12月7日〜9日に開催された環境総合展「エコプロ2022」から、製紙メーカー、印刷関連企業による環境配慮の取り組みを紹介する。
日本経済新聞社が主催する「SDGs Week EXPO 2022」が2022年12月7日(水)〜9日(金) に東京ビッグサイトで開催された。
本展は「エコプロ[第 24 回]」「社会インフラテック[第5回インフラ維持管理・老朽化対策総合展]」「カーボンニュートラルテック[第2回]」「自然災害対策展[第4回]」「ウェザーテック[第2回]」の5つの展示会で構成され全体の出展規模は、474社・団体 947小間、来場者は3日間合計で61,541人だった。
会場では、持続可能な社会に向けた多岐にわたる取り組みが提示され、盛況となった。
全国各地の自治体の出展もあり、地域産業を生かした資源循環の仕組みなどが紹介された。
また、若い世代への訴求にも力を入れており、大学・教育機関も多数出展、若い世代が主役のセミナーも実施された。
本稿では、「エコプロ[第 24 回]」(エコプロ2022)より、印刷と製紙分野での取り組みを紹介する。
ナノセルロースの開発と実用化
ナノセルロースは、植物由来のセルロースを微細な単位に分解したものであり、石油系や無機系材料の代替素材として注目されている。プロダクト製品、化粧品などへの採用事例も生まれている。
エコプロの企画展「ナノセルロース展」では、産官学の素材研究や製品開発の現状が報告された。
ナノセルロースジャパン
ナノセルロース分野の発展を目指して2020年に設立された「ナノセルロースジャパン」(略称 NCJ)の活動と会員企業・機関の実績を紹介するパネルとサンプル展示を行った。
以下、出展の一部を紹介する。
製品化されているCNFとして、粘り気のあるスラリー状の「アウロ・ヴィスコ」、透明連続シート「アウロ・ヴェール」、パウダー状CNFのサンプルを展示。アウロ・ヴィスコは建築現場の資材に、アウロ・ヴェールは卓球ラケットと、実用化実績が生まれているという。そのほか、開発中の素材としてCNFと汎用樹脂やゴムとの複合素材を紹介。また、不織布製造の技術を応用したセルロースマットのサンプルを展示した。
・大王製紙
同社のCNF製品であるELLEXシリーズを紹介した。液状のELLEX-S、粉体のELLEX-P、高い透明度のあるゲル状のELLEX-☆、CNFとパルプ繊維を複合化した成形体のELLEX-Mなど、さまざまな性質を持つCNFを開発している。
実用化事例としてトイレ掃除シート、成形サンプルとしてCNF複合樹脂を使用したスマホケース・スマホスタンドを展示した。
・日本製紙
同社開発のCNF「セレンピア®」シリーズを出展。
今年12月5日にリリースしたCNF配合天然ゴム「セレンピアエラス(TM)」を始めとする素材を紹介し、商品への採用事例として、化粧品分野では日焼け止め・保湿剤、食品分野ではパン・どら焼きやケーキなどのサンプルを展示した。
・北越コーポレーション
北越東洋ファイバーと共同出展。同社のバルカナイズドファイバーの製造に使用されているCNF強化材料を紹介した。
バルカナイズドファイバーは紙を原料としており、曲げても割れないため加工が容易であるほか、強度、耐熱性、絶縁性などにも優れていることから、絶縁材料・機械部品・研磨用基材とさまざまな製品に使用されている。
バルカナイズドファイバーの製造工程では原紙を薬品処理することでゲル状のCNFを生成し、このCNFが絡み合うことで、製品を強化しているという。
ブースでは、バルカナイズドファイバー製の箱やクリップなどのサンプルを展示した。
・丸住製紙
同社開発の高透明・高粘土CNF「ステラファイン®」シリーズで出展。シート状、粉末状、ゲル状のサンプルを展示。CNFの性質を生かして、スプレーした後液だれしないゲルを開発。CNFを配合した香り付きのハンドジェルミストを製品化し、マクアケでクラウドファンディングを実施、現在ストアで販売中である。
富士市CNFプラットフォーム
CNFを活用して産業創出を図るための産官学のネットワーク。現在会員数は182(2022年11月21日 現在)。全国各地の大学、印刷会社、製紙会社ほか幅広い産業分野の企業が参加している。ブースでは、参加企業の事例が多数展示されていた。
印刷会社による環境対応素材の開発
日進堂グループ
グループ企業の日進堂印刷所・トキワ印刷が共同出展。
日進堂印刷所は、紙を半透明にする技術「アートクリア」を2021年に開発した。本展ではこれを活用したプラスチックフイルムを使わない窓あき封筒、半透明の窓付きの紙製ファイルなどを展示した。
トキワ印刷は、工場の断裁クズなどの紙を原料の一部に利用した発泡緩衝材「ワンダーエコ」を開発している。板状の「ワンダーボード」、バラ状の緩衝材「ワンダークッション」がある。従来の発泡スチロールの代替えとして、保冷容器、医薬品の保護、緩衝材などの用途に訴求している。「ワンダーボード」「ワンダークッション」は、2022年10月1日付で、福島県の「うつくしま、エコ・リサイクル製品」に認定されたという。
オフィスで実現する古紙再生
エプソン
乾式オフィス製紙機「PaperLab」の新コンセプトモデルの実演デモが注目を集めた。
ドライファイバーテクノロジーにより、オフィスで使用済みのコピー用紙を、水を使用せずに断裁・繊維化し、結合材を加えてA4のコピー用紙に再生する。
現行機は、シート紙のみ対応ですが、今回は、オプションで専用シュレッダーを開発。専用シュレッダーを各所に設置することで、さまざまな場所から情報漏洩の不安なく古紙を回収することができる。また、古紙の結合剤が現行はポリエステルであるが、新モデルは天然素材を使用しているという。デモの中では、「PaperLab」活用による、自治体を中心とした地域の紙資源循環のモデルが提案されていた。
脱炭素の社会に向けて、植物由来の紙やセルロースの役割は重要になっていくが、市場でシェアを伸ばしていくには、コスト面の改善や、機能面の優位性を打ち出していく必要があるだろう。各社とも、これらの点を課題として取り組んでいる様子がうかがえる。
ただし、SDGsをテーマとしてこれだけの規模の展示会が開催できるほどに、人々の意識が高まっている状況がある。開発の流れは止まらないであろうし、より高品質・高機能で普及しやすい素材が生まれていくのではないだろうか。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)