紙の出版市場が13年連続のマイナスとなる中、電子出版市場は拡大を続けている。多様化する読者ニーズに合わせて出版メディアの新たな取り組みが出てきている。
大幅な減少が続く出版市場
2017年の出版市場は、前年比6.9%減の1兆3701億円、減少金額は1008億円とみられる(出版科学研究所『出版月報』2018年1月号)。
内訳は、書籍が3.0%減の7152億円、雑誌が10.8%減の6548億円である。雑誌が初めて二桁マイナスとなった。前年は書籍と雑誌の売り上げ差額は、書籍7370億円に対して雑誌7339億円と31億円であったが、2017年には604億円の差がついている。
雑誌市場の衰退の要因には、スマートフォンやモバイルなどの普及による雑誌離れがあるのは容易に想像がつく。コミックスに関しても紙は大幅な減少だが、電子コミックへのシフトが続いている。
一方電子出版は着実に拡大し続けており、2017年の電子出版市場は、前年比16.0%増の2215億円であった。紙の市場と合算すると4.2%減の1兆5916億円で、電子の伸びをもってしても紙の落ち込みを補うことができていない。
拡大する電子出版の動きとPOD
出版事情の厳しさが続く中、プリント・オンデマンド(POD)に活路を見出そうとする出版社も増えている。メリットとしては、デジタル印刷機による1冊からの注文対応が可能になることと在庫レスであろう。それは、これまでにない市場を作ることにもつながる。
一定のニーズがあるものの発行部数が少なく単価が高い出版物にPODは向いているだろう。例えば、人文書や理学書、高級美術本などニッチな商品である。2017年の秋には、小学館が1冊税込6万4800円もする豪華美術本の『運慶大全』をデジタル印刷で出版して話題になった。
PODは絶版や品切れ本の復刻にも利用できる。出版自体がかつてのようなコンテンツ大量複製の時代から多様化の時代に変わってきている。今後はおそらく読者ニーズが多様化していくのに合わせて流通の仕組み、売り方も多様化していくと思われる。PODは変化に適応する手法として、大きな可能性を秘めている。
出版の新たな取り組み
デジタル化の特徴の一つとして、個人で情報発信が可能になったことが挙げられる。テクノロジー的には、誰でも出版できる時代に突入している。だからこそ出版にイノベーションを起こす動きも始まっている。
出版を革新していくための一つの取り組みとして、NPO法人日本独立作家同盟の短期集中型の作品制作企画「NovelJam」がある。これは、「著者」「編集者」「デザイナー」が集ってチームを作り、ジャムセッション(即興演奏)のように事前に本格的な準備をせず、参加者が互いに刺激を得ながら、わずか3日間で小説の完成・販売までを目指すものである。
これからの出版のあり方の一つの道筋を提示しており、「著者」×「編集者」×「デザイナー」による新たな出版形態における小説創作イベントである。それは、作り手を発掘・育成するために生まれたものだが、創作の過程を通して、出版に関わる人たちのネットワークや、新たな技術、知見を共有していくことを目的としている。
「NovelJam」の取り組みは、一般社団法人電子出版制作・流通協議会(電流協)が新設した「電流協アワード」の特別賞を受賞した。コンテンツ価値の最大化を図ることと新たなパブリッシングの創出を検討していくことが、多様化の時代にはますます重要になるだろう。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)
関連情報:【印刷総合研究会】
2018年6月26日(火)
出版ビジネスの最新動向2018~産業構造・市場・コンテンツからみる出版の多様化~
出版ビジネスの現状と今後の展望・課題について、「産業構造」「市場動向(海外・国内)」「コンテンツ」の観点からみていきます。海外(アメリカ)の電子出版事情や印刷・流通プラットフォーマーの動向についても解説。さらに2泊3日の出版創作イベント「NovelJam2018」についても紹介します。