講談社のふじみ野工場は、DSR(Digital Short Run)工場と呼ばれ、HP社のT300 Color Inkjet Web Press とミューラー・マルティニ社の無線綴じ(シグマライン)が印刷・製本一貫ラインとして組まれている。
この生産ラインは300〜800 部の書籍製作には最適であり、文庫本(320p 換算)なら1日5000 部の生産が可能だ。出版社は特別なところ以外、目指すのは「オフセットと限りなく同品質の本を作る」ことである。
「講談社ふじみのDSR 工場」と「電子書籍同時刊行(サイマル出版)」から考えたPOD で大切なことは、
【講談社にとって】
・製造原価削減 ※固定費ナシ=4Cだって安く作れる
・在庫削減で流通管理費削減
【読者にとって】
・欲しい本が(ほぼ)絶版にならず、いつまでも入手できる。
【著者にとって】
・作品が(ある程度)長期間流通する可能性が高まる。
利益モデルの考え方は、ランニングコストを生産製品に対して印刷代・製本代を課し、導入(マシーン)コストは製造原価削減分+ 倉庫代削減分+ 廃棄削減分で賄い、すべてで費用を賄うという考え方である。
現在のDSR の利用条件は、
・用紙:インクジェット専用紙の方が無難である。文庫本も同質のインクジェット用紙を使用
・データはPDF/X-1a(ポジスキャンあり)
・表紙、カバーの印刷(表面加工含む)と、仕上げ(トライオート)まで考えた生産体制の構築が必要。現在カバーはオフセットラインで印刷・加工
・稼働アイテムの増加、および「Book of one」で製造を行う場合、生産性向上のために製造最適化システムが必要
品質に関しては読者よりも、著者・編集者が既存の用紙・判型にこだわりが強い。そう考えると、重版は別製品として扱った方がトラブルは少ない。
講談社は社の方針として、電子書籍も紙の本と同時に刊行するサイマル出版が基本となっている。そのような中でのPOD であり、比較的デジタルが遅れているといわれる大手出版社でも、もともと人材はそろっているので、一気に進んでしまう可能性はある。
著者や編集者の思いやこだわりと読者のニーズは必ずしも同じではない。「紙も気にしない。装丁もこだわらない。でも古本は嫌」という人も多い。講談社で実際に困ったのは、
1. 著作権切れの名作をPDF として電子書籍化する場合、EPUBなどのリフローファイル化するには、OCRや校正費用が掛かる。
2. 著作権者との契約が大変 ※新刊の時、電子書籍まで契約してしまうとスムーズ
3. 印税の支払方式など、システムの構築が必要。
このようなことを踏まえて考えると、POD ビジネスは電子書籍の経験と発想が大きく、講談社は「電子書籍からスタートすべき」というのが結論である。増加する「電子書籍のみの作品」も自動組版を介してPDF 化し、即POD が可能である。出版社流通も含めて「買い切り」「直販」「ネット購入」にするなど改革が必要になる。今後はコンビニ活用も模索される。
また、新刊同時POD でいうことで、1 作品を紙書籍(オフセット)+ 電子書籍+ ペーパーバック(POD)の同時刊行も視野に入れている。ネット書店では三つの購入ボタンも検討している。
(『JAGAT info』2015年4月号より JAGAT 専務理事 郡司 秀明)