未来に向かうための視座を考えてみよう

掲載日:2022年6月9日

5月8日まで21_21 DESIGN SIGHTで開催された展覧会「2121年 Futures In-Sight」展を通じて、私たちはこれからの世界をどのような立場で描くべきかを考える。

21_21 DESIGN SIGHTは、2021年12月21日から2022年5月8日まで「2121年 Futures In-Sight」展を開催した。展覧会開始の2021年から100年後の世界に焦点を当て、各分野の専門家が未来への多彩な視座を提示する企画だ。

「2121年 Futures In-Sight」展示会場

「2121年 Futures In-Sight」展 会場風景

未来予測ではなく、未来を考える人の行為をテーマに

展覧会ディレクターは、未来をプロトタイプするメディア『WIRED』の日本版編集長の松島倫明氏。デザイン・アート・科学など各分野で未来への確かな視座を持つ72名に呼びかけ、多彩な洞察(インサイト)を集めて展示を構成した。

本展のために「Future Compass」という羅針盤ツールが考案された。5W1H・時間・行為の3層から成る円盤に合計21のキーワードが記されている。

Future Compass

参加作家は「Future Compass」からキーワードを自由に選んで「How / Future / Create?」のように組み合わせ、そこから想起される未来への問いとインサイトをもとに作品を制作した。そのいくつかを紹介する。

Qosmo × 朝日新聞社メディア研究開発センター

Qosmo × 朝日新聞社メディア研究開発センター「Imaginary Dictionary -未来を編む辞書」

「Imaginary Dictionary -未来を編む辞書」
未来に存在しているかもしれない言葉の辞書を作るプロジェクト。時代の変化は「就職氷河期」「ワクチンパスポート」などの新しい言葉を生み続けている。朝日新聞社が保有する記事データから将来の言葉の環境を推測し、そこから新語とその意味を生成している。言葉を通して多様な未来を推測する試みである。

舩橋 真俊

舩橋 真俊「メタ・メタボリズム宣言―Improvegetation」

「メタ・メタボリズム宣言―Improvegetation」
舩橋氏が提唱するメタ・メタボリズム宣言は、自然と都市の共生を目指し、都市と建築のメタボリズム(新陳代謝)を実現させる方向を示したものだ。本展では、人工物を模したモノクロームの直方体が林立する合間に、色とりどりの植物を配置したインスタレーションを展示。人間活動によって生態系を拡張することで生まれる新たな原風景の予感を提示している。

参考:『人は明日どう生きるのか―未来像の更新』編者:南條 史生、アカデミーヒルズ/企画協力:森美術館 /発行:NTT出版 (2020)p.50-72 「メタ・メタボリズム宣言」(船橋 真俊)

長嶋 りかこ

長嶋 りかこ

グラフィックデザインの仕事を手掛けるなかで生じた校正紙などの廃棄紙をちぎり、竹尾の協力でファインモールドに再生。その上に、複数行にわたる1センテンスのテキストを印刷した。遠い未来から2121年を回想することから始まるこの作品は、過去・現在・未来をひとつなぎにし、一児の親として、デザイナーとして感じる未来への不安と希望をつづっている。

岡崎 智弘

岡崎 智弘「手でつくる時間」

「手でつくる時間」
100年後に人間の手作業がどう変化するかという問いから始まった映像作品。1分計の砂時計の砂が落ちていく様子を、ストップモーション技法を用いてアニメーションで再現した。完成したアニメーションと、1コマ1コマを手作業で再現する制作過程の映像を表裏で展示している。アニメーションの上映時間は1分であるが、制作過程の上映時間は10時間4分にも及ぶ。


展示作品はいずれも、現在の個人と社会と自然との関係に対する作家の問題意識が根底にある。一方、他者と自然への理解と共感をもって科学・技術を活用していくことで、現状を突破する可能性を示唆している。

目の前の環境変化に追われるのではなく、自ら時代を作るという立場に立つためのヒントを与えてくれる展覧会であった。

「2121年 Futures In-Sight」展 展覧会ウェブサイト →

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

会員誌『JAGAT info』 2022年2月号より抜粋・改稿

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