アニメ映画「この世界の片隅に」のクラウドファンディングには印刷人も協力している。SNSなどを通じて評判が次から次へと広がり、大ヒットとなっている。
アニメ映画「この世界の片隅に」が2016年のキネマ旬報ベスト・テンで、日本映画第1位に選ばれた。アニメが作品賞を獲得するのは1988年の「となりのトトロ」以来2度目の快挙だという。また、片渕須直監督はアニメ作品では史上初となる日本映画監督賞を受賞した。
ミニシアターでの上映から始まった独立系アニメ作品ながら、立ち見も出る人気と評判の高さから、上映館も続々と増えている。
1月12日放送の「NHKクローズアップ現代+」では、なぜ戦時下の日常を描いたアニメ映画が今を生きる人々の心を打つのかを取り上げた。主人公すずの声を演じたのん(能年玲奈から改名)は、登場人物一人ひとりがたまらなく、いとおしいと語る。
クラウドファンディングとSNSの力
この映画のヒットの秘密として、クラウドファンディングによる制作資金の調達、SNSなどを通じて評判が広がったことが挙げられる。
クラウドファンディングとはJAGAT刊『デジタルハンドブック』によれば、「クリエイターや起業家が製品やサービスの開発、企画の実現のために、インターネットを通じて不特定多数の人から資金の出資や協力を募るもの」で、「支援に対し物品やサービスを返す購入型、対価を期待しない寄付型と、金銭を返す投資型がある。」
「戦時中のリアルな日常」を描いたアニメ映画に出資する企業はなく、クラウドファンディングを活用して資金を集めることになった。結果として「片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援」プロジェクトは、総額3912万1920円、サポーター3374人を集めることができた。
支援金に対するリターンは、昭和19年のすずから葉書(こうの史代描き下ろしイラスト付き)が届き、映画のエンドロールに名前が載るという、「アニメ映画化を応援」する気持ちを重視するものとなっている。
映画館で映画を観ることはめったにないのに、観に行かなくてはと思ったのは、いとうせいこうが12月中旬にラジオで熱く語っていたことで、「淡々と日常を描いていて戦争だけに焦点を当てていない」「どこでグッときたかはそれぞれが違う」「のんの広島弁が素晴らしい」「日本映画の歴史に残る作品」「この映画の役に立ちたい」など、どうしても観なくてはと思わせられた。
ちなみにラジオ放送は平日だったが、パソコンで聴くことのできるラジコが、過去1週間以内に放送された番組を後から聴くことのできるタイムフリー機能を開始していたことで、放送日の翌日昼休みに聴くことができた。
年末の初回上映も立ち見が出ていて、客層は広いけど比較的若い人が多かった。感想を言うとしたら、いとうせいこうの言葉を繰り返すことになる。
エンドロールには「富士精版印刷労働組合」の名前もあった。ファンドに参加した理由を組合執行部は「漫画と紙メディアの可能性をとことん追求するこの原作者を、どうして印刷人が応援せずにいられるでしょうか」と同社社内報『富士』172号で報告し、「戦争は決して過去や外国の出来事ではなく、この日常と地続きであること、そしていま同じ悲劇がシリアをはじめ世界中で起きていることにも思いを馳せてほしいと切に願います」としている。
256×297mmの大判変形サイズの劇場パンフレットにはサポーター3374人全員が掲載されているが完売となることも多く、公式ガイドブック、公式アートブックなどが発売されるなどの広がりを見せている。
映画館では名刺大のメッセージカードも置いてあったが、裏面に映画の感想やメッセージを書きこめるようになっている。
SNSなどを通じて評判が広がったというが、メッセージカードに手書きで推薦コメントを書くというアナログなクチコミも一助となったのではないか。
(JAGAT CS部 吉村マチ子)
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