【第27期与件:オーダースーツ】クロスメディアエキスパート 記述試験

掲載日:2019年5月27日
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状況設定について

あなたは、首都圏にある中堅総合印刷会社のX社に勤務するクロスメディアエキスパートである。X社は、商業印刷物やSP企画・制作、Webサイトの構築・運用のサービスを顧客企業に提供している。X社にはデザイン制作、およびWebコンテンツや映像・動画の企画制作を専門とする系列子会社があり、グループ総従業員数は160名である。

A社提案プロジェクトについて

オーダースーツの製造と直販を手掛けるA社は、X社が過去に取引を行った顧客企業である。同社のチラシ・パンフレット製作やWebサイトの一部を手がけた実績もある。
営業担当者より「A社は生活者との新しいコミュニケーション戦略を検討している」との報告があった。そこでX社では、営業部門や企画部門、制作部門に所属する数名で、A社提案プロジェクトを立ち上げることになった。クロスメディアエキスパートであるあなたは、本プロジェクトのリーダーを任命された。
X社は、本プロジェクトにて提案書を作成し、2週間後の2019年3月27日にA社へ提出する予定である。

面談ヒアリングについて

A社について調査を進めたところ、X社の競合企業Y社がインターネットやモバイル端末を活用した企画提案を行う準備をしているとの情報が入った。X社は、営業担当者が中心となり、社長と事業企画部長と面談(※ヒアリング報告書参照)を実施した。
A社は、コミュニケーション戦略を立案するにあたり、社外からの優れた提案を取り入れ、実施を検討する方針である。

2019年3月15日

A社ヒアリング報告書

X社 営業部 第一課
牧野 沙織

概要:A社からの提案依頼に伴う、ヒアリング調査
日時:2019年3月13日(水) 10:00~12:00
対応者:滝田社長、長谷川事業企画部長

1.提案へ向けて

A社は、紳士スーツの製造~卸~販売というサプライチェーンにおいて、時代に合わせたポジションを自ら開拓し、事業展開している。1923年の創業当初は服飾生地の卸商であったが、戦後、2代目は紳士用オーダースーツの製造を始めた。その後、3代目の時代に大手百貨店向けのオーダースーツ製造が拡大したが、百貨店の業績不振により経営が悪化。現社長(4代目)の立て直し方策のうち、オーダースーツ「TAKITA」の直販事業により、業績回復を果たしつつある。
現社長の滝田展隆は、「体に合わないスーツほど格好悪いものはない、日本人のスーツ姿を格好よくしたい」と言っており、TAKITAとは異なる新ブランド「テーラー滝田」を創設した。次のステップは、オーダースーツのわかりやすい説明とブランド認知を拡大させることである。ネットを通じて生活者とのコミュニケーションを確立し、関係性を重視した継続的なプロモーションの実現を模索しており、それに伴うコンテンツやメディア展開案を求めている。

2. 施策の運営と実施効果測定

  • 週単位でメディア展開の実績を確認したい
  • 可能な範囲でメディア利用者のレスポンスを把握し、活用したい
  • A社の担当者は、店舗チェーン本部の運営部を中心に2名を予定

3.想定予算

  • 印刷物やWebサイトの企画・制作、ハードウェア、ソフトウェア、開発費などで、総額1,800万円以内を想定(初期費用のみ。サービス開始後の維持費は別途算定として構わない)

4.施策の実施期間

  • 2019年4月に発注先を選定。5月に要件定義と設計、6月~7月に準備、8月は閑散期なのでテストのみ。施策は9月1日に開始し、2020年2月末までの半年とする。その後、施策の評価と見直しを行う。

5.市場動向:紳士スーツ市場とオーダースーツ業界について

  • 戦前までの紳士スーツは、個人テーラーに注文するオーダーメイドが一般的だった。
  • 1950年代後半~1960年代頃、紳士スーツ既製品の大量生産が始まり、高度経済成長とともに百貨店などを通じて販売されるようになった。
  • 1970年代以降、大手アパレルメーカーのブランド戦略が奏功し、有名ブランドスーツの販売が増えていった。
  • 百貨店は有名ブランドの既製スーツ販売が中心であり、それ以外にオーダースーツ部門が併存する形式となっている。
  • 1970年代~80年代に、郊外型紳士服店が誕生し、低価格(3〜4万円)の紳士スーツ既製品の販売が始まった。後に大手紳士服チェーンへと成長した。
  • 大手紳士服チェーンは、2000年頃より「スーツTOWN」「スーツSelection」など若者向けの別ブランドを立ち上げ、既製スーツを販売している。
  • 1990年代以降、アパレルCAD/CAMの開発が急速に進展し、世界的に普及した。アパレル製品のデザインや生地の裁断に利用されている。既製スーツやオーダースーツにおいても、日常的に使用されている。
  • 近年、有名既製服ブランド並みの高級感・オシャレ感と価格(6~8万円)を売りにしたオーダースーツ専門店も登場し始めている。
  • また、大手紳士服チェーンでも低価格オーダースーツブランドを創設し、オーダースーツ専門店の開設を始めた。主力の既製品スーツより若干高額(4~5万円)の設定である。

