日本語組版とつきあう その50
赤字の修正と確認
一般に校正刷に修正を指示する際には赤い色で行うので、校正刷に対する修正の書き込みは赤字とよばれている。この赤字にしたがって組版データの修正を行う。
修正作業の結果に対する点検は欠かせない。この点検・確認作業を赤字引合せという。初校の赤字と再校校正刷の引合せ、再校の赤字と三校校正刷の引合せなどである。
赤字引合せの方法
赤字引合せの作業は、丁寧に、また慎重に行う必要がある。ここで見落とすと、素読みで気づくのに困難な例もあり、誤植のまま刊行されるおそれがある。この作業は、以下のようにするとよい。
まず、引合せのすんだ赤字の箇所は青鉛筆などで線を引き、確認を終えた印をつけておく(赤字消し合せという)。次に、ひととおり作業が終わった段階で確認漏れがないかどうかを点検する。もし、赤字消し合せの印が入っていない箇所があった場合、再度、その部分について赤字引合せを行い、その赤字も青鉛筆で線を引いて消しておき、すべての赤字に消し合せの印が入るようにする。
データの修正と赤字の点検
印刷所などでの組版データの修正作業は、赤字どおりに直すのが原則である。しかし、赤字引合せでは、念には念を入れた確認が必要であり、印刷所の作業の都合で、修正部分を広げ、前後の部分も含めて、修正作業を行うこともある、と考え、修正部分の前後も念のために点検した方が安全である。
この点、活字組版では、文字の直しがあれば、それだけの文字をあらかじめ準備(文選)し、そのうえで組版の修正(差し替え)作業を行ったので、赤字の直しかたがほぼ予想でき、安心して赤字引合せの作業が可能であった。(作業が二段階で行われていたので、確認も二段階で行われることになる。)
これに対し、コンピュータ組版では、赤字どおりに直すのが原則である、ということであっても、不安が残るともいえよう。逆にいえば、データの修正がしやすい赤字、これしか修正の方法はないという赤字にしておけば、赤字引合せで、赤字どおりの引合せが可能になる。例えば、“艶然”を“嫣然”と直す場合、“嫣”の字1字の入力はやや面倒だが、単語の“嫣然”での入力のほうが簡単と考えられるが、こうした場合は、熟語単位の赤字にしたほうがよいであろう。
書式の修正と確認
フォントや文字サイズの修正は、コンピュータ組版では、文字データはそのままで、書式の修正のみで直す。活字組版のように1字1字確認する必要はない。念のため素読みしておけばよいだろう。
ただし、ルビ配置の位置関係を直す場合、文字の入力をやり直す場合も考えられるので、ルビ文字も1字1字確認しておいた方が安全である。
字送りの確認
文字の挿入・削除などに伴う行をまたいでの文字の移動(字送り)の確認では、活字組版では、1字1字を手作業で移動させるので、念のための確認が必要であった。コンピュータ組版では、自動処理なので、文字の順序が変わるようなことはない。ルビ・傍点(圏点)・傍線・行間の注番号なども自動的に移動すると考えてよいが、念のために確認しておいた方が安全である。
ルビも親文字とセットでデータが入力されているので、親文字が移動するとルビなども同時に移動する。しかし、行をまたいだ熟語につくルビでは、親文字との組み合わせで問題がでる場合もあるので、確認は欠かせない。
また、行間に配置する注番号などは配置方法にもよるが、配置位置がずれることがある。
なお、文字の挿入・削除に伴い、行の調整処理もやりなおしとなるので、分割禁止のグループルビなどがある場合など、問題が出ることもあるので注意が必要である。
修正漏れがあった場合
赤字引合せで最も注意が必要なのは、修正漏れがあった場合である。これは活字組版でも同様である。
修正漏れが、純粋な作業漏れであれば問題は少ない。再度、赤字で修正を指示すればよい。しかし、図1に示すように赤字修正の際に、間違って他の箇所が修正される例がある。図1の前の箇所の間違いは、素読みでも十分に注意すれば気がつく例であるが、この種の間違いでは、素読みでの発見が困難な例もあり、注意が必要である。(なお、後ろの箇所の見落としは、赤字引合せでは気づく箇所であるが、赤字引合せで見落とすと、素読みでの発見はややむつかしい。)
したがって、修正漏れがあった場合は、十分に修正箇所の周辺にも注意し、点検しておくことが大切である。
このように、赤字引合せは、原稿との1字1字の引合せや素読み校正とも異なる注意を必要とする。また、コンピュータ組版の処理方法についてもある程度の知識を得ておくことも大切である。
(図1)