お客様のビジネスに役立つ 印刷会社となるために
クロスメディア資格を団体や企業として推進する取り組みについて、経営側の視点と実務者の視点両面からお話を伺った。
埼玉県蕨市にある五光印刷株式会社からは、初めてクロスメディアエキスパート(以下、CME)資格に取り組み、合格者も生まれた。
埼玉県印刷工業組合の教育・研修委員長を務める城戸紀夫代表取締役社長と、県工組主催のCME対策講座に参加し合格した企画制作部の城戸俊紀氏に、今回の取り組みの背景と今後についてお話を伺った。
貴社の事業の方向性の中で、クロスメディアへの取り組みをどのように位置付けていらっしゃいますか?
城戸紀夫氏 当社では、印刷物を届けることが仕事なのではなく、お客様のビジネスにどう役立つのかという視点を持つように心がけています。提案型営業ということはもう何十年も言われ続けていますが、なかなか浸透しないという現況があります。お客様もこちらからの提案を待っていますし、提案ができる営業のところに仕事が集まるのが実態です。
実際、当社でも商工会議所や官公庁などとの取引がありますが、お客様からの依頼以前にある程度のプランとサンプルを作成して提示し、提案の具体像を見せるように心がけています。発注担当者がプロジェクトの責任者とは限りません。サンプルが権限のあるトップの目に触れることによって受注につながったという実績もあります。
新しい取り組みという点では、今までの延長線上ではないニッチな領域を含めて印刷周辺の関連業務を視野に入れて取り組んでいます。これまでどおりの印刷業務だけでは市場はウェブなどその他媒体や、また企画・プロデュースといった代理店的機能も備えるような方向性です。これを実現するには、クロスメディアの発想を持って対応していかなければなりません。特にデジタルメディアは技術やトレンドの移り変わりが激しいため、常に勉強しておかなければ取り残されてしまうという危機感もあります。
今回の対策講座を含めた取り組みについて、どのように捉えていらっしゃいますか?
城戸紀夫氏 当社からは、お客様の事業や関係性など提案業務につながりそうな担当を私が選抜し、臨ませました。以前からCME 資格にチャレンジするよう推奨してきましたが、今回の埼玉県工組の対策講座開講決定で後押しされ、実際の取り組みが実現しました。新たな取り組みの促進に向けてやっとスタートラインに立てたという点で意義があったと思いますし、今後も継続していく方針です。
埼玉県工組教育・研修委員長としての立場では、印刷営業士会から印刷関連資格士会という形に形態を変えたことで、多様な資格を取得したメンバーがお互いを刺激し合って、地域や業界を盛り上げてくれることを期待しています。その意味でも、今回の取り組みは意義があったと感じています。
対策講座受講から試験までを体験した感想をお聞かせください。
城戸俊紀氏 CME 資格については、以前より社長から取り組むように言われていて知っていましたが、今回対策講座受講の指名があり、取得しようということになりました。
対策講座は、毎回前半に講義があり、後半には講義内容に基づいた企画提案をグループワークで実践するという構成でした。私は企画制作部に所属し営業活動をしていますので、実務で関連業界の方と関わる中で企画提案についてある程度の素養はあったと思います。講義の部分でそれらをロジカルに解いていただいたことで、理解が深まり力になったと感じています。具体的な解説の後に演習を行うことにより、理論と実践が結び付く形で企画提案にまとめることができました。また、後半の演習をグループワークとして行った点も役に立ちました。
これまでは他の印刷会社の方とお話しする機会はほとんどなかったので、他社の方とのグループワークは勉強になり、また刺激を受けました。担当業務によっておのおのの専門知識の差はありましたが、その差をお互いに埋めながら意見を交わすことで、かえって勉強になったと感じています。また、毎回異なる与件に取り組むため、さまざまな提案のバリエーションが持てるようになりました。演習の回数を重ねることで展開に幅が持てるようになったことも自信になりました。
試験対策という点では、実務上で企画提案を行ってきたとはいえ、論述試験で求められる提案書という形にまとめることはほとんどなかったため、講座で毎回配布される模範解答を参考に、時間配分を意識しながら自分で提案書を答案形式で書いてみるという練習を行いました。学科試験についても、事前に模擬問題を解いていたことで、安心して試験当日を迎えることができました。
今後の取り組みやビジョンについてはどのようにお考えでしょうか?
城戸紀夫氏 お客様の役に立つ印刷会社としてビジネスに向かっていかないと厳しい市場ですので、そういった視点を持てる人材を育てなければならないし、埼玉県工組としても勉強会などを通して推進していきたいと考えています。それらの活動により印刷関連資格士会が盛り上がり、人材が活性化していくことが重要です。
五光印刷でのトピックとしては、お客様からお声がけいただき参画した『QR バンド』(個人情報保護に配慮し氏名連絡先等をコード化して紙に印刷したリストバンド型迷子防止札)という商品が実現し、東京五輪に向けて多くの採用を目指しているところです。産学連携で大学と企業のコラボレーションにより商品化が実現した案件です。日頃から多くの提案をしてきたことで今回の企画にも声がかかったのだと思います。こういった日常的な提案姿勢にこれからも期待しているところです。
城戸俊紀氏 名刺にも早速クロスメディエキスパートと入れましたので、その名に恥じぬよう頑張っていきたいと思います。今回の資格への取り組みによって、ロジカルな部分の補強になり、ものごとを咀嚼して人に伝えやすくなったと感じています。更に展開を拡げて新しい実践につなげていけるようにしたいと思っています。
–JAGAT info 2017年7月号より転載–