「稼働率」とは日常的によく使われる言葉であるが、あいまいな定義で使われることが多い。ここで改めて整理しておきたい。
まず、重要なのは“時間”の定義である。勤務時間、実働時間、直接作業時間の3つに分類される。
勤務時間
出勤してから退勤するまで、従業員が会社に拘束されている時間である。この勤務時間には昼休みや所定の休憩時間が含まれる。
実働時間
勤務時間から各企業で認めている休憩時間を差し引いた時間である。
直接作業時間
実働時間は直接作業時間と間接作業時間に分けられる。直接作業時間とは、文字通り直接的に売上を生み出す作業に従事している時間であり、間接作業時間は、朝礼、会議や始業時の準備、終業時の片づけの時間、それから機械故障で停止している時間、さらに版待ち、紙待ち、あるいは不明瞭な指示内容を営業や工務に確認する「待ち時間」が含まれる。
主体作業時間
直接作業時間は準備作業時間と主体作業時間に分けられる。印刷機の例でいえば、準備作業時間は、版替えや見当合わせ、色調補正の時間であり、主体作業時間は本刷りの時間となる。
ちなみに原価管理で利用する標準時間コストを算出するときに使用するのは「直接作業時間」である。
3つの稼働率
前述のように勤務時間の内容を分けることによって、以下の3つの稼動率を計算することができる。
A:機械時間率=直接作業時間/実働時間
B:運転時間率=主体作業時間/直接作業時間
C:実稼働率=主体作業時間/実働時間
A.機械時間率
実働時間に占める直接作業時間の割合である。この比率は間接作業時間を短くすることによって高めることができる。間接作業時間のうち、朝礼や始業時の準備、終業時の後片付けなどは必要なことであり手際よくやれば問題はない。問題は、各種の待ち時間や突発的な機械故障による不稼動時間である。待ち時間は、多くの場合、日程計画と実際の作業進行のズレや不明瞭な作業指示から起こるものである。つまり、機械時間率が低いか高いかは、現場の作業者の技術力や能率ではなく、設備の維持管理も含めた生産管理の良否によって決まるという傾向にある。
B.運転時間率
直接作業時間に占める主体作業時間の割合である。準備作業時間を短縮するほど高くなる。準備作業時間の長さは、機械の機能・性能、作業者の能力、あるいは仕事の仕様や順番などさまざまな要因で決まる。主として、現場作業者の能力、責任範囲で高低が決まる傾向にある。
運転時間率が低い場合には、この準備時間の内容を、例えば版替え、色替え、見当調整、色調合わせ、あるいは特色の調肉といったように細部まで分析することによって、その原因を絞り込み対策を考えることができる。最新の印刷機は、この準備時間短縮のためにさまざま機能が付加されており、細かな時間分析をする必要性は減りつつある。
C.実稼動率
実働時間に占める主体作業時間の割合である。実働時間、すなわちお金を稼ぐために使える時間の内、まさに製品を作り出す作業に使っている時間の比率である。この実稼働率を高めることが、生産性改善活動の目的と言える。実稼働率は、機械時間率と運転時間率を掛け合わせたものであり、生産管理の良否と現場作業者の技術力によって左右されるということになる。
また、時間ではなく生産量に焦点を当てた指標として、A能率やC能率という指標がある。
A能率 =生産量(例:通し枚数)÷ 主体作業時間
C能率 =生産量÷ 実働時間
という定義となる。分子に生産量をもってきたことで、機械の生産速度という評価軸が加わる。
(JAGAT CS部 花房賢)