マスター郡司のキーワード解説:
 レギュラー、オルソ、パンクロフィルム

掲載日:2024年11月27日

フィルムの種類について

私は藝術大学で「写真印刷」という講義を担当しているので、銀塩写真の技術に触れることも多い。先日も感光性の違いによるフィルムの種別について説明していたのだが、昨年度までの学生なら曲がりなりにも「パンクロフィルム」くらいの単語は知っていたものの、今年度は皆無になってしまった。主として3・4年生が受講する科目なので、今まで受講した実習中の会話でそれくらいの知識は習得済みであるべきなのだが、パンクロも知らないのには本当にビックリしてしまった。

本連載では、経営する立場にある方が知っておくべき技術・経済(マーケティングなど)の基本的なキーワードを解説している。だが、「印刷業界に勤めている若い人も知っておくべき?」だと思えるので、今回はフィルムの種類の話から印刷工程の話まで発展させて解説したい。

感光性でフィルムを分類

まずはフィルムの種類についての話だが、感光性によって以下の三つに分けられる。大前提として、ハロゲン化銀の感光波長というのはもともと400nm付近(塩化銀で410nm)にあり、B(ブルー)光に感光性を持っているのだ。従って、このブルー光のみに感光性を持っているフィルムのことを、元来の特性ということで「レギュラーフィルム」という。また、増感色素などを混ぜてG(グリーン)光まで感光波長域を伸ばしたフィルムを「オルソフィルム」と呼ぶ。そして、BGR全てに感光するフィルムが「パンクロ(マチック)フィルム」である。

感光性によって現像工程などで使用できるセーフライトの色も変わってくるわけで、本来カラー写真を撮るためのカラーフィルムにはセーフライトが使えない。もし使ったら、セーフライト領域の色がおかしくなってしまうからだ。しかし製版フィルムは、パンクロでもセーフライトが使える場合がある。製版フィルムの種別は露光用光源の色で選択されることが多いためだ。

例えばHe-Neレーザーは赤色なので、感材としてパンクロフィルムが必要なのだが、He-Neレーザー用フィルムは、暗緑色のセーフライトが使用できるように設計してある場合が多い。なお、製版で使うのはレギュラーかオルソフィルムが多いので、赤いセーフライトが多かった。

好評を博したスリットカメラ

セーフライトで使い勝手が大きく変わってしまったものに、明室フィルムがある。昔は製版作業に密着反転プリンターを使用し、フィルムを多重露光しながらCMYK版を完成させていた。そして、密着プリンターの光源には長波長域まで伸びている光源(タングステン光など)を用いて通常使用する露光時間の何十倍(3桁かな?)もの時間で露光すると、製版の設計図である版下(ケント紙に罫線や図を描き、写植文字をキレイに貼り込んであるもの)を原板としてもフィルムをキレイに密着反転できるのだ。私も最初見たときは、「紙を密着反転?」とビックリしたものだ。

カメラで撮影してしまうとレンズ収差(コマ収差やタル型収差といった歪曲現象)が付きまとうので、自動化の第一歩である作図機(私が扱っていた製品はカドグラフといったが、最も一般的だった)を使用すると、作図機の直交線と文字の隙間がアンバランスでおかしなことになってしまう。もちろん製版カメラのレンズにゆがみがなければよいのだが、レンズ収差をなくすのは難しいので、版下を原板として密着反転するのが手っ取り早かったのだ。

ところが、密着反転フィルムが明室化されると(明室フィルム用の紫外光は紙を透過できない)、版下の密着反転ができなくなってしまった。文字部分をレタッチが手作業で貼り直すこともトライされたが、設計図である版下を無視することにもなりスジ論として許容されないし、そのうえ手間が掛かりすぎて作業的にも無理だったのである。

そして、「100%原寸カメラ」という強い要望が製版・印刷現場から出されてきた。その結果として製品化されたのがスリットカメラである。面を撮影しようとするとレンズ収差が問題になるが、縦方向はコピーのように面ではなく線として捉え、横方向はそのスリットを移動し、フィルムも合わせて移動して露光すれば収差は一方向(縦)にしか出ないというわけだ。寸法も端の方では若干狂うが直交性は問題ないので、現実的には問題にならない。DTPで文字と画像の統合が行われるまでは、こんなことが行われていたのだ。

蛇足だが、このスリットカメラは大好評であった。そのおかげで、ボーナス(?)をいただいたのを覚えている。

(専務理事 郡司 秀明)