ビジネスを創造できる人材育成

掲載日:2014年6月26日
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多様な顧客ニーズに応え、新たな印刷会社のビジネスを作り出す人材育成を

印刷会社が顧客の真のニーズに応えて仕事を確保してい くには、印刷物に加えてさまざまなメディアを的確に活用できるクロスメディア知識が必要になる。そのためには顧客課題を把握して適切な解決策を提案できる人材が必要になる。
教育カリキュラムを整備して人材育成に取り組む共同印刷人事部の西園明美氏、JAGATクロスメディアエキスパート試験に優秀な成績で合格したIT統括本部の藤森良成氏、出版情報事業部の中島弘道氏とJAGATクロスメディアエキスパート諮問委員会委員長の木戸康行氏が、これからの印刷ビジ ネスで必要になる人材・教育について語り合った。

出席者

共同印刷株式会社(※所属部署名は取材当時のものです)

  • 人事部
    西園 明美氏
  • IT統括本部
    藤森 良成氏
  • 出版情報事業部
    中島 弘道氏

クロスメディアエキスパート諮問委員会委員長

  • 木戸 康行氏

印刷会社へのニーズは多様化している

― お客様のニーズはどのように変化しているのか。

中島  出版社と新聞社を担当している。近年、雑誌や書籍の刊行点数が減少し、また、1冊当たりの部数やページ数も落ちてきている。価格競争も激しくなっているの で、それに巻き込まれずに受注するには、編集企画の段階から関わったり、販促計画の提案などが必要になっている。実際、出版社側からも「売れる企画」や 「売れる販売方法」についての要望がある。

電子書籍が話題になっているが、中小の出版社側はデジタルコンテンツに関しては、まだ様子見といった感じである。

― 藤森氏は、制作、技術的には近年の変化をどう感じているか。

藤森 以前は、印刷物そのものをどう作るかだったが、今は、「自分たちの商品、サービスをどう売るかを一緒に考えてほしい」という、『売り方』が求められている。

例えば同じような商品があふれている中で、お客様は他社商品と比較しての自社商品の良さを、どのように消費者へ伝えたらいいかの部分で悩んでいるケースが多いようだ。

これまで印刷会社側の技術部門は一つひとつの技術をどうするかしか考えていなかったが、それらを組み合わせて、効果的な媒体を提案できるかが求められてい る。例えばコーポレートサイトにしてもSNSにしても、今はスマホなどの小さい端末で見るのだから、情報の一覧性に優れる紙とは違った工夫が必要になる。

そのような形を求められているものに対して、自社の持つ技術やサービスをマッピングしながら、無いものは作っていく、すでにあるものはレベルを上げていくことが急務になっている。

西園 出版社は企画のほか、本で何ができるか、どんな加工ができるか、今までの見せ方と違う部分で何ができるのか、などの提案を求めているようだ。一方、通販カタログなどを担当する部署になると、商品の購入率を高めるためのサービスを提案するような案件もあるようだ。

藤森  お客様の過去の購買データからCRM分析をして、次にどのようなチラシやカタログを作るかを提案する。そのデータを使いながら、極論を言えば、一人ひとり 内容を変えたものを作ることもできる。このような分析のノウハウは、お客様が求めているもので、単に「こういう傾向があります」ではなく、傾向からその先に何が見えるか、つまり、自分たちの商品であれば何が売れるのかも併せて提案してほしい、というニーズが増えている。共同印刷でも実際は出版、商印、ビジ ネスフォームなど、事業部によってかなり温度差が激しい。最も顧客ニーズの多様化に直面しているのが商印の事業部で、日々そういう提案を求められている。 商印では、直接消費者へ情報を出していくことになるので、クロスメディア展開の必要性が一番出てくる。

― 印刷物の製造だけを求めるというところから、自社ビジネスを支援してほしいという期待に変わってきているということか。木戸さんは実際のビジネスでは印刷会社とは違う立場で、発注側をご存じだと思うが、どのような変化を感じているか。

木戸 印刷会社と決定的に違う点は、最終的に印刷物に落とさなければいけないかどうかにあると思う。どこをビジネスにするかによって提案の仕方は変わってくるし、印刷会社の場合は、どう印刷物と絡めるかということがマストになっている。

印刷会社のお客様は印刷物を求めているケースが多いので、それでもいいだろうが、今は結局、印刷物だけを作っても効果が見出せなくて迷走してしまう。たいていのお客様にとって、紙はあってもなくてもいい。お客様のニーズがどう満たされて、お客様の売り上げが上がるかの1 点に尽きる。

