標準原価の現実的な運用案について
最近、印刷会社の経営者と話しをすると標準原価の設定・運用を否定されることが多い。その理由は、自社のコストの積上げで標準原価を設定しても、その価格で仕事が取れなければ意味がないという昨今の厳しい競争環境を受けたものと、標準原価の設定そのものに手間がかかるし(特にDTP制作)、運用が煩わしいというものだ。売値と実績ベースの原価が対比できれば十分という考え方である。
ここで、標準原価の意義を整理したい。標準原価は仕切り価格とも呼ばれ営業と製造の間のぶれない基準として機能する。営業にとっては製造からの購入価格(営業仕入)となり、製造にとっては営業に対する社内販売価格 (製造売上)となる。原則として同じ仕様の仕事であれば、作業者/作業時間/受注価格に関わらず常に一定である。販売価格と製造原価の間に「仕切り価格」というぶれない物差し(基準)を設けることで、利益の貢献度について営業と製造とを区別することができる。
売値と実績ベースの原価の対比だけでは、マイナス(赤字)となったときに営業の売値が安すぎたのか製造効率が悪かったのか、結果の数字だけでは原因を判断することができない。また、部門別の月次損益管理をするときには、製造部門の生産高を受注金額ベースで計上すると受注単価のバラツキの影響により客観的な評価ができない。
では標準原価の意義を活かしつつ冒頭の課題をクリアするにはどうしたらよいか?
ひとつは自社のコストを無視し市況価格ベースで標準原価を設定してしまう。その代わり、それを見積り原価とし、営業は見積りするときに単価を調整することを許さない。そして、営業マージンの基準を例えば20%と設定する。競合との兼ね合いやお客様の都合で値段を調整するときは、積算項目の単価ではなく営業マージンの額を変化させる。この運用により、同じ仕様の仕事であれば基本的に誰が見積もっても同じ結果となるという見積りの標準化ができる(当然、輪転か枚葉か全判か半裁かというような判断の違いで差はでるが)。
そして、値引き受注した仕事が一目瞭然で判断できるという利点もある。
つぎにデザインやDTP制作については無理にサイズ別や難易度別の単価設定をせずに、その都度、営業担当と制作のリーダーが話し合って価格設定をする。アメーバ―経営の部門間売買の考え方である。事前に営業と制作の合意を取ることで、ムチャな値付けもなくなるし、合意した金額におさまるように制作しようとする力が働く。仕事が終わってしまってから反省するよりも、始める前にどうするかという先行管理が大事である。
「値決め」は経営という言葉があるように、単純に仕事が取れる市況価格を標準原価に設定すれば良いというものではないが、一つの考え方として参考にしていただければ幸いだ。
(研究調査部 花房 賢)