今年度のJUMP(JAGAT地域大会)開催が、8月21日の東北地区(仙台)からスタートした。テーマである“印刷の「未来を創る」”方向性を探るディスカッションでは、デジタル・ネット時代において紙の印刷物の強みをどのようにとらえ、ビジネスにしていくかに焦点が当てられた。
今年度のJUMP(JAGAT地域大会)の共通テーマに取り上げたジョー・ウェブ博士の『未来を創る-THIS POINT FORWARD』(JAGAT刊)は、「印刷物への愛を語るのはやめよう」という少し耳の痛い話から始まる。そして、印刷業界の現状を、データに裏付けられた(実は驚くべき)事実としてとらえたうえで、印刷業界にとって明るい未来を創るための方向性として、新しいビジネスの構築のための人材や、機材、技術、そしてパートナーシップ等について様々な示唆を行っている。
むろん、ウェブ博士はアメリカのコンサルタントであり、アメリカの印刷業界が前提ではあるが、ポイントは印刷業界を取り巻く経営環境が急速に変化する現代において、どのような方向で経営マインドのチェンジを図っていくべきかにスポットが当てられていることだ。そこで、これを題材に、あるいはきっかけとして、JUMP開催の各地域で議論を重ね、日本における印刷業各社の未来を考え、新たな印刷ビジネスの方向性を見出したいとの思いからテーマとして掲げたものである。
プログラムは、『未来を創る』にあるとおり「まずは事実を知ろう」ということで、最初にJAGAT研究調査部部長の藤井建人より「印刷ビジネスの最新動向2015」と題し、「印刷白書」や「経営力調査分析」などJAGATの研究調査による、データでとらえた印刷ビジネスの最新動向を、周辺ビジネスのトレンドとともに報告、解説を行った。
次に、JAGAT専務理事の郡司秀明が『未来を創る』が示唆する、印刷会社の2020年を見据えたビジネスについてのポイントを解説し、これに続くディスカッションへと導いた。
「印刷ビジネスの最新動向」「未来を創る」に関する報告を踏まえたディスカッションは、モデレータを専務理事の郡司が務め、パネラーにはJAGAT会長の塚田司郎、藤井JAGAT研究調査部長とともに、(株)DIG JAPAN代表取締役の星名 勧氏を迎えて行った。限られた時間ではあったが中身の濃い有意義な発言が多く、JUMP参加者にとっても最大の課題である「自社のビジネスをどう変えていいくのか」について、ヒントとともに勇気やモチベーションが得られたのではと感じられた。
以下、そのエッセンスを各パネラーによるポイントとなる発言やキーワード・センテンスをもって報告する。
- 印刷物(紙)はデジタル(メール等)に比べ圧倒的に人の五感に訴えることができる。
- DM(紙)の弱点と言われているコストと効果測定は、デジタル(メール等)と連携させれば補うことができる。アメリカのマーケターの間では「DMにするかメールにするか」という議論はない。DMを何回打ち、メールをどのタイミングで何通配信するかという予算配分の話だけである。
- メールは中身を見ないで捨てられる事が多いが、その解決手段はアメリカでははるか以前に正解が出ており、それは「紙」を使用することだ。DMは少なくとも誰しも手にとって差出人くらいは確認する。その時に手触りやデザインなど五感に訴えることに心血を注いでいる。
- Googleは、毎年膨大な予算を割いてDMを出している。最たるIT企業が、紙の効果を知っているからだ。
- 日本にありがちな印刷とデジタルをバーサス(対立)でとらえて「紙はダメだ」と結論付けるのは間違い。GoogleですらDM(印刷)とネット(デジタル)を区別していないということだ。
- 単純に統計を考えると、印刷需要の縮小は避けられず、確かに新聞購読者は減り折込チラシも減少していくだろう。しかし紙の質感、手触りなど五感に訴える力で新たな価値の創造、見直しが図られるだろう。
- 日本でインターネットが民間に開放されたのが1993年で、生まれた時からネット環境にあり我々とは価値観が違う世代がいよいよ大学を卒業して社会に出てくる。はじめからモニターで育った世代には、長時間見るためには反射光の方が楽であるといったことを説明する必要があるかもしれない。
- マーケティングオートメーションはあくまで仕組み、ツールに過ぎなく、要はそれを使ったプランニングの提案である。マーケティングオートメーションとデザインをリンクさせるとビジネスになり、印刷会社にはそのような総合的なハンドリングができると固く信じている。
- うちの会社ではそんなことできない(人材もいない)と思う経営者もいるが、クライアントに次に切られないために必死に頭を絞り、トライ&エラーの積み重ねで結果として新しいビジネスになる可能性があり、そのような実例も多々ある。
- 思い切って印刷でダメなことはダメと認めないと始まらない。それを認めた時に、本当に印刷物が必要なところが見えてくるのでは。iPadで検索する今の子供にいくら辞書の必要性、効用を説明してもムダだが、友人とのプリクラのやり取りは紙の台帳でやる。何も言わなくとも彼らは紙の必然性を理解している。本当に紙が必要な場面でこそ、新たな価値、ビジネスが見えてくる。
(CS部 橋本 和弥)
※関連情報
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