実際、印刷会社も競合相手が変わってきているのではないかと思う。そことどうやって戦っていくのかということがある。

藤森 確かにかつての競合は、ほとんど印刷会社だった。しかし、顧客のニーズに応えるということでは、紙媒体でなくても、Web サイトでもよい。

そうなると、Web 制作会社や広告代理店と競合になってくるし、スマホやSNS が活用されると、よりいろいろな会社へと競合相手の幅が広くなっている。そこで、共同印刷はそれらの会社といかに差別化するかということになる。印刷会社の営業はお客様の懐の中に入り込んでいるという自負がある。単にお客様が指定されたものを作る、売れるものを何か提案するだけではなく、売り方や、どう作っていくのかまで踏み込むことが、差別化につながるのではないかと思っている。

例えばある商品のWeb サイトを作るときに商品のコメントの集め方、画像の撮り方、その画像の見やすさなどまで入り込んでいく。そして、紙だけではなくWeb サイトも含めて、ただ作るだけではなく、マーケティングからクリエイティブまでをセットにできれば、トータルソリューションサービスとして効率的に組み立てることは、印刷会社の強みになると思う。

木戸 それは、オペレーション効率をどう上げるかという点で、コスト削減につながる提案が強みになるということだろう。

藤森  お客様が求めているのは売り上げや利益を上げることで、それにどう貢献できるかと考えると、売り上げを上げるかコストを下げるかの2 つしかない。この2つが両輪になっているはずなので、どう売るかというプロモーションを支援すると同時に、その一連の制作をコストダウンしながら価格競争力を出していく。この両輪に対してうまくサービスを展開できれば、当社を選んでいただけるお客様はあると思っている。

印刷だけでは顧客ニーズに応えられない

木戸 極端なことを言うと、提案の内容によっては印刷会社でも印刷物としての仕事を受けないときもあるということか。

西園 そういう仕事もあるようだ。カタログ印刷は他社で、Web カタログのサイトだけを受注するというパターンも出てきている。

藤森 Web to Print のサービスを提供しているが、できたデータの印刷は当社ではないこともある。しかし、お客様がどのように使うか、さらにその上流にある企画などをどのように作っているかも分かるので、それは次のビジネス展開につながると割り切っている。逆に、お客様の立場になれば、地方で使うものは地方で出力したほうが、 東京で刷って送るよりは早くて安いのだから、無理してまで当社でとって印刷するよりも地方の協力会社などを紹介したほうがよいだろう。

― 本や雑誌を作るほかに、販売プロモーション支援のニーズはあるのだろうか。

中島 私はまだ経験していないが、「SNS を使ってうまく広める方法を考えてほしい」などの要望をされた担当者はいる。一番多いのは、新刊を出すときのキャンペーンサイトの制作である。キャンペーン用アプリも同時に配信するなど、配信する内容を含めて提案している。

木戸 それは全部、社内で完結できるものなのか。

西園 当社のいろいろな部門を活用することで、自社内だけでもできる体制を持っている。しかし、実際のビジネスではさまざまなパターンがあり、状況に応じた取組みが展開されている。

藤森 自社で足りない部分は、リスクヘッジも考えながら企画やアプリを作れる会社などとパートナーを組んでいく。逆にリスクも生じ得るが、それよりは、パートナーを組んでバリエーションを増やしていくことで得られるものは多い。

中島 今、お客様側も印刷会社側もいろいろと新しい試みが必要な時だろう。お客様が変わっていくのか、それとも先に印刷会社の営業が変わって何か仕掛けて仕事をするのか、少しずつ動いてきていると思う。

これからの印刷会社ビジネスに求められる能力とは

― ビジネス環境の変化が激しいなかで、従来の印刷ビジネスのための人材から、新しいビジネス展開に合わせた能力が必要になっていると思われるが、どのような人材像を描いているのだろうか。

西園 以前の印刷会社は、お客様から預かった原稿を間違いなく、その指定どおりに作ることが使命だった。しかし、お客様への提案となると、オーダーをそのまま忠実に守っているだけでは、お客様の本当のニーズには応えられない。印刷会社としては、お客様への向き合い方を変える必要に迫られている。そのため今の人材には、オーダーをされたものをしっかり表現すること、形にすることはもちろん、自分たちもお客様の視点と同じものを、さらにその先のものも見て提案できる視 点を養うことが必要になっている。

