コミュニケーション支援ビジネスを推進するリーダー

掲載日:2016年7月26日
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印刷とクロスメディアビジネスの拡充を推進する人材とは

クロスメディアエキスパート(以下CME)とは、クロスメディア戦略を立案し、推進する「メディア戦略のコーディネーター」を認証する制度である。JAGATは印刷ビジネスのクロスメディア展開が進展することを想定し、それを推進するための人材育成のためにこの制度を創設した。

認証制度設立の背景とクロスメディア時代の到来

2000年代初めから半ばにかけてオフィスでは1人1台のPCが支給され、Webやメールも日常ツールとして使用されるようになった。家庭向けでもADSLや光などのブロードバンド回線が一般化していた。
Webで発信する情報は、元々は印刷物のコンテンツと共通である。そのため、印刷会社がWeb制作・構築を手掛けることが増えるという予想のもとに、JAGATはCME認証制度を創設した。

2000年代の後半は、さらに大きな変化があった。つまり、動画サイトやSNSの普及と、スマートフォン(以下、スマホ)の登場である。YouTubeは、国内でも2006年頃から人気となった。今では、無料で誰でも簡単にさまざまな動画をインターネット経由で視聴することが当たり前になった。SNSは、それ以前からも存在してはいた。しかし、TwitterやFacebook、LINEなどのインパクトは大きく、現在ではインフラのような存在となっている。

そして、このような状況に至らしめたのは、スマホの登場と急速な普及である。アップル社のiPhoneが日本国内で発売されたのは、2008年である。それまでインターネットにアクセスする手段は、PCだけであった。しかし、スマホは24時間Webにアクセス可能なオールマイティなデバイスであり、小さなPCとも言える。スマホを持つことで動画サイトやSNSの普及に拍車がかかったことや、オンラインショッピングや会員サイトなどが日常化したことは間違いない。
企業側から見ると、デジタルマーケティングなしでの企業活動はあり得ない、というくらいに重要になったと言える。

電通が発表した「2015年日本の広告費」によると、インターネット広告の進展・拡大は明白であり、現在ではテレビの次に大きな媒体となっている。新聞・雑誌・ラジオの広告は減少を続け、今では「4マス広告」という呼び方が適切かどうかも、疑わしいところである。

現在の印刷業界を取り巻く環境においても、このような変化は顕著である。

一般企業の情報発信手段として印刷物だけということはほとんどなくなり、Webやモバイルと印刷メディアを使ったクロスメディアのコミュニケーションが日常的に行われている。印刷メディアの優先度が2番手、3番手であることも少なくないのが現実である。

つまり、2006年にJAGATが想定していたより、遥かに大きく世の中のクロスメディア化が進展したのである。

顧客のコミュニケーション支援を推進するために

CME認証制度のメインは、企画書・提案書を想定した論述試験である。

仮想の顧客からのヒアリング報告書や資料が与件として提示され、課題解決の施策としてクロスメディア戦略の提案書を作成する。これまでの与件に設定された業種は、アパレル、外食、メーカーなど多岐にわたっている。

(※クロスメディアエキスパート認証試験:過去の出題サンプル

受験者は、120分の制限時間内に与件資料を読み込み、顧客企業の現状を分析し、適切なメディア戦略を立案しなければならない。

しかし、単にWebやモバイルサイトを構築する、またはSNSで会員コミュニティを活性化させようと言うレベルでは、提案書として不十分である。顧客の視点から見て、論理的で説得力があるかどうか、最終的に投資に見合った効果が期待できるかどうか、などが求められる。

2016年3月に開催された第21期CME試験では、「第3セクターによる鉄道事業『かずさ鉄道』を展開する小売およびサービス業」を顧客企業と設定し、中堅印刷会社がメディア戦略のコーディネーションを行うという前提で提案書を提出する、という内容が出題された。

現在、一部のローカル鉄道では、鉄道そのものを観光資源化し、鉄道ファンや地域の民間企業からの会費を収入源とする動きがある。
出題の企業は、乗車すること自体が目的となる「観光鉄道」を目指しており、団体やグループに対する貸し切り運行や、女性客のほか平日のシニア層に対するイベントを中心とした販促活動、オリンピック開催に向けて外国人観光客の誘致などを実現したいと考えており、これらを実現するためのメディア戦略提案を求めている、という設定である。

受験者は、ヒアリング報告書や資料をその場で読み込み、実現可能で投資効果の高いメディア戦略提案を制限時間内に記述しなければならない。

しかし、印刷会社が実際に顧客のコミュニケーション支援をビジネスとして推進するには、このような分析・企画立案能力は必須である。
回答には、「どんな層をターゲットにしているか」「どのタイミングでどのメディアを利用しどのようなアクションを起こすか?」「目的を達成できるのは、どの段階か?」などの項目を明示するよう求められる。

印刷会社が顧客のコミュニケーション支援をビジネスとして推進するには、単にコンテンツを制作するだけでは不十分である。顧客の現状や課題を正しく理解し、印刷とデジタルメディアの特性や費用対効果を踏まえた論理的で説得力のある企画提案能力が必須となる。

そのような能力の社員を育成することこそ、未来への投資ではないだろうか。

(JAGAT CS部 千葉弘幸)