる最終原稿のデータ管理ができていない。電子書籍用、印刷用コンテンツの一元管理もできていない。アプリケーション依存のコンテンツでは、再利用するたびにデータ変換が必要となり、そのたびに校正作業が発生してしまう。さらに、将来のアプリケーションやOSのバージョン変更のたびに、互換性問題が起こる。

これらの問題を解決し、さらに編集者の原稿整理・校正作業を効率化することができるのが、SSEである。

SSE では、Wordデータの取り込みや、書籍のイメージに合せて縦書き・横書き表示が可能である。学年別の学習漢字の検出、自動ルビ付け機能、独自の形態素解析技術と講談社の辞書による高度な校正機能を実現している。
校正済みの最終テキストを入稿するため、印刷と電子書籍の同時進行が可能になる。最終原稿を出版社自身で管理しているため、将来の2次利用も迅速に対応できる。

出版社自身による最終原稿の管理、コンテンツ一元管理は大きなメリットがあり、今後の出版社のトレンドとなるのではないか。

出版社によるコンテンツ管理と今後の可能性

SSEでは、独自のシンボリックなタグ設定によるXMLテキストを書き出すことで、印刷用にも電子書籍用にも展開できる汎用性を持っており、印刷物と電子書籍の同時刊行や文庫化などの将来的な2次利用もローコストで実現する。
講談社、および日本電気は独自のXMLフォーマットを今秋には一般公開することも予定しているという。

これまで、多くの出版コンテンツは印刷会社によるDTPデータが最終データとなるケースが多かった。
例外は、早くから電子化が進んだ辞書コンテンツと大手通信教育企業で進められている教育コンテンツだろう。XMLデータとして一元管理されているため、電子化や2次利用の際に有用である。アプリケーションやOSのバージョンの影響もない。
また、一般の製造業でも製品マニュアルや技術ドキュメントの分野でXMLコンテンツの一元管理に移行している例が増えている。

完成度の高い原稿制作、コンテンツの一元管理を実現することで、印刷物と電子書籍の製作がよりシンプルとなり、費用面でも納期面でも大きなメリットとなるのは間違いないだろう。

(研究調査部 千葉 弘幸)