会員誌『JAGAT info』の表紙は、印刷文化を語る上で欠かせない色と形の魅力をテーマにしてデザインしている。最近の表紙を例に制作意図を紹介する。
現在は「日本の形シリーズ」として、本誌の発行時期の歳時や風物をモチーフにしたイラストを主体に、和紙のテクスチャーや日本の伝統文様を組み合わせて、季節感と日本情緒が感じられるようにデザインしている。
今回は、2023年12月号で描いた「竜」について紹介する。
毎年12月号のテーマは翌年の干支であることから、今回は辰年に因み、竜を描いた。
竜の伝説は中国から伝わったとされる。
竜の英語名はdragon(ドラゴン)であるが、欧米のドラゴンと日本の竜は同じではないようだ。
一般的に、ドラゴンはどっしりとした胴体に長い尾がつき、四肢あるいは後ろ足で歩き、また翼で飛ぶ姿も見られる。竜の体は蛇のように長く、空を泳ぐように飛ぶ姿で描かれることが多い。
人間との関係で見ると、ドラゴンは邪悪な存在とされることが多いが、竜は湖・海などの水域の守り神とされることが多い。
日本の芸術作品には、竜がさまざまな姿で描かれてきた。
例えば海北友松(かいほう・ゆうしょう)(1533~1615年)の「雲龍図」は、ダイナミックな動きと凄みのある目つきで気迫を感じる。
伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう)(1716-1800年)の「雨龍図」は、顎が外れたかと思うほどに開いた口と上目遣いの目がユーモラスだ。
このように日本では、竜を、恐ろしくも愛すべき存在として捉えてきた。
今回の表紙絵でも、凄みはあるが、どこととなく親しみも持てる竜を目指した。水の神らしく暗い海の上で踊るように飛ぶ姿を描き、色彩は濃紺を基調に、赤い舌をアクセントにした。
原画を色鉛筆で描き、これをスキャンしてコントラストを高めるなどのレタッチを施している。
なお12世紀南宋の時代に羅願が著した『爾雅翼(じがよく)』によると、竜の姿は以下の九つの生き物に例えられるという。
頭は駱駝、角は鹿、目は兎、耳は牛、うなじは蛇、腹はこれも架空の生き物である蜃、鱗は鯉、爪は鷹、手のひらは虎
参考:
レファレンス協同データベース レファレンス事例詳細
“龍について、「頭はラクダ、目はウサギ~」などの特徴があり、中国と日本で指の数が異なるとの話を聞いた。それらの特徴が載っている本を見たい。”
『龍の本』(土屋礼一 著/ビジョン企画出版社 発行/2002)
表紙絵を担当していると、日本文化の歴史や他国との関係などを知ることができる。今後もさまざまな題材を通じて、日本の風物の魅力を伝えていきたい。多忙な日々を送る読者の方々が、本を手に取る一瞬にホッと一息ついていただければ幸いである。
(JAGAT 研究調査部/『JAGAT info』制作担当 石島 暁子)