現在、JAGATの会員誌『JAGAT info』の表紙は「日本の形」をテーマに、発行時の季節に合わせたイラストを用いてデザインしている。
『JAGAT info』の表紙は、印刷文化を語る上で欠かせない、色と形の魅力をイラストで表現してきた。
現在は「日本の形シリーズ」として、本誌の発行時期の歳時や風物をモチーフにしたイラストを主体に、和紙のテクスチャーや日本の伝統文様を組み合わせて、季節感と日本情緒が感じられるようにデザインしている。
最近のバックナンバーから、表紙に描かれたモチーフについて解説し、制作手法を紹介する。
2023年2月号 「梅に鶯(ウグイス)」
鶯はよくメジロと混合される。春先によく見られる鮮やかな黄緑色の羽を持つ鳥はメジロ、一方鶯の羽は灰色に近い緑褐色である。
「梅に鶯」は、良い取り合わせの例えであるが、実際の鶯は藪の中に潜んでいて人前には滅多に出てこない。しかしその爽やかな鳴き声は清楚な梅の花に似合い、春の訪れを感じさせる。
曲がりくねった梅の枝に紅梅・白梅、そして一羽の鶯を全てPhotoshopを用いてデジタルで描画している。
本物の鶯は地味な色合いであるが、ここでは、小さいながらも目を引くように少し鮮やかな色合いにして、黄金色に光っているように描いた。
2023年3月号「桜鯛」
卒業・進学・就職など、お祝い事の多い時期であることから、めでたさの象徴である鯛を選んだ。
春先の真鯛は、体色が鮮やかなピンク色になることから、桜の開花時期に重ねて「桜鯛」と呼ばれ、人気がある。初夏の産卵期に備えて深場から浅瀬へと近づくことから、漁獲量も増えるとのこと。尾頭付きの塩焼き、刺身、鯛めし、あら汁、カルパッチョなど、さまざまな料理で楽しんだ方もいらっしゃるのではないか。
鯛を色鉛筆で描き、これをスキャンしてPhotoshop上で色調や細部の描写を微調整し、和紙のテクスチャーと合成した。
2023年4月号「藤」
藤はマメ科フジ属の落葉つる性植物である。日本人は古代からその花を愛で、蔓で布や籠を作ってきた。現在では全国各地の公園や庭園などに藤の花の名所があり、見頃を迎える4月中旬から5月中旬には、薄紫色の長い花穂が連なる幻想的な風景を楽しむことができる。
全てPhotoshopを用いてデジタルで描画している。紫の色合いは難しい。
2023年5月号「鰹」
鰹は海域をまたいで移動する回遊魚であり、生きている間は止まることなく泳ぎ続けている。その活力を維持するために筋肉には血色素が多く含まれ、身が赤くなっている。
鰹の旬は2回あり、春から初夏に獲れる鰹は初鰹、秋は戻り鰹と呼ばれる。初鰹は身が引き締まって弾力があり、脂は控えめでさっぱりとした味わいである。
鰹を色鉛筆で描き、これをスキャンしてPhotoshop上で色調や細部の描写を微調整し、波文様と合成した。本物の鰹の体色はもっと黒っぽいが、新鮮さを演出するために、鮮やかな青色にした。
イラストを描く際は、手書き・デジタルにこだわってはおらず、その時々に相応しい技法を選んでいる。いずれにしても、もっと表現技術を磨かなくてはと思っている。
「日本の形シリーズ」は6月号以降も続く。多忙な日々を送る読者の方々が、本を手に取る一瞬にホッと一息ついていただければ幸いである。
(JAGAT 研究調査部/『JAGAT info』制作担当 石島 暁子)