6.A社の創業と事業モデルの変遷

  • 1923年、滝田定三がA社を創業。当初は服飾生地(スーツ生地)の卸商であった。
  • 1950年頃、2代目の滝田茂司はオーダースーツの製造・販売を始める。
  • 1960年、大量生産が可能な縫製工場を設立。紳士スーツの国内需要は高度経済成長とともに大きく成長したため、事業は安定した。
  • 3代目の滝田久仁雄は、国内工場をさらに強化・拡大(宮城工場を新設・稼働)し、大手百貨店のオーダースーツ製造を受託する。
  • 1989年、中国・北京市にオーダースーツ工場を建設、日本への輸出と中国国内での製造・販売を開始する。
  • 1990年代より積極的にCAD/CAMシステムを導入し、採寸データによる裁断自動化を推進。
  • 2000年に主要取引先の大手百貨店が破たん。A社売上の半分以上を占めており経営危機となる。
  • 2004年、現社長の滝田展隆が直販戦略を打ち出す。東京神田にオーダースーツ直販店「TAKITA」1号店を開店。
  • 自社中国工場の品質は年々向上し、OEMや卸先にも認知された。安価な中国製と細かいオプションが可能な国内工場製の2グレードを提案できるようになり、利益が拡大した。
  • CADシステムを活用したマシンメイドのフルオーダーと工場直販により、低価格・高品質のオーダースーツ提供を実現。他社のオーダースーツ事業との差別化を図っている。

7.A社の現在の事業と直販店「TAKITA」

  • 現在の事業構成は、オーダースーツ直販、オーダースーツOEM、オーダー礼服・オーダー制服の製造・販売、オーダースーツ販売店の開業支援などである。
  • オーダースーツ直販店「TAKITA」は、「安価で良質のオーダースーツを提供する」方針で、インターネットおよび周辺地域にアピールする手法で成果を上げている。
  • 2018年時点で「TAKITA」は全国で42店舗を運営している。
  • 「TAKITA」の店舗の多くは商業ビルの2階以上にあり、目立たず高級感もない。店舗を見て来客するのではなく、ネット検索やネット広告で知って来店することがほとんどである。
  • Webサイトの来店予約フォームで、来店受け付けを行っている。予約して来店した客は、ほぼ採寸後に注文している。
  • A社のオーダースーツは、初回特別価格19,800円、通常で24,800円(オプションや生地により価格は変動)。マシンメイドのフルオーダーと工場直販によって、高品質と低価格を実現。
  • 大手紳士服チェーンの既製スーツ価格帯が2~4万円であり、価格面の競争力は高い。
  • オーダースーツの出来は「注文者の身体的特徴や要望を採寸データに反映すること」にかかっている。「TAKITA」では必ず来店してもらい訓練されたスタイリストが会話しながら採寸する。
  • スタイリスト教育には力を入れており、接客・スーツ知識・Web知識など、毎年2日間のスキルアップ研修を実施している。

8.「TAKITA」の販売促進

  • Webサイトでは、「マシンメイドによるオーダースーツ」のメリットや高品質など自信をアピールしている。価格はオプションも含めて公開されており、シミュレーション可能。
  • インターネット広告やSEO対策を通じて、低価格オーダースーツに関心ある層に「TAKITA」を訴求している。
  • パンフレットの他に小冊子「はじめてのオーダースーツ採寸」を作成し、店頭やイベント等で配布している。小冊子はオーダースーツの敷居を低くする目的だが、分り易いと好評である。
  • 社長が自らオーダースーツ姿で富士登山や東京マラソンなどに挑戦し、YouTubeチャンネルで動画配信している。TVの経済番組やニュース番組の取材を何度か受け、放映された。
  • オフィシャルスーツサプライヤーとして、プロサッカーチーム(Jリーグ)やプロ野球チーム等にオーダースーツを提供している。団体肖像権やチームロゴなどの使用権を得て、Webページやポスター・パンフレットに選手のスーツ姿を掲載している。
  • オーダースーツ完成時に試着写真をスタイリストがスマートフォンで撮影し、Webページの「お客様スーツコレクション」で紹介している。撮影レベルには個人差があり、写真掲載の評判は必ずしも良いとは限らない。
  • Webの登録会員やメールアドレスを登録した人向けにメルマガを配信(月1回)している。
  • メルマガ・コンテンツのスーツ豆知識「紳士のたしなみ」シリーズには固定ファンがおり、好評である。
  • 公式アカウントとして、Facebook・Instagram・Twitterで情報発信をしている。
  • 店舗近隣地域への新聞折込チラシは、集客効果が小さく配布していない。

