頁数の多い専門書などは、何か月にもわたって校正を繰り返しながらDTP制作をすることが珍しくない。
DTP制作部門の生産額を売上金額を基準に算出すると、受注してから納品して売上が立つまでの期間、その仕事のDTP制作の生産額はゼロとなり、みかけ上は何の仕事もしていないことになる。そこで、何かしら仕掛りとして金額評価が必要となる。 仕掛り金額の算出方法にはいくつかの考え方がある。
1)標準原価を使って算出
DTP制作部門は作業を行うと作業項目の標準原価を生産額として計上する。受注番号とあわせて登録することで、売上が未計上の受注番号に紐づいた標準原価の合計金額を仕掛り金額として算出することができる。
この場合の難点は、標準原価の合計がDTP制作の売上金額を上回ってしまうことがたびたび起こることである。というのは、標準原価は、製造現場の視点で設定項目が決められるため項目が細かくなる傾向にある。特に、DTP制作では作業の種類が多い上にサイズや難易度ごとに設定される。現場で作業実績を記録するときには、仕様が明確なので大きな問題にはならないが、見積りのタイミングでは、仕様が完全に見えているケースのほうが少ない(画像点数や組版難易度など)ので、頁数×ページ単価でざっくり見積ることになる。このギャップが売価と標準原価の逆転を生むことになる。
2)売価を使って算出
初校を提出したタイミングで、売価を基準に仕掛金額を計上する。例えば、ページ単価1000円で受注し、全300頁のうちの10頁分の初校を出したら、1000円×10頁=10,000円が仕掛金額となる。
この場合、初校で校了となるケースはよいが、再校、三校と校正が繰り返されるときの計上の仕方が問題になる。手間と効果のバランスを考えて、割り切って無視するというのも一つの考え方である。 気になる場合は、校正段階ごとに金額を加算していき校了時に100%となるようにする。例えば、頁単価1000円として、初校提出で400円、再校で300円、三校で200円、校了になると残り100円を計上するような考え方である。校正段階ごとの比率は経験則で設定する。納得感が出る反面、手間がかかる。
3)実際原価を使って算出
実際原価とは、作業時間実績×DTP制作部門の時間コストで算出する。作業の実績時間は受注番号に紐づけて記録し、仕掛り対象の受注番号の実際原価の合計が仕掛り金額となる。この場合も仕掛り金額が受注金額を上回ることがあるので注意が必要である。仕掛り金額が受注金額を超えた場合は、受注金額を仕掛り金額としているケースもある。
4)どんぶり勘定する
商業印刷が中心で短納期の仕事が多い場合は、そもそも仕掛りの件数が多くないので、受注残の合計金額の50%なら50%と比率を決めて機械的に計算する。ルールさえ一定であれば多少精度が粗くても問題ないだろう。逆にいうと問題があるようであれば対応策を考えることになる。
いずれにしても正確さの追求よりも、手間と効果のバランスが重要になるだろう。
(研究調査部 花房 賢)