ビデオゲームをデザインとして評価する

掲載日:2024年6月17日

GOOD DESIGN Marunouchiで開催された「勇者はUXデザインから生まれる? 人生の大切なことをゲームから学ぶ展」の概要を紹介し、ビデオゲームとデザインの関係を考える。

公益財団法人日本デザイン振興会(以下、JDP)が運営する展示施設GOOD DESIGN Marunouchi「勇者はUXデザインから生まれる? 人生の大切なことをゲームから学ぶ展」が3月15日〜4月14日まで開催された。

JDPは2021年から、デザインの可能性を新たな視点から示す企画展の公募を行い、そこで選出した企画に沿った展覧会を開催してきた。

*参考記事:漫画はどのようにデザインされてきたか

3回目となる今回は、広告制作会社のたきコーポレーションが応募した、ビデオゲームをテーマとする企画が選出された。なお、ここで用いるビデオゲームは英語表現であり、日本ではテレビゲームという呼称の方がなじみがあるかもしれない。

日本のコンピューターゲーム史

日本のコンピューターゲーム史はゲームセンターの普及から始まった。特に、1978年にタイトーの「スペースインベーダー」がヒットしたことが知られているが、やがて縦型の筐体のアーケードゲーム機が広まっていった。

そして、1983年に任天堂から「ファミリーコンピュータ」が発売されたのを契機に家庭用ゲーム機が普及した。ソフトについても「ドラゴンクエスト」(1986年)「ファイナルファンタジー」(1987年)など、物語性を持ったタイトルが登場した。

また画面表示も、当初の8ビット表示から1990年頃には16ビット表示によるリアルな描写が可能になった。そのためプレイヤーの没入感が高まり、ゲームが単なる娯楽だけではなく、感動を味わいながら、人生の学びを得られるものへと変化していった。

こうして育った子供たちが大人になり、さらにその子供たちもゲームに親しむようになったことで、ゲームは市民権を得ていった。

本展は、このようなゲームの発展史を踏まえたうえで、ゲームをUX(ユーザーエクスペリエンス) デザインの観点から再評価するものである。

ゲームの面白さ・奥深さ・有用性を伝える展示構成

展示のメインは、本展のために開発した学びにつながるオリジナルゲームであり、会期中無料でプレイできた。

そのほかに、企画チームが行った「ゲームから学んだ人生の大切なこと調査」の結果発表、UXデザインの専門家へのインタビュー、各分野の著名人のゲームと学びに関する寄稿文などを紹介するコーナーを設けた。オリジナルゲームは80年代から90年代のゲームセンターに設置されていたアーケードゲームを想起させる筐体に収められ、来場者が気軽に触れるようにした。

画面のデザインも当時に合わせて8ビットのドット絵を用いた。ゲーム初心者でも抵抗なくプレイできるよう、ストーリーとインターフェースはシンプルにしたうえで、要所要所で遊び方のヒントを表示するなどの配慮が行われた。しかし、ゲームの攻略は意外に難しく、隠しコマンドを設置するなど飽きさせない工夫もあった。こうした設計によって、来場者にゲームの面白さ・奥深さ・有用性に気付く機会を提供することを目指した。

オリジナルのアーケードゲームが設置された会場
オリジナルのアーケードゲームが設置された会場
シンプルなインターフェース
シンプルなインターフェース

ゲームは8タイトルあり、それぞれ成長・勝利・仲間・困難・お金・挑戦・時間・考え方というテーマに基づいて作られた。以下では、その概要を紹介する。

「成長」に関する学び ―「めざせ!カンフーマスター」

カンフーの修行に励む青年を主人公にした横スクロール型のアクションゲーム。行く先々に待ち構える障害物を、飛び越え、潜り抜け、あるいは技で倒しながら前進していく。制限回数だけ再挑戦できるので失敗を糧にどこまでレベルアップできるかが成功の鍵となる。

「めざせ!カンフーマスター」

「勝利」に関する学び ―「駆け引きボクシング」

ボクシングを題材とした対戦型のカードゲーム。方向キーで移動し、フック・アッパー・ストレート・スペシャルの4種類のパンチを選んで繰り出す。自分のフックは相手のアッパーに強いなどの特性があらかじめ設定されているので、相手が出すパンチを的確に予想することが勝利につながる。

「駆け引きボクシング」

「仲間」に関する学び ―「MONSTER REVENGE」

「さるかに合戦」を模したアドベンチャーゲーム。主人公の子ガニは母親の敵討ちのために、仲間を選んで宿敵の大猿に立ち向かう。選んだ仲間の組み合わせの相性で勝敗が決まるので、戦力のバランスを考えることが成功の鍵となる。

「MONSTER REVENGE」

「困難」に関する学び―「ASTRO SURVIVOR」

謎の星に墜落した宇宙船が舞台のプラットフォームアクションゲーム。搭乗員は暗い船内に明かりを投下し、途中でバッテリーを見つけてエネルギーをチャージしながら、足場から足場へジャンプで移動し脱出口を目指す。逆境における的確な判断力が求められる。

「ASTRO SURVIVOR」

「お金」に関する学び―「GOLD RUSH」

縦スクロールシューティングゲーム。1850年代、ゴールドラッシュのテキサスタウンにUFOが襲来したという設定で、迫り来る敵に戦いを挑む。戦いの前に手持ちの資金で銃弾や馬の餌などを調達するが、ここで予算を効果的に使えるか否かが勝負を左右する。

「GOLD RUSH」

「挑戦」に関する学び ―「DEAD or ALIVE」

迷宮を舞台にしたアクションゲーム。歩き回るモンスターを避けながら廊下を進み、所々に置かれた財宝を見つけて集めていく。迷宮から脱出すればそれまでに集めた財宝が自分のものになるが、途中でモンスターに倒されたら全てを失う。リスクとリターンを見極めることが成功の鍵となる。

「DEAD or ALIVE」

「時間」に関する学び―「時は金なり地獄連打」

連打数測定ゲーム。地獄の入り口に連れてこられた少年は、人間界に戻るための条件として、与えられた時間内にボタンを一定数以上連打する試練を課せられた。連打の数がお金に換算され、目標額を超えれば人間界に戻れる。連打できる時間はサイコロで決められ、その時間の使い方が運命を分ける。

「時は金なり地獄連打」

「考え方」に関する学び ―
「勇者コマンド その選択が伝説になる」

勇者が魔王と戦うRPGアドベンチャーゲーム。勇者は、魔王の攻撃の内容、自分が持つLV・HP・MPの数値などを把握したうえで、「たたかう」「まほう」「かいふく」などのコマンドを選んで戦う。状況に応じた最適な戦略を選ぶことが勝利につながる。

「勇者コマンド その選択が伝説になる」

会場では幅広い層の人々が楽しむ光景が見られ、会期中の来場者数は約1万7千人であったという。
本展は、UXデザインの概念をゲームという身近なツールを用いて、広く一般の人々に広める貴重な機会であったといえる。

勇者はUXデザインから生まれる? 人生の大切なことをゲームから学ぶ展

会期:2024年3月15日(金)~4月14日(日)
会場:GOOD DESIGN Marunouchi
主 催:公益財団法人日本デザイン振興会・株式会社たきコーポレーション
公式ウェブサイト

(JAGAT 石島 暁子)

会員誌『JAGAT info』 2024年5月号より一部改稿

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