今になって思えば、当たり前だと思うかもしれないが、20年前にインターネットに関する今の状態を予測できた人間は、皆無に等しいと思う。予測は難しいが、デジタル時代を生き抜くには、最先端技術の直ぐ後をついていくこと(長くても一年以内)は必要である。
インターネットが登場して直ぐに北米ではWiredという「デジタルテクノロジーでメディアがどう変わるか?(人によってWiredのとらえ方は違うと思うが)」という雑誌が発刊された。その創刊編集長がケヴィン・ケリー氏であり、2018年2月8日(木)のpage2018の基調講演2「インターネットの次に来るもの」では、まさしく氏の著書である『インターネットの次に来るもの(原題はInevitable=不可避なもの)』について、日本語訳者である服部桂氏に講演いただく。この本はなかなか大著で、全体を理解するのは正直しんどい。
中身は12の章から成り立っており、その項目を挙げると、このような章立てになっている。
1.Becoming(なっていく)
ネット化したデジタル世界では、結果がプロセスになっていく。つまりプロダクツはサービスに、名詞は動詞になっていくというのである。抽象的に言えば、個体が支配する世界が液状化し、分散化し、生物学的な有機的な世界になる。→イメージは何となく理解できる。
2.Cognifying(認知していく)
これは造語で、物事を知的でスマートにしていくということ。世界中がAIを使用し、強化することでサービス価値を生む。
3.Interacting(相互作用していく)
マシンは相互作用するようになり、相互作用しないマシンは故障していると見なされる。相互作用と言っても半端なものではなく、映画のマイノリティ・レポートのように全身を使ってマシン(コンピュータ)を操作するようになる。
4.Accessing(接続していく)
モノを所有するより、アクセスすることが大事になる。
ウーバーは最大級のタクシーサービスだが、車を所有していないし、フェイスブックは世界最大のソーシャルサービスだが、コンテンツは全く所有していないし、アリババは最大級の小売業なのに倉庫を所有していない。
5.Sharing(シェアしていく)
Accessingと同様に、所有に意味が無くなるということである。シェアできるモノは極限までシェアされるようになる。
6.Screening(スクリーンで表現していく)
これが印刷には直接響くかもしれないが、書籍は正確で固定化された情報伝達の世界だった。これがジャーナリズムを生み、様々な文化を生んできたが、スクリーンで表現される文化は流れ去ってしまう文化だ。これには抵抗ある印刷人は多いと思うが、慣れたり活用する努力は必ずや必要になってくる。
7.Flowing(流れていく)
昔のコンピュータは、デスクトップのマシンの中に情報は全て入っていた。動かなかったのだ。しかしウェブ時代になると、ページが単位となり、相互にリンクされるようになった。そしてクラウド時代になると、情報は常に流れるストリームとなった。つまり、コピーを繰り返し流れていくことになる。それらを関連づける主役はタグだ。
8.Tracking(追跡していく)
恐ろしいことだが、ネットにある情報は全てトラッキング対象になる。VRが一般的になると、行動そのものをトラッキングするようにもなってくるだろう。
9.Remixing(再編集していく)
サービス化した従来の産業やコンテンツが、自由に再編集され、新しい形になる。つまり新聞等のコンテンツがアンバンドル化されて、再編集されて提供されるのだ。
10.Filtering(フィルタリング=選別する)
コンテンツが多く成り過ぎて、選別しないと見つからなくなってくる。もう既にかなりのレベルで、その状態だろう。
11.Questioning(疑問を生んでいく)
問題を解決するには、答えより良質な疑問が重要だ。
12.Beginning(始まっていく)
AIやVRはまだ始まったばかりであり、あと十年もすれば何でもなかったと思えるようになってしまうだろう。まだまだ専門家不在の時代なのだ。まだチャンスはあるということだ。
このような12章が続くのだが、実はケヴィン・ケリーが書いた『テクニウム』という書籍(写真参照)と対になっている。『テクニウム』が基本的技術書で、『インターネットの次に来るもの』が実践書と言える。
技術的なことを知りたければ、この『テクニウム』も読むことが勧められているが、これもなかなかの大著だ。幸いなことにこの本の訳者も服部桂氏で、一番簡単にエキスを手に入れるには、服部氏の講演を聞くことだ。二冊の本の既読者でも氏の講演は必ずや参考になるはずである。私も二冊読んだが、一番参考になったのが、実際に服部氏と話すことだった。2018年2月8日の基調講演2「インターネットの次に来るもの」を是非聴講いただきたい。
(JAGAT専務理事 郡司秀明)
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