日本の形を伝える

掲載日:2019年6月13日

会員誌『JAGAT info』の表紙デザインは、2019年2月号から「日本の形シリーズ」と題し、日本古来の絵画や工芸品に描かれた文様を素材に展開している。

「日本の形シリーズ」では、伝統文様をモチーフにしたイラストを描くことで、日本人が自然や事物をどのように捉え、どのような形で表していったのかを伝えたいと思っている。

2月は雪輪、3月はエ霞、4月は桜、5月は改元にちなんで梅と続く。

※参考:JAGAT info バックナンバー

6月15日発行の6月号の表紙は、流水模様をテーマにした。

古来、水は世界各地で神聖なものとして、または生命の源として崇められ、その姿が絵画や工芸の中に多様な形で表現されてきた。

紀元前のエジプトでは、水はジグザグ模様で表されている。

日本では、7世紀・飛鳥時代の「玉虫厨子」に波模様が見られる。

「玉虫厨子」須弥座背面

▲「玉虫厨子」 須弥座背面(須弥山世界図)

玉虫厨子拡大図

▲上図の下部拡大 短い曲線が段々に連なり波打つ海面を表している。

平安時代以降、水の表現は発展していった。曲線や渦巻きを組み合わせて、ある時は流麗な流れに、ある時は激しい渦や波しぶきといった風に多様なものとなり、印象派やアール・ヌーボーなどのヨーロッパ芸術にも影響を与えている。

尾形光琳「紅白梅図屏風」

▲尾形光琳「紅白梅図屏風」 この絵に描かれた波の作風は「光琳波」と呼ばれ、後世の工芸品に受け継がれている。

葛飾北斎 富嶽三十六景「神奈川沖波裏」

▲葛飾北斎 富嶽三十六景「神奈川沖波裏」 大胆な構図がヨーロッパの人々を驚かせた。

6月号の表紙絵を描くに当たり、筆者の地元にある川を観察してみた。住宅地を流れる小さな川ではあるが、多少の高低差があり、ところどころで岩にぶつかり、それなりの流れが見られた。

一瞬として止まってくれない流れを一枚の絵に収めるのは難しい。

しかし日本の絵画や工芸に描かれた水を改めて見直すと、曲線の連なりによって、生き生きとした流れが生まれている。捉えにくい自然の現象を形にする先人のセンスに、改めて感服した。

その先人の域には達しないが、流れる曲線と渦巻きを組み合わせ、上流から下流への流れを描いてみた。

JAGAT info 2019年6月号表紙

このように、毎月、文様の由来を調べながら表紙絵を描く作業は、学びが多く楽しい。
JAGAT会員の方々に、日本文化の豊かさ、面白さをお伝えできたらと思っている。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

参考:『日本の文様/波百態』編集:岩崎 治子/発行:岩崎美術社

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