印刷ビジネスの新事業展開や他産業との協業をけん引する人材には、ビジネスパートナーから印刷に関するあらゆる知識と経験が求められる。そのため、現在の職務範囲にとどまらない、一般的かつ体系的な知識習得の機会を得ることが望ましい。デザイン人材の活躍は社会的にも様々な場面で期待されている。
地域産業とデザイン人材に期待されること
経済産業省地域経済産業グループは、少子化が進行するなか、東京圏以外の地域社会では可処分所得および可処分時間が相対的に豊かであることに着目し、2024年5月に「地域の包摂的成長の実現に向けた地域経済産業政策の方向性」*1 を打ち出した。そこでは人材に関する問題意識として、以下の3点を挙げている。
①人口動態による構造的な労働供給制約が加速し、若年層はさらに希少資源化する
②特に地方部における人材の定着に向けて、地域経済を牽引する中堅・中小企業への期待が高まる
③これら企業のブランド力や発信力の向上、魅力度向上を強化する必要がある
これらのうち、「企業のブランド力や発信力の向上」という課題の解決は、デザイン人材との親和性が高い。だが、日本デザイン振興会『デザイン白書2024』によると、デザイン業就業者数(デザイン事務所の就業者数)は東京(約45.8%)や大阪(約11.8%)に集中しており*2 、地域の課題解決に必要なデザイン人材が地域圏内で見つからないといった問題が生じている。
そこで経済産業省商務・サービスグループデザイン政策室では、「地域のために、地域に根差して、地域社会のさまざまなステークホルダー層と連携しながら、デザイン活動に取り組む人材」に対して「インタウンデザイナー」という呼称を用いており、地域のデザイン人材の活用を啓発している*3 。地域課題の解決とデザイン人材のマッチングが地域経済の発展には欠かせないという問題意識が、ここからうかがえる。
同政策室による活用ガイドでは、デザイン人材をグラフィックデザインの領域だけでなく、プロダクトデザイン・体験のデザイン・しくみのデザインにまで広げて捉え、デザイン人材の幅広い活躍を想定している。
印刷会社では、「デザイン」というとグラフィックデザインを中心に捉えることが多い。だが、JAGATが主催する印刷物制作の資格試験であるDTPエキスパート・マイスターの合格者に実際の活動状況をヒアリングしてみると、特に地方都市で活躍するデザイン業務従事者には、グラフィックデザインに限定しない活動を行っているケースがたびたびあった。印刷の周辺領域や上流・下流工程への事業拡大を考えるうえでは、デザイン領域の拡大というのも一つの手法なのかもしれない。
印刷会社に求められるデザイン領域の広がり
JAGAT が実施した印刷産業経営力調査を基にした報告書『印刷マネジメントブック2024』によると、「顧客からの評価を高めるために最も重視すること」に対し、「提案力・課題解決能力」や「人的信頼関係」が上位に挙げられている。また、「顧客からのロイヤリティ獲得のために最も重視すること」として「地域活性・地域貢献・地方創生・地域ブランディング」が注目されている。単なる人脈の活用にとどまらずに、人と人との顔の見えるネットワークから生じる互酬性と信頼、つまり社会関係資本の価値が問われている。
印刷会社に期待されている顧客の困りごとの相談などからは、地域社会におけるデザイン人材の可能性が感じられる。地方都市にこそ、未来を担う地域人材として、印刷会社発のデザインによる課題解決が期待されているのではないだろうか。
*1 「地域の包摂的成長の実現に向けた地域経済産業政策の方向性」
*2 統計値は総務省「令和3年経済センサス- 活動調査」に おける「産業小分類―デザイン業」の集計値
(JAGAT 丹羽朋子)
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開催日時:2025年2月20日(木)16:30~17:00
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