知識の共有がコミュニケーションエラーを防ぐ

掲載日:2024年6月4日

印刷会社で起こる品質トラブルの原因は、コミュニケーションエラーであることが少なくないのではないだろうか?

お客様から営業の間、営業から生産管理(工務)の間、生産管理から製造現場の間において、情報が正しく伝わらないことで事故が起こってしまう。思い込みやうっかり忘れが原因のこともあるだろうが、情報の出し手、ないし受け手の知識不足が原因のことも多い。

デジタル化や自動化が進み、ノウハウがブラックボックス化してくると、理屈がわからなくとも誰でも簡単に望み通りの結果が得られるようになる。それを成立させるには運用ルールや制約条件があったりするのだが、運用があたりまえになってくると意識されなくなってしまい思わぬ事故が起こる。用語ひとつにしても営業と製造現場で解釈の仕方が異なっていたりする。営業やお客様を含めて最低限の知識は共有しておく必要があるだろう。

代表的な品質トラブルの一つが印刷物の色に対してのクレームである。プルーフと色が合っていない、思っていた品質と違うといったものだ。印刷現場が原因と思われることが多いが、それ以外にも考えられる要因は以下のように多岐にわたる。

  • 入稿データの不備(カラースペースの設定違い)
  • DTP環境での色管理の環境設定不備
  • CMYK変換のミス(ICCプロファイルの設定違いやレンダリングインテントの指定が変わった)
  • プルーフの出力設定の間違い
  • CTPの出力カーブ(ドットゲイン補正)の指定間違い
  • お客様の色評価環境が不適切(照明環境)

原因を特定するために関係者にヒアリングを行う際には、技術に詳しい人が詳しくない人に背景を説明することも必要となる。お互いの知識レベルを合わせることかできれば、コミュニケーションの質とスピードが格段に高まり、効果的な対策が素早く打てるようになるだろう。
逆に、思い込みなどで誤って理解していると議論が本質から遠ざかり、打ち手も的外れとなる恐れがある。

技術者は自分自身が理解して実務を行うだけでは不十分であり、知識がない人に対してわかりやすく説明できることが求められる。コミュニケーションエラーを防ぐためにも実務スキルを経験則で覚えるだけでなく体系的な知識習得の機会が必要だろう。また、自分の担当する工程だけでなく、その関連する工程の知識も身に着けたい。

JAGATでは、「カラーマネジメント基礎と実務」という通信教育を提供している。オリジナルのテキストは130ページにわたり、色の基礎、カラーマネジメント技術の基本の考え方、実務的なCMSワークフローの構築まで体系的に解説している(前述した色が合わない要因についても解説している)。ネット上でもカラーマネジメントの情報はたくさん見られるが、断片的なものが多く1冊で体系的に網羅している文献は少ないと思うのでお薦めである。

また、カラーマネジメントが成立する大前提は印刷品質が安定していることである。オフセット印刷は非常に品質の変動要素が多くコントロールが難しい。同じく通信教育の「印刷技術者のための品質アップ講座」のテキストでは、印刷色を安定させるために調整が必要な項目が整理されている。専門的になりすぎず、わかりやすく解説されているので、印刷技術者だけでなく、カラーマネジメントに関心のある営業担当、プリプレス担当にもお薦めしたい。

(研究・教育部 花房 賢)