2018年の印刷市場は持ち直し傾向と天災の影響で一進一退であった。しかし今後につながる様々な変化の兆しを見つけることができる。2019年を考えるために、2018年について様々な材料から振り返る。
■2016年:印刷経営の中期的な改善傾向が停滞へ
2016年の印刷産業出荷額は3.4%減の5.3兆円(経産省「工業統計」)。2016年は年初から世界の株価が全面安、英国のEU離脱可決による株価や為替の不安定化、これらの影響で8%への増税が2019年に先送りが決定されるなど政治経済は混乱、印刷需要も低調に推移して近年としては下げ幅が大きかった。リーマンショック以降の中期的な市場の持ち直し傾向が腰折れた年となった。
■2017年:印刷市場は年後半にかけて回復基調
「JAGAT印刷産業経営動向調査2018」に基づき2017年の印刷経営を概観する。印刷会社の売上高は3年連続の減少、営業利益率は4年連続の1%台。中期的な改善傾向にあった生産性関連指標は1人当り売上高・1人当り人件費が揃って2年連続で低下した。リーマンショック以降、2015年まで続いた経営指標改善局面の終焉が鮮明になった。設備投資による生産性改善が生み出した利益を人件費に分配する印刷経営の好循環が途切れた形である。
■2018年:売上高:改善も天災の影響が大きく
「JAGAT印刷業毎月観測アンケート」に基づき2018年の印刷経営を振り返る。1月に日経平均株価が26年ぶりの高値を記録するなど好調な日本経済を背景に印刷会社の売上高は改善した。3月までマイナス圏だったが、4月に6ヵ月ぶりのプラス圏に転換すると、5月こそ微減だったものの、以降は8月まで3ヵ月連続のプラスと持ち直した。しかし豪雨・台風・地震が相次ぎ9・10月は再びマイナス圏に失速した。被災はありながらも近畿以西の堅調さが際立った。
■2018年:景況感:再成長へ向けた試行錯誤
JAGATの年末調査によれば(回答社には12/28に7枚のレポートを送付 ※1)、2018年は一言でいえば調整局面だった。ここで筆者がいう調整局面とは、既に実行した設備投資が活用模索状態にあること、快方に向かっていた売上高が天災のために方向感を失ったこと、出版印刷会社が商業印刷に活路を拓き始めたことなど、良い方向への変化の多くが途上にある状況を指す。スマホ出現から10年経って一通りのデジタル対応は一巡感、設備投資も充足感があって、根底には人手不足もあり、強いていえば昨年から続く「働き方改革」を基本線に経営改善に取り組む流れである。
■2018年:製品別:加速度的なメディアシフトの一段落
商業印刷はチラシが大幅減少にも関わらず、全体としては微減にとどまる。この傾向の一因は、チラシからデジタルメディアへの流出ではなく、チラシからパンフやDMへの印刷メディア内シフトともいうべき動きによって説明される。つまり「商業印刷」の利用シーンや概念が変わっているのである。包装印刷・事務用印刷は堅調に推移。出版印刷は特に雑誌が全体の減少を主導、書籍は減少ながらの減少幅は大きくない。そして取次店を経由しない、つまり出版統計に含まれない出版物が増えるなど、従来の印刷市場外の印刷物が現れている変化などに注意を払う必要がある。
■2019年:印刷ビジネスに影響を与える要因は何か
マクロ視点でいえば、印刷市場の増減要因には日本経済と人口動態、企業と生活者のメディア選好、そして選挙などイベント、法改正など社会変革がある。個社単位では、さらに顧客や地域、同業他社の影響を加味するが、まずは既に決まった未来について情報を収集することである。2018年の日経平均株価は26年ぶりの高値をつけたものの年末には辛うじて2万円台で終えるなど不安定感が増して2019年が見通しづらくなった。2019年は物価上昇と増税が不安材料になる一方、改元など印刷需要を喚起するイベントも多く好材料にも事欠かない面白い年になりそうだ。自社の印刷経営を左右する材料には何があるだろうか。情報を収集、様々な事業環境の変化が自社に及ぼす影響を見極めて来たる2019年度に備えたい。
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)
※1 関連レポートはJAGAT会員限定誌「JAGAT info」2019年1月号に掲載予定
※2 より詳細な分析を加えた研究会・カンファレンスを下記開催予定
<関連セミナー>
■研究会 2019年1月23日(大阪)、25日(東京)
「印刷ビジネスの動向と展望2018-2019」
■page2019セッション(計31本)2019年2月6日~8日 東京・池袋サンシャインシティ
基調講演(3本)
カンファレンス(12本)
セミナー (16本)
<関連書籍・レポート>
「印刷白書2018」
「JAGAT印刷産業経営動向調査2018」
「印刷会社と地域活性 Vol.3」
「デジタル印刷レポート2017-2018」
「デジタルハンドブック」
「地方創生/地域活性ビジネス」