財務会計と管理会計の結果を一致させるべきか?

掲載日:2023年2月9日

最初に財務会計と管理会計の違いについて整理しておきたい。

財務会計は税務署など外部への報告が主な目的であり、過去の数字をルールに則り正確に記載することが求められる。一方で、管理会計の目的は経営判断を助けるためにあり、未来に対して手が打てることが重要で、正確性(厳密さ)よりもスピードが重視され、自社に適したやり方でかまわない。

そもそも目的が異なるので、結果が異なるのは当然だと考えるが、結果の一致にこだわる考え方もある。印刷業界でのこだわりは、 財務会計の月次収支と 管理会計での一品別収支の月次でのトータル金額を同じにするというものだ。

一致しない原因は、管理会計の一品別収支で社内の製造原価を計算するときに用いる時間コストによるものだ。時間コストは対象となる部門ないし設備の年間固定費÷年間稼働時間で算出する。年間固定費は昨年実績ないし、次年度予算の数字を用いる。年間稼働時間も同様であるが、勤務時間ではなく「稼働時間」を用いる。稼働時間とは文字通りお金を稼ぐために使っている時間のことで、始業時の準備や終業時の片づけ、会議やメンテナンス等の間接業務の時間は含めない。稼働率はみなしの数値を用いるのが一般的で、なおかつ年間で均した数値となる。

閑散期と繁忙期の仕事量の差が大きい印刷業界では、時期によって時間コストに大きな違いがでる。一品別収支の集計結果(管理会計)と月次の試算表(財務会計)の収支結果の数字があわない大きな要因である。結果を一致させるためには、月次で締めてからその月の固定費の実績数字と稼働時間を使ってリアルな時間コストを算出してから、その数字を用いて一品別収支を算出することになる。

この方法の難点は手間がかかること、タイムラグが発生すること、そして一番の課題は、同じ仕事(作業内容)で同じ時間(効率)で作業しても、時間コストが異なるので収支結果が変わってしまうことと捉えている。一品別収支を把握する目的には、生産性評価もあるので、評価のモノサシが毎月ばらついてしまうのは望ましくない。

稼働率100%として時間コストを設定

財務会計と管理会計の数字を近づける方策として、稼働率100%として時間コストを設定してはどうだろうか。実際に検証してみたわけではないが、考え方のひとつとして紹介したい。

稼働率100%とすると時間コストは低減し、一品別収支は改善する方向に動く。こうして算出した一品別収支の集計結果から最後にまとめて非稼働時間×時間コストを非稼働分のコストとして一品別収支の集計結果からマイナスすることで財務会計の数字に近づく。稼働率が低いと非稼働時間分のコストが大きくなり、稼働率が高いと非稼働時間分のコストが小さくなるので、月次の稼働率の差を吸収できる。設備の稼働実績は設備から自動的にデータを取って、分析まで行ってくれる環境が整ってきているので、今後は非稼働時間の収集にも労力を割きやすくなるだろうし、非稼働時間の内訳を分析することで生産性の改善効果も見込める。

しかしながら、この方法でも財務会計と管理会計が一致するわけではない。昨今のように電力代が急激に上がっているような局面では想定した固定費と実際の固定費のずれが少なからず生じてしまう点には留意が必要だろう。

(研究調査部 花房 賢)