創立50年を迎えて、現在JAGATでは様々なイベントや出版物を企画している。この50年間を振り返っているときにはずせないものの一つに「2000年の印刷産業ビジョン」がある。【50周年記念】
「2000年の印刷産業ビジョン」実現の可能性
通商産業省(現:経済産業省)産業構造審議会紙・印刷部会は、1986年より印刷産業の将来に向けてのビジョン作りに取り組み、1988年4月に「2000年の印刷産業ビジョン―産構審答申「今後の印刷産業のあり方」―」を答申した。同答申では、21世紀の印刷産業を情報産業・文化産業と位置づけ、印刷産業がこの方向に進むことによって、2000年には15兆円を越えるまでに成長する可能性を示した。
当然ながらこのビジョンは、印刷産業に大きな衝撃を与えた。1988年当時の工業統計による印刷産業出荷額は、7兆830億円で1人当たり1522万円であった。わずか12年で倍以上になるという試算が産業構造審議会から発表されたのである。インパクトがないわけがない。
しかし、このビジョン実現のためのシナリオ作りは、印刷産業の課題として残されたままであった。そのお手伝いをすることはJAGATにとって当然の任務と捉え、「21世紀委員会」を発足し、調査・研究をスタートさせた。
当初21世紀委員会は3年間を一つのサイクルとして、1年ごとに報告書をまとめ、発表することにした。初年度(1989年)は、これからの調査・研究のための基本認識として、2年度目には、生産技術に焦点を当てて、3年度目には2000年の印刷産業ビジョン実現のためのシナリオをまとめ、報告したいと考えていた。
実際は、5カ年にわたる調査を行い、21世紀に向けて環境の変化や印刷産業は何を準備しておくべきなのかをまとめて報告書を発表した。その後も21世紀委員会は形態を変えて、調査・研究を行っていった。
「2000年へのシナリオ」について
報告書は全部で8冊あって、それぞれの要旨を紹介したいところだが、今回は最初の『印刷産業の情報化・ソフト化への展望(2000年へのシナリオ1)・1989年7月』についてのみ要旨を紹介する。
印刷業界は21世紀を目前に、あらゆる面で試練の時期を迎えている。それは、高度情報化というマーケット的な面と、エレクトロニクス/コンピュータ化という技術的な面と、社会の成熟化という経営環境的な面とがあり、印刷業の変革次第ではそれぞれの面にこれからの発展のキーが見いだせるはずである。
印刷物の市場は成熟化したが、印刷会社の社会的機能からみると、新しい市場の広がりが見えてきた。それは「印刷物を作る」という核の周りに広がる印刷付帯サービス分野である。「どのように印刷物を作るのか」から「どんな印刷物を作るのか」、さらに「何のために印刷物を作るのか」というように印刷物制作の川上にさかのぼって関わりを持つことを求められる。今後の印刷業の拡大は、この新しいサービス・ソフトの分野にあり、企業の発展はしっかりした技術蓄積の上に、ニッチの明確さ、強さによって大きく左右されていくだろう。
印刷業は得意先に対するニッチ戦略で印刷物以外の仕事でなくても対応して、得意先の発展とともに成長してきた。それは地域や得意先との仕事上のつながりの深さが受注活動の大きな比重を占めていたからである。このことは印刷業が必ずしも製造業としての顔だけでなくサービス業としての側面も持ち合わせていることを示している。
印刷物の納期が短期化する傾向は今後も止まることはないだろう。多様化するニーズの中で熾烈な商品開発、販売競争が展開され、製品のライフスタイルが短縮化し、そこから印刷物の需要の短納期化が出てきている。これからの成長のために、技術体系を設備の電子化、FA化を中心としたものに切り替える時期がきたといえる。
21世紀委員会が残したもの
1989年当時の報告書だが、マーケティングが不可欠であることを既に記述している。また2002年に発表した「印刷新世紀宣言」には、言葉は違えども2017年現在印刷産業が置かれている状況を切り開いて行くヒントが散りばめられている。
関連する事業としては、技術フォーラムへと進化し、現在の印刷総合研究会、pageカンファレンスと拡がりをみせている。また現在の『印刷白書』のベースにもなっている。
『JAGAT50周年記念誌』では、1967年から50年間、社会の変化に対応して変身し続けたJAGATの姿を時代ごとに区分けして、その軌跡を辿るとともに、これからのJAGATの活動の方向を紹介する。「2000年の印刷産業ビジョン」の15兆円産業は実現しなかったが、印刷会社が印刷物製造以外の「サービス業としての側面」が必要であることは、当時から言われていたことであった。
『JAGAT50周年記念誌』は、『印刷白書』と二分冊にする方針で現在編集作業を進めている。2017年10月26日(木)に記念のJAGAT大会を開催して、その場でお披露目する予定である。『印刷白書』とあわせて読んでいただきたい。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)