当社は教育カリキュラムを整備して、毎年、社員のレベル、ニーズに合わせて見直しを行っている。また社 員がどのようなパフォーマンスをしたら成果を出せるか、それに合わせて評価をするような人事の仕組みに変えている。したがって、おのずと社員も、自分の能力を高めるような意識で取り組めるような形になっている。

― 実際の仕事のなかで、自分の能力を伸ばすべきと感じる部分はどこか。

藤森 お客様のほうが物事を知っているときがある。自分も知識を持っていたつもりなのだが、それを超えた質問をされたときは、技術や知識が足りないと感じることがある。例えば最近は、デジタル端末を使いこなして、WebメディアやSNSを日々使われているお客様も多い。そうすると、こちらが提案しても、「それだったらこういう情報をここに載せたほうがインパクトはあるんじゃないの」と返ってくることもある。私たちの組み立て方や考え方に対して、私たちでは気がつかなかった見方や考え方を指摘されたようなときに、まだ不足している部分があると感じる。

中島 私は4、5年周期で異動していることもあり、まずお客様の誰がキーマンで、当社の設備などの良い部分を使うにはどのような仕事を受注すればよいかを見極めて攻めていかなければならない。それも半年、1年ぐらいで成果を出すように見極める能力が必須になる。

― 木戸さんは印刷会社の営業と、通常のビジネスやクロスメディアビジネスをやるとき、この辺がちょっと弱いとか、この辺の能力が必要になると思うところはあるのか。

木戸  企画提案力の違いはどの会社にもあるが、印刷会社は、どちらかというと仕事をもらいに行くというスタンスが多く、そういう人は受け身になっているケースが あるようだ。本当は自分が思っていたところよりも少し上のところの仕事が欲しいのだが、それをなかなか出しにくいのが、印刷会社の文化としては多いという イメージがある。

印刷会社は規模の大小やそれぞれの特徴があるが、大きい会社ほど細分化され、企画力のある人もいる。問題は、どこを自社 のセールスポイントにして仕事を落としていくのかで、そこがずれてしまうと、おそらくその会社の持ち味がなくなってしまう。私は一緒に仕事をするときに、 その点をよく聞くようにしている。「御社はどこでビジネスするのか」ということを重視している。

藤森  印刷会社にとってクロスメディアというキーワード1つにしても、大手と中堅ではできることが違う。大手はインフラそのものもひっくるめてマーケットを作り、そこでビジネスができる。一方、中小では制作する コンテンツそのものや、クオリティを上げたり、それを広めたりという範囲でしかできない。当社はその狭間に立っているような気もする。だから大手が入り込 まない細かいところで、しかし小さい会社では入ってこられないものに軸足を置くことが考えられる。

木戸 印刷会社の人と仕事をするときに、その人の役割は何かが気になる。アカウントを管理する人なのか、プロデュースする人なのか、企画なのか、手を動かす人なのかというフォーメーションを知っていることが大事である。だから、その役割があいまいだと、誰と話をしたらいいのか分からなくなる。

共同印刷さんのような大きい印刷会社なら、ゼネコンのような形で、仕事を受けて効率的に仕事ができるようにパートナー企業とのコラボレーションを仕切ってい く役割が求められるだろう。小さい会社だと、なかなかそこまでできない。実際に、企画はいいけれども仕事を始めたら、うまく作り上げてくれないということ も多々ある。

藤森  私は営業も経験しており、営業的な話も技術的な話もできるので、仕事がしやすいと見てくれている方々もいる。細分化してサービスを作っていくというやり方もあるだろうが、ある程度、1 人が何役もこなせたり、お客様と各部でお話ができたりするような人材がいるとポイントになるかもしれない。会社の大小にかかわらず、そういう人材がいれば、仕事を取っていけるようになるのではないか。

クロスメディア知識はこれからのビジネスでのカギになる

― 藤森さんのお話はクロスメディアエキスパートの理想像に近いように思う。御社にはクロスメディアエキスパート認証試験を活用していただいているが、試験を受けようと思われるときは、個人のモチベーションと組織の上からの働きかけがあると思う。この試験、勉強しようと思われた動機はどんなところなのか。

中島 新聞社を担当していたとき、出版物よりも、チラシやパンフレットなどの商印物件を多く手掛けた。あるとき、新聞社が新しいサービスを始めるということを聞いた。

担当者に話を聞くと、デジタル系の案件であった。お客様は当社がデジタル系もできると思っていなかったようだが、すぐ専門の者を同行して提案し、その案件 を受注できた。そのこともあって、今後は紙だけでなくデジタル系もいろいろ身に付けて、クロスメディアの方向で営業展開する必要性を感じていた。ちょうどそこに人事部からのクロスメディア試験の案内があり、この資格が役立つだろうと考えて試験を受けた。本資格の存在は数年前から知っていたが、そのときはクロスメディアと言われてもピンとこなかった。時代の流れが変わって、自分の中でも必要性を感じるようになった。

