今年の『印刷白書2015』は、JAGAT大会開催日に発刊。『未来を創る』をベースに、「マーケティング発想によるデジタルメディアビジネス」を特集のテーマとした。
これからのメディア戦略と『印刷白書』
印刷会社がこれまで得意にしていた顧客のコミュニケーション支援は、印刷物という絶対無二のメディアがOne of themになった。顧客側からは、その分販促チャネルが増えたわけで、複合的（クロスメディア的）なアプローチが可能になってきている。
もちろんスマートフォンやタブレットの普及が拍車をかけていることは言うまでもない。それは消費者が欲しい情報を簡単に手にすることができる消費者主導の時代になったことにほかならない。印刷会社のメディア戦略を考えた時に、デジタルメディアと紙メディアの相乗効果を図ることが必要不可欠になる。
これまでのマスによる広告手法もより効果的なターゲティングが前提になる。欲しい情報を欲しい時に消費者自らが簡単に入手できるからこそ、マーケティングの重要性が増している。
印刷業界ではキーワードになるのは、一気通貫のサービスであるBPOであり、デジタル印刷を前提とした対応であり、それらを可能にするマーケティングオートメーションである。今年の『印刷白書』では、そのことを念頭に置いて、通底するテーマとしての「未来を創る」を取り上げた。
JAGAT大会に合わせて発行
2015年10月9日に椿山荘で「JAGAT大会2015」を開催した。昨年のJAGAT大会では、“Disrupting the Future”（邦題『未来を破壊する』）で有名になったJoe Webb博士をアメリカから招聘した。何もしなければ決して明るくない印刷業界の「未来を破壊する＝明るい未来に導く」ことを意味した同書のタイトルは、日本の印刷業界で合言葉になるほどのインパクトを与えた。
昨年Webb博士は、ポスト『未来を破壊する』ともいうべき「メディアミックスにおける印刷の新たな役割」をテーマに講演した。そして、よりテーマを深掘りして、明確にするために自著“THIS POINT FORWARD”を紹介した。その経緯があって、JAGATで日本語訳『未来を創る』を出版したのである。
『未来を創る』では、マーケティング発想によるデジタルメディアビジネスに印刷会社が取り組むことがチャンスになるといっている。そのツールの一つとしてマーケティングオートメーションを紹介している。JAGATでは印刷ビジネスの可能性を広げるために、印刷会社のマーケティング領域への進出に注目している。
来年2月に開催する恒例のpage2016でも「未来を創る」が全体テーマとなっている。その意味でも「JAGAT大会2015」開催に合わせて『印刷白書2015』を発行することに意義があると考えている。
2015年版の特徴と課題
今年度版も印刷産業の市場規模を推計できる統計資料を一覧表にまとめ、印刷産業以外の方にも印刷産業の全体像を理解してもらえるような構成にした。
第1部「特集・マーケティング発想によるデジタルメディアビジネス」では、デジタル化の総括と今後の新たな挑戦、事業展開、印刷会社がもつべき知識やスキルについても深掘りしており、マーケティングオートメーションの重要性にも触れている。
またデジタル化を乗り切り、自社の強みに転換するために何をするべきか、新技術をいかにして現実のビジネスに結びつけるか、マーシャル・マクルーハンの「テトラッド」を使って考察している。
第3部では「印刷産業の経営課題」とし、喫緊の課題を取り上げている。印刷産業を取り巻く環境や産業構造が大きく変化している中で、どのようにビジネスを展開していくべきか。地域活性化ビジネス、印刷通販など印刷業界の新たな課題についても取り上げている。
また一見すると自社には関係のなさそうなデジタルが引き起こすメディアビジネスの動向もその潮流は押さえておいたほうがいい。アドテクノロジーやビッグデータを取り上げているのは、そのような意図があるからだ。
特集ページから最後まで一気に通して読むと編集意図が理解いただけると思う。全体構成として最終的に人材の問題に行き着くことを示している。企業の成長のためには、人材の成長は不可欠である。そのことをあらためて認識できるように配慮した。『印刷白書2015』が新たな事業戦略の一助になれば幸いである。
（JAGAT 研究調査部 上野寿）
■関連情報
【印刷総合研究会・印刷マーケティング部会】
2015年11月18日（水）
特集ページで「テトラッド」について執筆していただいた小林啓倫氏（『今こそ読みたいマクルーハン』の著者）を講師に招いて、『印刷白書2015』発刊記念の特別セミナーを開催します。
【JAGAT関西地区イベント】
11月17日（火） 「JAGAT近畿大会2015」（印刷の未来を創る）