9. A社の新ブランド「テーラー滝田」

  • 「TAKITA」は有名ブランドや大手紳士服チェーンに比較すると一般的な認知度も低く、低価格のアピールに留まっている。
  • 今後、さらにオーダースーツ市場への参入が増え、競争が激化する兆候がある。
  • そこで、より高級感やオシャレ感を持たせた新ブランド「テーラー滝田」を創設した。価格帯は、3~5万円とする。
  • 熟練スタイリストの存在や店舗での採寸、豊富なオプション類、利用者の満足度などをアピールしたい。
  • 2018年、1号店として新宿店を開設した。新規開店、および既存「TAKITA」からの改装店と併せ、今後3年間で12店舗の設置を予定している。
  • 基本スタイルとして「ニューブリティッシュ」「イタリアンソフト」「アメリカントラディショナル」を選択し、オーダーする。
  • ターゲットは、オーダースーツに関心のある20~30代の若年層を中心とする。
  • 初めてスーツを購入する大学生は、主要ターゲットの1つである。
  • 女性スーツの拡大を狙いたいと考えている。
  • 採寸の抵抗をなくしてもらうため、女性スタイリストを全店に配置する予定である。
  • コンセプトは「自慢したくなる、贈りたくなるオーダースーツ」である。高級生地や遊び心のあるオプション選択を充実することで、ブランドの差別化を行う。
  • 店は伝統を醸し出すべく、ロンドンの名門紳士服店通りSavile Row(サヴィル・ロウ)にある店づくりを参考にした。

10.「テーラー滝田」の販売促進

  • 大学構内の広告掲示は認められていないが、首都圏の大学カフェテリアでは、テーブルに三角POPスタンドで広告を出すことが許されている。
  • 大学周辺駅でのチラシ・ティッシュ配布は、過去の経験から効果はかなり限定的である。
  • 認知拡大策の1つとして、「テーラー滝田」二つ折りギフトカードを主要ネットショップで販売する。ギフトコードが印字されており、1万円、3万円、5万円の商品券に相当する。
  • スーツは半耐久消費財であり、次回来店してもらえるのが1年~数年先になることもあるため、その間も継続的なコミュニケーションによってブランドの親近感を維持したい。
  • 購入者限定で誕生日2か月前に5,000円引きクーポンコードを印字したカードDMを送りたい。
  • 注文から受け取りまで約1ヶ月かかるため、この間に「テーラー滝田」を印象付け、さらにファンを増やしたい。
  • Webページ「お客様スーツコレクション」の評価を上げるために、撮影用背景スタンドとカメラスタンドを用意する。スタイリストに撮影技術の講習を行い、スキルアップを図る。

11. A社「テーラー滝田」の競合(B社「ディスタンス」)

  • 大手紳士服チェーンB社が、低価格オーダースーツの新ブランド「ディスタンス」を創設した。価格帯は「テーラー滝田」と同等の4~5万円である。首都圏の主要ターミナル駅周辺に店舗を設置し始めた。
  • 「ディスタンス」は、スマートフォンによるAI採寸・ネット完結をPRし、注目されている。
  • 「ディスタンス」も、A社同様にプロサッカーチームのオフィシャルスーツサプライヤーになっている。チラシ・パンフレット等では、選手の闘う「決めポーズ」を使っている点などA社と酷似している。
  • また、ネット通販大手のZ社では、スマートフォン採寸によるオーダー方式をPRし始めた。スマートフォンで360度撮影するだけで採寸が完了し、来店不要で受け取ることができる。技術の先進性や未来的なイメージを強調している。店舗へ行けない人たちがメインターゲットと思われ、競合ではない。