藤森  私は情報処理やXML 関連などの資格を取ってきていた。お客様と話をしていると、「藤森さんはいろいろよく知っているよね」と言っていただける。それなら最初から最後まで通し て、「私に相談していただければなんとかできます」というようにしたい。しかし所属が技術部門のため、なかなかコンサルをするイメージを持っていただけ ず、社内外に説得力のあるものを探していたときにクロスメディアエキスパートがあった。お客様の持っているコンテンツや情報を使ってビジネスを展開してい こうとするときに、この資格なら技術を含めてきちんと説明できるだろうと思った。今、営業と一緒に同行するときなど、「あ、この資格を持っているんだね」 と言っていただけるのがクロスメディアエキスパートではないか。

― 顧客のオーダーどおりに作るだけではなく、顧客の問題解決を手助けするような提案が求められるようになって、印刷会社も人材も変わらなければならないということだが、個人の意識はどうなのか。またお客様側の提案に対する期待感はどうだろうか。

中島 お客様によると思うが、私は、何度か異動していて、そのたび初めてのお客様になる。そうすると、まず、どのように相手の扉を開けるかを考える中で、紙媒体だけではだめだという意識が強くなった。

藤森  印刷会社に対する期待感は、接するお客様の担当者でも変わってくる。お客様が印刷物の担当者で、「この印刷物を作って」となると、印刷物のこと以外の提案 にはなかなか関心を示さないことも多い。しかし、実際は隣の部署でも同じようなものを使って何か違うものをやっていることもある。だから、お客様企業の取 り組み全体を通じて実績をつくっていけると、当社に対する期待感に変わるのではないか。

中島  営業担当者が意識を持つかどうかだと思う。得意先に行って、まだ参入していない部署での新しい仕事の話を聞いたら、そこに顔を出して「共同印刷ですけど、 こういうお話を聞いたので、詳しく聞かせてください」と行くようにしている。そういう積み重ねが期待感に変わって、うまくいけば仕事も増えていく。

クロスメディアエキスパートは仕事に役立つか

木戸 お客様はクロスメディアエキスパート資格を知っているのか。

藤森 私が訪問したところでは半分ぐらいの人が知っている。

中島 出版社は多分まだそれほどいない。しかし、最初に挨拶したときに名刺を見て、「これは何」と聞かれると、説明して、「実は紙の印刷だけじゃなく、こういうこともできますので」ということで、次につなげられるきっかけになればと思う。

木戸 うまく使えば、引き出しが広がっていくだろう。

藤森 クロスメディアは、今はキーワードになっているところがあるので、この資格を知らない人でも、「クロスメディアだからいろんな媒体のことだよね、それのエキスパートはどういうことをしてくれるの」と聞いていただける。

木戸  私自身がこの認証試験そのものを、立ち上げのときからずっと関わっているが、いろいろ議論しながら作ってきた。この資格が実際にお客様に響いていくことも あるし、自分の中で頭の整理ができたということなど、役に立つというレベルもいろいろあるだろう。実際の仕事をやる上では役に立っているのだろうか。

中島  この資格を取ろうと思って勉強を始めるまで、デジタル系には本当に疎かった。試験を受けようと決めた時点で、試験関連の本を読み始めたが、ほとんど分から なかった。こんなに世の中はいろいろなことが進んでいるのかという思いだった。私はゼロからというよりマイナスぐらいからのスタートだった。勉強していく と、「あ、これがこういうことなのか」と少しずつ分かってくる。

合格したとはいえ、まだ、階段を1 つ上ったくらいなので、これをきっかけにさらに勉強していく。また、お客様との会話では話題が広がり、これまでとは違うアプローチができるようになった。

木戸 試験では択一問題と記述問題では、知識と知恵の違いのようなものがあると思うが、それには抵抗なかったのか。

中島  記述に関して言えば、企画書自体をほとんど書くことがなかったので、どのように書くのがよいのか、フォーマットや提案の場合のポイントなどを合格した方た ちに教えていただいた。しかし、記述は択一に対応できる知識がないと良いものにはならないので、択一での知識をしっかりと覚えることから始めた。模擬試験も受けたが、記述は難しかった。

