広告デザインの世界的な潮流を探る

掲載日:2024年5月17日

アドミュージアム東京で開催された「世界のクリエイティブがやってきた!2023」展より「THE ONE SHOW 2023」の受賞作を紹介する。

「世界のクリエイティブがやってきた!2023」展会場風景

東京・汐留のアドミュージアム東京では、ニューヨーク・ロンドン・カンヌで2023年に発表されたクリエイティブ・アワードの受賞作品を紹介する「世界のクリエイティブがやってきた!2023」展が2月2日〜 4月20日に開催された。

本稿ではその中から「THE ONE SHOW 2023」(ニューヨーク)の受賞作を紹介し、広告デザインの世界的な潮流を探りたい。

「THE ONE SHOW」は1973年に始まり、現在はニューヨークに拠点を置く非営利団体The One Club for Creativityが主催している。審査部門はブランディング・ダイレクトマーケティング・映像・出版・プロダクトなど幅広い。
50周年を迎えた2023年度は69カ国から合計2万166点の応募があり、Gold Pencil(金賞)210点、Silver Pencil(銀賞)200点、Bronze Pencil(銅賞)238点、合計648点が選出された。 さらに受賞作からBest of Show(最高賞)、Best of Discipline(部門別最優秀賞)なども選出された。
会場では、受賞作の一部をポスターと映像作品を中心に展示していた。以下では印象に残った作品を紹介する。

The Greatest(イギリス+アメリカ)

[Best of Show]

The Greatest

2022年12月3日の国際障害者デーに先立ち、アップルが公式YouTubeチャンネルで配信した、同社のアクセシビリティに対する取り組みを紹介する映像作品である。
さまざまな障害を持つ人がアップル製品の音声認識、音声制御、ドア検出などのアクセシビリティ機能を使って生活を楽しむ様子を描いている。1週間で1600万回再生、さらに音声説明バージョンは18万1000回の再生回数を記録した。

苦難の3年間の長いトンネル(日本)

[Gold Pencil]

苦難の3年間の長いトンネル

『北國新聞』に掲載された「第106回 高等学校相撲金沢大会」の30段広告である。
本大会に参加した選手のうち、高校3年生はコロナ禍による2020年の中止と2021年の無観客開催を経験している。そのため2022年の第106回が、最初で最後の有観客の開催となった。そこで本大会を主催する北國新聞社は、金沢市内の高校への取材を基に、練習や外出自粛の中で試行錯誤して過ごしてきた選手たちの時間を、長くて暗いトンネルをイメージするビジュアルで表した広告を制作した。
なお、大会当日の会場は延べ約8000人の観客でほぼ満席となったという。

サントリー天然水:ENDLESS DAWN そしてまた、朝が来る。(日本)

[Gold Pencil]

サントリー天然水:ENDLESS DAWN そしてまた、朝が来る。サントリー天然水の品質をアピールするために、水源の一つである北アルプスの壮大な環境を3Dモデルで再現したインタラクティブコンテンツである。
サントリーのウェブサイトで公開されており、上空から見る山並みや氷河の動きなどがダイナミックに描かれているほか、画面を操作して見る角度を変えたり、北アルプスに関するコラムを表示させたりすることができる。
制作に当たっては、1万点以上の空撮画像と地理院地図の3D機能のデータを組み合わせ、さまざまな3DCGツールを用いることで、バーチャル空間上に北アルプスを再現した。

燃えない本(カナダ)

[Gold Pencil]

燃えない本

アメリカでは、学校図書館などから性や人種差別に関わる描写のある本が排除される事例が相次いでいる。この動きに抗議するため、過去に何度も発禁処分を受けているディストピア小説『侍女の物語』の著者マーガレット・アトウッド氏と出版元のペンギン・ランダムハウスは、本の排除を焚書になぞらえ、耐火素材を用いた同書の特別版を1部制作した。
その後、オークションにて13万ドルで落札され、その収益は文学的表現の自由を促進する団体であるPEN Americaの支援に充てられた。また、特別版制作の経緯とアトウッド氏自らが火炎放射器を用いて耐火テストを行った様子を紹介する映像を公開し、検閲に関する議論を喚起した。

改札ゲート風力タービン(フランス)

[Best of IP & Product Design]

改札ゲート風力タービン

ヨーロッパの電力会社であるイベルドローラがエネルギー危機打開の道を示すために取り組んだ、地下鉄改札口のターンスタイルを発電機のタービンにするプロジェクトである。
工学専攻の学生と協力してプロトタイプを作成し、パリの地下鉄ミロメニル駅に設置した。このシステムは1日当たり2200ワット以上を発電することに成功。同社によれば、もしパリの地下鉄全駅に設置すれば、1路線分の電力を生み出し、年間3万トン以上のCO2を節約できるという。このプロジェクトはフランスの新聞やSNSを通じて注目を集めた。

マッケンロー VS マッケンロー(アメリカ)

[Gold Pencil]

マッケンロー VS マッケンロー

ビールブランドのミケロブ・ウルトラが、自社の「楽しんでこそ価値がある」という信念を伝えるために発表した映像作品で、テニス界のレジェンドであるジョン・マッケンローが、過去の自分のアバターと対戦する内容である。
アバターのCG制作に当たっては、全身キャプチャーや現役時代の映像の分析データをもとに、308種類のショットを作成。そしてビジュアルは、デビュー当時やテニス界のトップに立ったときなどいくつかの姿を再現した。映像では、現実のマッケンローがボールを相手コートに打ち込み、ホログラム表示されたアバターがそれを打ち返す様子が映し出されるが、実際には相手コート側に設置されたピッチングマシンがアバターの動きに連動してボールを射出するという仕組みである。
本作はスポーツ専門チャンネルESPNの番組として、50カ国以上で放送された。


展示された作品には、人権や環境などの社会問題をテーマにしたもの、世界各国のCGやAIの技術を生かしたものなどが多く見られた。そして、クリエイターのユーモアとアイデアに、多くの来場者が刺激を受けたことだろう。

同展の会期は終了したが、「THE ONE SHOW」のウェブページには、受賞作品がアップされているので参考にしてほしい。

「世界のクリエイティブがやってきた!2023」展

主催:吉田秀雄記念事業財団
協力:D&AD/The One Club for Creativity/
   カンヌライオンズ日本事務局(日本経済新聞社内)/電通
会期:2024年2月2日(金)〜 4月20日(土)
   第1弾 D&AD Awards 2023 2月2日(金)~2月24日(土)
   第2弾 THE ONE SHOW 2023 3月1日(金)~3月23日(土)
   第3弾 CANNES LIONS 2023 3月29日(金)~4月20日(土)
会場:アドミュージアム東京 企画展示室(Hall B)

アドミュージアム東京

(JAGAT 石島 暁子)

会員誌『JAGAT info』 2024年4月号より一部改稿

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