マスター郡司のキーワード解説:VUCAの時代
PDCAからOODAへ

掲載日:2024年8月26日

電車内のデジタルサイネージのメリット

今回は、前号で紹介したVUCA時代のマーケティングについて、より詳しく話をしていきたい。
その前に言っておきたいことがある。前回、「私が利用している東武東上線の中吊り広告がメッキリ減っている」と述べた。その際の比較対象は西武池袋線なのだが、その西武池袋線の中吊り広告も「減ってしまっている」と改めて感じている(毎週利用するので)。西武と東武の比較話はそれだけでも笑い話になるのだが、今回はそれをヌキにしてメディアの形式や内容(コンテンツ)だけに着目しても、電車内のデジタルサイネージコンテンツがだいぶ進歩したことを実感させられている。
今までのデジタルサイネージのコンテンツは、テレビコマーシャルの流用がほとんどであった。音声が出ないので分かりにくいのだが、最近になって、電車内のデジタルサイネージ用に特化して作られているコンテンツも目に付くようになってきた。銀行内や店舗内などのサイネージでリテールメディアとして活用されるコンテンツは、もともと意識的に作られているので説明動画などは分かりやすかったのだが、電車内のデジタルサイネージコンテンツもその内容に工夫が加えられており、アイキャッチの面でも差がついてくると、中吊り広告の身の置きどころがなくなってしまうのではと心配してしまう。
今後、地域や時間帯によってコンテンツの中身を変化させることができれば、広告価値もより高まるはずだ。例えば首都圏では、相互乗り入れにより埼玉・東京・神奈川と連続で走る電車が増えている。埼玉と都内、神奈川では適したコンテンツが異なるであろうし、出勤時と帰宅時で広告内容が異なるのも当然であろう。夕方だったら、赤羽・川越・蒲田・大井町で一杯どう?と誘うようなコンテンツが今後増えるかもしれない(昔の映画館広告には妙に地域性の強いものがあったが、そんな感じか?)。車内のデジタルサイネージなら、走行している地域や時間帯によってコンテンツを手軽に変更できるのは非常に高得点だ。中吊り広告は差し替えなどに手間暇が掛かることから、そういう手間までを考慮すればデジタルサイネージに軍配が上がってしまう。
交通広告といえば「遠くへ行きたい」のポスター、“Discover Japan”世代の私には寂しい限りだが、これも時代だと割り切り、新しい時代への対処をしていかねばならないのだろう。それにしても「遠くへ行きたい」キャンペーンは、思春期の私にとっては強烈であった。あのメロディー♪や、すてきなポスターデザインが、若き日の私にとって「広告・印刷に興味を持った出発点だった」のかもしれない

デジタル時代に適したOODAループ

デジタル技術の進化はものすごく速く、マーケティングの常識だったPDCAサイクルも変えようとしている。PDCAは1950年代にデミング博士(デミング賞で有名)が提唱したフレームワークである。Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の仮説・検証型プロセスを循環させることでマネジメントの品質を高めようとする概念だが、変化が速くなったVUCAの時代にはOODAループという概念が注目されている。VUCAとはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を採ったもので、物事の不確実性が高いため将来の予測が困難である状態のことを表現している。まさしくデジタル時代そのものである。
そのような時代には、PDCAではなくOODAの方がより迅速に対処できるといわれている。OODAとはObserve(観察)、Orient(方向付け)、Decide(意思決定)、Act(実行)の頭文字から成る略称で、「ウーダ」と発音する。アメリカ軍の戦闘機パイロットであったジョン・ボイド氏が提唱した意思決定方法で、PDCAに類似しているが、変化の速い状況では、より強みを発揮する手法だとされている。
PDCAサイクルはPlanからActionまでを一定方向に繰り返すが、OODAループではObserveからActまでのプロセスを、必要に応じて前段階に戻ってループを再開する。元来、PDCAサイクルは工場生産の効率性を高めるためのフレームワークであり、工程が明確になっているプロセスに対して効果を発揮するものだ。一方、「新商品の開発」や「新しく起業」など、工程が明確になっていない場合や先行きが不透明な状況下では、PDCAではなくOODAループの方が適しているといえる。教育コンテンツもタブレット化が進んでいることから、印刷メディアはデジタルメディアとの共存が基本というのは、間違いない。

(専務理事 郡司 秀明)