藤森  私は技術部門なので、自分が実務で使っている知識もあったが、普段は仕事で意識しないマーケティングなどは勉強になった。択一問題には広くいろいろなトピック的なものが入っているし、話題性のあるものがかなり入っている。そういう意味ではトレンドを見ていく上で、取り上げられているものは、おそらく仕事でも何かに使えるはずだというバロメーターにも使える。

記述は、模擬試験で教えてもらったSWOT分析の方法は、試験の2時間の中でやるには時間がないと思うが、実際の仕事では役立つと思う。また、記述で提案を作っていく流れを考えると、それをテンプレートのようなものにできれば、試験を受けるためだけではなく、実際のビジネスの提案で、使えるのではないだろうか。例えばAIDMAやAISASなどの理論を知っているか知らないかで、お客 様が理解できるような提案書になるのかどうかが、変わってくると思う。試験を受ける前は自分たちの思いで提案書を作ってきたので、技術者用の提案書になっ ている。しかし、今は提案書の書き方も変わってきて、上司にも驚かれている。

木戸 AIDMAとかAISASなどのマーケティング理論は、起こってきた事実を論理的にまとめただけに過ぎないと思っている。

一番は課題解決をどうしたらいいかであり、そのためにお客様を説得できる、あるいは納得させるものを、ある程度論理的に作らないと、お客様に届かない。そ ういった思考方法はロジカルシンキングという用語にも言い換えられるが、AIDMAも、AISASも、SWOT分析も、それは1つのやり方であり、あまり こだわってそこばかりに集中するのは本末転倒である。

最近の記述試験の解答を見ると、FaceBookをやたらに使ったり、必要ないのに デジタルサイネージを入れたりと流行りものを使ったテクニック論を入れるものが多くなっている。重要なのは、この提案は一体何なのか、お客様に届くのか、 心を打つのかということである。そこが実際の仕事につながるところである。

JAGATとして択一と記述を用意しているのは、「お客様に届く提案の書き方というのを、知識は択一でまずは押さえてください」。そして、「記述は整理をして、通り一辺倒の作文ではなく、説得する文章にしましょう」というところを狙いにしていた。

記述試験は、実際の仕事でイメージすれば、営業担当が行ってヒアリングしているというイメージだったものを、それを行ってなおかつメモランダム的に社内用にまとめたものというようなイメージに変えている。

藤森  そうすると、企画部門や技術部門でも、営業が作ったヒアリングシートをもとに、「じゃあ取りかかろう」というスタンスになれる。とすれば先端にいる営業だ けではなく、一緒に仕事をするわけだから企画部門も技術部門も資格を持つと社内的にはより仕事がやりやすくなるかもしれない。

人材育成のひとつのきっかけに

― クロスメディアエキスパートは更新試験もあるが、その位置づけは何か。

木戸  一言で言うと、やってきたことが錆びないようにすることである。日頃から皆さんが仕事の中で取り組んでいれば難しいものではなく、むしろ、更新試験でブ ラッシュアップしていることを確認するというような意味である。そういう意味で、あまりクロスメディア的な仕事に携わっていないと忘れて錆びついてしまう ので、きちんとそれを研いでほしいということである。

― 御社としては、クロスメディアエキスパートをこういう人たちに取ってほしいという思いはあるのか。

西園 内容自体が、デジタル化の最先端のものを取り扱っているので、IT 領域に接する機会のある担当者には必要である。また、この内容は択一試験の部分で知識を蓄えて、それだけで終わらずに提案書を書きなさいという段階が待ち受けている。

この試験に取り組まない限り、提案書を書く機会を得ないという者もいる。必ずしもそれをやらなければいけないというわけではないが、お客様に何を提案する かというのを自分で受けとめて考えたプランでないと、具現化は難しい。したがって、こういう提案書を作る、論理的に組み立ててみるというトレーニングは、 実際には自分で書いてお客様に提案することはないとしても、とても役に立つと思う。

試験勉強でロジカルシンキングを学び、さらにJAGAT の通信教育講座は一通りそのフレームワークが揃っているので、それを使って身に付ければ役に立つと思う。

当社の営業パーソン全員にこれらの知識が必要かというと、そうでもないだろうが、このようなトレーニングが必要だという認識は大事である。できればこれらの勉強をして知識を蓄えてお客様を訪問してもらえるのがいいと思う。

(JAGAT Info 2013年2月号より)

※本ページの内容は掲載当時のものです。