JAGATが会員企業(メーカー等を除く)に対して毎年実施している印刷産業経営力調査は、調査結果を集計、分析して報告書としてまとめるだけでなく、回答企業に対して個別に結果をフィードバックしている点が大きな特徴である。
回答企業にフィードバックしている内容から2点を紹介する。
(1) 特性要因図の手法を用いた財務分析
下図は総資本経常利益率(ROA)を企業の業績を評価する総合指標として設定し、その数値の高低はいかなる要因から成るものかを分解して表したものである。
例えば、総資本経常利益率は、総資本回転率(売上高/総資本)と売上経常利益率(経常利益/売上高)の掛け算で表されるので、総資本経常利益率の高低の要因をその二つの指標に分解して求めることができる。
総資本経常利益率を業績評価の総合指標として設定したのは、少ない元手で大きな利益を得ることがビジネスの理想であるという考え方に基づいたものだが、長寿企業の多い印刷業の場合、長年の利益の積み重ねによる自己資本の充実によって、資本効率が落ちている(総資本経常利益率が低い)ケースも多い。総資本回転率の数字が低くても、自己資本比率が高ければ、大きな問題にはあたらないと判断することができる。
また、印刷業は装置産業という側面もあるので、総資産に占める機械装置額の比率をみるとともに、機械装置回転率でその利用の有効度を評価、さらにその高低の要因を1人当たり売上高と1人当たり機械装置額の両面からみる。また、設備投資が内製率の向上に寄与しているかどうかを加工高比率で評価するとともに、設備コストが負担になっていないかどうかを減価償却費とリース料から判断する。
生産性の評価指標としては、1人当たり加工高を重要指標としている。なお、加工高とは売上から変動費(図では材料費、外注加工費、商品仕入れ)を引いた残りの金額である。理想は、1人当たり人件費は高いが、1人当たり加工高がさらに高いために両者のバランス指標である労働分配率は低く抑えられている状態である。
また図中の各経営指標に二つ数字が並んでいるが、上ないし左側の数字が自社の経営数字で、下ないし右側の数字が回答企業の平均値となっている。
本図では自社数字は、干支が一回り前の2005年度調査の平均値、比較対象となる平均値は最新調査の2016年度調査の平均値である。
2005年度と2016年度を比較すると、1人当たり売上高は約8%減、1人当たり加工高は約3%減と生産性は落ちている。価格競争と小ロット化の進行によるものだと思われる。一方で、内製化率(加工高比率)が若干上がって、1人当たり人件費が約6%減っているので労働分配率はほとんど変わっていない。非正規従業員の比率が2%増えていることも人件費抑制の要因であろうが、デフレの影響から脱け出せずにいる様子が窺える。
(2)経年変化分析
下図は回答企業の回答履歴である。各種経営指標を損益計算書関連、貸借対照表関連、従業員構成、平均年齢、売上構成比に分類わけしている。
本図の数字は最新年度から過去12年間の平均値の履歴となっている。工業統計によると印刷産業の出荷額は2005年の7兆1200億円から2014年は5兆5365億円と20%以上縮小しているが、本調査の結果では2.6%減にとどまっている。細かく見れば変化をみることはできるが、大枠では驚くほど安定した結果となっている。なお、本調査の回答企業数は12年間で4割近く減少している。
変化が見られるのは、
・1人当たり売上高、同加工高、同人件費の減少
・平均年齢の上昇
・総資本額および自己資本比率の上昇
・総資産に占める機械装置額の減少
・売上構成比に占める「包装その他特殊印刷」の比率の上昇
などとなっている。
本調査結果の報告書については以下を参照ください。
https://www.jagat.or.jp/keiei-doukou2016
2016年度の報告書は9月発刊予定で、報告セミナーも予定されている。
(研究調査部 花房 賢)