印刷会社とマーケティングについて その基本的な背景認識と考え方

掲載日:2017年8月3日

マーケティングとは「商品・サービスと財を最大効率で交換するためのプロセス設計」である。受注体質になりがちな印刷会社とマーケティングとの関わりを考察する。

受注産業とマーケティングの相性

マーケティングの定義は様々あるが、有力なのはアメリカマーケティング協会とコトラーによるものであろう。プロセス・交換・価値といったキーワードが共通する。ドラッカーの「マーケティングとはセリングを不要にすること」は有名だが、これだけが一人歩きして前段部分の抜けていることが多い。「顧客について十分に理解」「自然に売れるようにする」思考プロセスを経て「セリングを不要」にするのである。

印刷会社は受注産業であった期間の長いことが、いわゆる受身体質を生んだ。顧客の要求品質を製品として正確に再現すれば仕事になった期間が長かった。安く、早く、間違いなく、厳しい制約条件下で要求品質をきちんと満たそうと努力したはずで、そんな良心的な印刷会社が生き残ってきた。

しかし、その真面目さゆえに、顧客の要求の重点が品質から効果に移り、多少の理論とクリエイティビティが必要になった変化への対応が遅れた印刷会社が少なからずある。

マーケティングの受け止め方

放送終了したが、NHK連続テレビ小説「ととねえちゃん」では、戦後まもなくの印刷会社が出版社に「お願いします」と頭を下げられるシーンが描かれていた。無理を頼んだシーンでもあったが、力関係は需給バランス次第なので、文字どおり「顧客から仕事をもらう」時代があったかもしれない。

「仕事をもらう」という表現は受注産業特有だと思う。本質的に「仕事は創るもの」「仕事は見つけるもの」のはずである。たとえばファッション業界なら、数シーズン前の時点で将来の流行色やコーディネートを予想して、生産計画を立て、より多くの需要を創造しようと知恵を絞る。マーケティングは水や空気と同じように当たり前の身近なものだ。

ポケモンGOに見るマーケティング

ポケモンGOはマーケティング戦略の視点からとても興味深い事例だった。面白いが話題性に欠けるゲーム「イングレス」に、知名度は高いが成長性のないキャラクター「ポケモン」を加え、話題性はあるが今ひとつ用途のはっきりしない技術「AR」を組み合わせ、「イングレス」をリニューアルした「ポケモンGO」はゲーム史上最大のヒットに生まれ変わった。新しいものは何もない。すべて使い古しの経営資源を最大効率に組み換えただけである。

マーケティングを技術として使う

「イングレス」に足りない要素を「十分に理解」、販促費を最小限に抑えて話題が話題を呼ぶ形で「自然に売れる」仕組みを作った。開発プロセスでは「セリング」せずに知名度を高め、かつ収益性を得るための検討が相当程度になされたはずである。

優れた研究者が既に原則的なマーケティングのフレームワークを多く送り出している。独創するのではなく、定性的にはこれを使い、できるだけデータに基づき定量的に表現すればよい。差が大きく開くのは未来を考える際の想像力やひらめきも含めたマーケティングセンス、トレンドの把握力、そして顧客との対話から何を感じるかといった感性的な領域や、これらをロジカルに組み立てる構築力になるが、タモリ倶楽部を見ているかといった脇道的な部分もなければ顧客と話ができないし創造力は生まれてこない。多少脱線したが、こうした手順はマーケティング技術とも呼ぶべき分野があるのだから、独学でなくセオリーどおりにやることだ。

主要なマーケティングの定義に触れながら脱線しつつマーケティングを考えたが、マーケティングとは「商品・サービスと財を最大効率で交換するためのプロセス設計」だろう。このためにどうすれば良いか。

(研究調査部 藤井建人)

 


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