この1年のデザインと印刷を巡る動きから、特徴的なトピックスのいくつかを紹介する。
印刷素材の価値を再発見
株式会社竹尾は4年ぶり、48回目となるtakeo paper show 2018 「precision」を開催し、多くの来場者を得た。
また同社は、エレファンテック株式会社(旧:AgIC株式会社)とともに、導電性金属インクと紙の組み合わせによるさまざまな製品を開発している。
IGAS2018会場では、紙製の懐中電灯「PAPER TORCH」、成田国際空港に展示した光る紙箱ツリー「PAPER BOX TREE」、紙の鉄道模型が走る「かみてつ」などを紹介した。
株式会社TANTと有限会社篠原紙工は、紙と金のジュエリーブランドikueを立ち上げた。
書物を保護するために天・地・小口の三方に金箔を貼る「三方金」と呼ばれる技術からインスピレーションを受けて開発。耐水性、耐久性のテストを重ねて商品化した。Facebook、インスタグラムとも連動、展示会でアピールし、話題となっている。
フォントデザインの再評価
印刷物にしろWebサイトにしろ、フォントはデザインイメージを決めるベーシックな要素である。2017年から2018年にかけて、いくつかのデザイン賞でフォントが受賞しており、フォントの価値が再評価される傾向にある。
株式会社イワタの「イワタUDフォント」は、2017年度グッドデザイン賞 グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した。
2006年にパナソニック株式会社と共同開発し、多くの業界・業種に採用された、ユニバーサルデザインフォントの先駆けである。文字に新しい視点を与え、カテゴリーを創出させた点、高齢者や視覚障害者の生活の質を高めるという社会的な価値が評価された。
フォントワークス株式会社のフラグシップフォント「筑紫書体シリーズ」は、2017年度グッドデザイン賞を受賞した。「金属活字の滲みを再現しつつ、現代的なイメージにデザインされている。
筑紫書体シリーズをデザインした藤田重信氏は、筑紫書体の第2期(筑紫オールドゴシック-B、筑紫アンティークゴシック-B、筑紫アンティーク明朝-L、筑紫Q明朝-L、筑紫Aヴィンテージ明朝-R、筑紫Bヴィンテージ明朝-R)で、東京TDC賞2018 タイプデザイン賞も受賞している。
砧書体制作所(旧:カタオカデザインワークス 代表:片岡 朗氏)のフォント「砧明朝体」は、日本タイポグラフィ協会による「日本タイポグラフィ年鑑2018」でグランプリを受賞した。
「優しさ」と「間」をコンセプトとしており、大きく表示した時には優しい表情を見せ、小さい表示では潰れにくく読みやすい。
注目度が高まるインフォグラフィックス
多様化する社会において重要となる分野であり、優れた事例が生まれている。
2017年度グッドデザイン賞では、ニュースコンテンツ「日経ビジュアルデータ」がグッドデザイン金賞を受賞。
文京学院大学が作成した訪日・在留の外国人向けの「防災マニュアル」が、グッドデザイン賞を受賞している。
「日本タイポグラフィ年鑑」にはインフォグラフィックス部門があり、2018年度は中野 豪雄氏による『福島アトラス』(企画発行:特定非営利活動法人 福島住まい・まちづくりネットワーク)が部門別ベストワークを受賞した。
大日本印刷DNPは、インフォグラフィックスとユニバーサルデザインを組み合わせたコンサルティングサービス「DNPデジタルマーケティング時代のデザインメソッドIGUD」を構築し、関連するセミナーを実施している。
印刷会社の独自ブランド
株式会社ショウエイは、クリエイターと協力し、UVインクジェットプリントとデジタル後加工技術を駆使したデザイン作品を発表している。
実験企画「INK de JET! JET! JET! 」展を、2015年と2016年、そして今年8月1〜13日に開催。2017年には多摩美術大学や東京造形大学で巡回展も実施した。
昨年は、印刷サンプル集『PRINT TRIAL Vol.1』を池澤樹氏のアートディレクションで発行。世界三大広告賞の1つ「CLIO AWARD」ブロンズ賞を受賞した。
第27回日本文具大賞では、紙と印刷に関連した製品が受賞している。
機能部門では株式会社ケープランニングが開発した卓上型の日めくり付せんカレンダー、himekuri(ヒメクリ)が優秀賞を受賞した。
付箋加工され、365日全ての絵柄が変わる。自社ECサイトの活用、クラウドファンディング、ユーザーによるインスタグラムでのムーブメントなどを通じて製品展開が進んでいる。
同デザイン部門では株式会社小西印刷所が、ポップアップ3Dカードブランド「WAO!POP」の「ひとひらシリーズ」で優秀賞を受賞した。カードを開くと花びらや葉っぱが落ちてカード上にちりばめられる仕掛け。「WAO!POP」はベトナムのPaper Art Viet社と提携して制作。レーザーカットを駆使した細やかな細工と奥行き感、華やかさが特徴だ。
まだまだ数多くの事例があり、今回紹介できたのはそのごく一部だ。文字、紙、インキ、印刷、加工と、印刷物制作の要素は多彩であり、これからも新たな製品・サービスが生まれる可能性がある。
大切なのは、技術とデザインがマッチすること、そして消費者のニーズを捉えて製品・サービスの完成度を高めていく過程である。
デザインと印刷の関係を巡る動向に、今後も注目していきたい。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)