12. 今後の方針

  • 今まで「TAKITA」とコーポレートサイトは同一のWebサイトとなっていた。今後、コーポレートサイト、「TAKITA」、「テーラー滝田」の3サイトとする。先の2つのWebサイト改修は、発注済み。新たに「テーラー滝田」のWebサイトを用意したい。相互送客も行いたい。
  • スポーツチームのオフィシャルスーツサプライヤーとして、選手と同じモデルを販売するときは、今後も選手起用のチラシを活用するが、ビジネス層へ訴求する場合は変えたほうが良いかもしれないと考えている。アドバイスが欲しい。
  • オーダースーツはスタイリストによる採寸が重要と考えており、今後も変わらない。採寸は敷居が高いと感じる人向けに作った冊子「はじめてのオーダースーツ採寸」をビデオ化し、Webでも閲覧できるようにしたい。
  • 今は、注文してくれた帰り際に「出来上がりを楽しみにお待ちください」と笑顔で見送るだけなのだが、本当に「待つことを楽しみ」にできるよう、何かを実現したい。
  • 今回は、「テーラー滝田」のWebサイト、チラシか小冊子もしくは大学カフェテリア三角POPスタンド、サイト内のビデオ、継続コミュニケーション策などを発注したいと考えている。AIDMAやAISAS等の消費行動モデルに合わせて、どのようなメディアとコンテンツ、何を訴求し、どのように各メディアを関連付けると効果的なのか、説明を含めた提案が欲しい。

A社の概要

【基本情報】

  • 法人名 株式会社滝田
  • 設 立 1961年
  • 従業員 230人
  • 資本金 5,000万円
  • 売 上 25億4,733万円(2018年3月期)
  • 所在地 東京都千代田区岩本町(本社)
  • 役 員 代表取締役 滝田 展隆、 専務取締役 倉田 博
  • 事 業 紳士・婦人向けオーダースーツの製造・販売、店舗運営支援
  • 事業所 本社、宮城工場、中国(北京)工場、45店舗

【企業沿革】

  • 1923年 服飾雑貨卸商として滝田定三が創業
  • 1994年 1950年 2代目社長滝田茂司により、オーダースーツ製造を始める。
  • 1960年 オーダースーツ縫製工場を設立。
  • 1972年 工場にオーダースーツ専用ラインを構築。
  • 1986年 3代目社長滝田久仁雄により、大手百貨店や紳士服店からオーダースーツ受注。
  • 1989年 中国北京市にオーダースーツ工場を設立、日本への輸出と現地での製造・販売を開始。
  • 1991年 工場にCAD/CAM(自動裁断システム)導入。型紙不要、省力・短納期に。
  • 2000年 取引先の大手百貨店が破たん。A社売上の半分以上だったため、経営危機となる。
  • 2004年 新戦略として東京神田にオーダースーツ直販1号店「TAKITA」を開設。
  • 2015年 工場直販オーダースーツ事業を柱に、3年連続の増収増益を達成。
  • 2018年 オーダースーツの新ブランド「テーラー滝田」を開設、市場拡大を狙う。

【経営理念】

  • 少しでも安く、できるだけいいものを。
  • 変化をいとわず、新しいことに挑戦する。
  • 日本のビジネスシーンを明るく元気にする。

【A社損益計算書】

単位(千円)
決算年月 2017年3月 2018年3月
売上高 2,432,180 2,547,325
売上原価 1,576,813 1,597,414
売上総利益 855,367 949,911
販売費及び一般管理費 764,241 839,721
営業利益 91,126 110,190
営業外収益 2,471 2,382
営業外費用 1,881 1,791
経常利益 91,716 110,781

【社長プロフィール】

滝田 展隆(たきた のぶたか)(1974年生まれ、45歳)

  • 学 歴 :
    1996年 1996年 国立H大学経済学部を卒業
  • 職 歴 :
    1996年 大手化学繊維メーカーに入社。営業マンとしてアパレル関係を担当
    2003年 株式会社滝田に入社
    2005年 代表取締役社長に就任
  • 家族構成: 妻、長女、実父、秋田犬
  • モットー: 「考えるよりも行動」「迷ったら茨の道を行け」「幸せのおすそ分け」
  • 趣味 : 登山、磯釣りなど。

(設問)与件文を読み、次の設問の解答を、別途配布された解答用紙に記述しなさい。

[問1]A社の顧客コミュニケーションにおける課題を優先度の高い順に3つ記述しなさい。

[問2]問1の課題を解決するための具体的なコミュニケーション施策を箇条書きで記述しなさい。
ターゲット、コンテンツ内容、使用するメディアと選定理由についても記述しなさい。

(1)コミュニケーション施策
(2)ターゲット
(3)コンテンツ内容
(4)使用するメディアと選定理由

[問3]A社に提出する提案書を問1、問2の内容を踏まえて記述しなさい。
(記述形式:A4縦・横書き・3枚)