時代の進化と“共奏”するDTPエキスパートカリキュラム

掲載日:2024年12月23日

先ごろ公開された最新の「DTPエキスパートカリキュラム」(第16版)では、「生成AI」や「紙幣の印刷と偽造防止技術」などの新項目が加わり、カリキュラム全体を通してこれからの印刷ビジネスを支える人材像を示している。ここであらためて『JAGAT50周年記念誌』(2017年)を元に「DTPエキスパートカリキュラム」の生い立ちや初期の改訂の変遷を振り返り、その意義を確認してみたい。

 

JAGATは、1990年代初頭のアメリカの動向から、やがて日本でもDTPが印刷物制作の主流がとなり、そのためには標準化された知識の普及を急ぐ必要があると考えた。DTPというオープンシステムに相応しい教育カリキュラム策定のため、多くの有識者、専門家にヒアリングを行い、欧米のDTP専門書を収集、精査しそれらの集大成として1993年に第1版「DTPエキスパートになるためのカリキュラム」として発行した。
DTPエキスパート認証試験はこのカリキュラムを試験範囲として、翌1994年3月に第1期試験を実施した。

当初より進歩の早い技術に合わせ、2年毎にカリキュラムを改訂する方針で、合わせてDTPエキスパートの知識や情報のアップデートを目的として更新試験を2年毎に実施している。
1996年の第2版では、初版においては分類のあった従来の「写植」「製版」をなくし、「グラフィックアーツ」としてまとめる大改訂を行った。
以後、カリキュラムはDTPエキスパートの役目と方向性を明確に示すものとして、改訂を続けている。

1998年発行の第3版から「よいコミュニケーション、よい制作環境、よい印刷物」という3つのキーワードを掲げ、これらを基本に大きく改訂をした。よいコミュニケーションとは、デジタル化社会にあって、発注者側のデジタル化ともうまくつなげて、Web制作、マルチメディア、オンデマンド印刷などへの業務拡大をにらんだ、来たるべきDTPエキスパートの役割を象徴したキーワードだ。今につながる「共奏」ビジネスの先駆けと言ってもよい。

2002年の第5版では、電子メディアの制作パフォーマンスが向上するのに比して印刷物制作が効率化しないと、印刷需要の低減につながるとの危機感から、DTPでもパフォーマンス向上のための制作管理能力と、個別知識でも科学的アプローチができるエキスパートを目指してカリキュラムの見直しを行い、4つ目のキーワードとして「高いパフォーマンス」が加わった。

2004年発行の第6版では、デジタルカメラをイメージキャプチャーの中心据え、RGB入稿、ICCプロファイル、PDF/X、Japan Colorなどの項目を追加、変更している。
本格的にインターネットが普及すると、著作権やコンプライアンスに対する関心が高まり、2006年の第7版には知的財産権や個人情報保護法の項目が加えられた。

2010年の第9版では、電子書籍の基本知識や照明光源知識としてのLEDが初めて取り上げられている。
そして2014年の第11版からは、試験の新カテゴリーとして「コミュニケーション」が加わった。多様なメディアを効率的に、効果的に作り上げていくときに必要なコニュニケーション能力が、いよいよ本格的にDTPエキスパートにも求められる時代になったのだ。

以上、初期の改訂の経緯を見てきたが、DTPエキスパートカリキュラムの改訂はそのままDTP環境の変化の歴史に重なる。そして多様化するビジネスの変化にも対応し続けている。
DTPエキスパートはゴールではなく、カリキュラムの進化と更新試験により、JAGATが掲げるこれからの印刷ビジネスの本流となる「共奏」ビジネスの担い手として、進歩し続ける人材なのだ。

(JAGAT 研究・教育部 橋本 和弥)

 

【関連情報】
「DTPエキスパートカリキュラム」第16版公開(12/13)
 

第63期DTPエキスパート認証試験 
 試験日:2025年3月7日(金)・8日(土)
 申請受付:2025年1月8日(木)~2月7日(金)

page2025(2025年2月19日(水)~21日(金))
 テーマ:共奏 

『印刷白書2025』
 keynote“「共奏」ビジネス”