【マスター郡司のキーワード解説2019】ひじわ

掲載日:2019年7月29日

今回は「ひじわ」について取り上げる。

JAGAT 専務理事 郡司 秀明

ひじわ

JAGATでは印刷技術教育のための書物を発刊しており、そのメンテナンスもJAGATの大事な責務と考えている。2018年度は期末に二冊発刊した。最初が『DTPエキスパートサポートガイド』で、二冊目が『みんなの印刷入門』である。JAGATでベストセラーと言ってもせいぜい1年に600~700部くらいなので、発行部数と改版、在庫のバランスを取るのが大変なのだ。そこでの英断なのだが、一回の発行部数を600部、700部と割り切って、デジタル印刷で少部数出版する方向性を打ち出した。そうすれば毎回印刷する度に版を変更できるし、常に最新知識を提供できる理想的な教育本になると考えてのことである。大変な部分もあるが、やる気になればできることは証明された。

具体的にはロールタイプのインクジェット印刷機を使って本文を印刷することにしたのだが、思わぬ伏兵に悩まされた。前々から水性インクジェットは乾燥の問題が付きまとい、乾燥温度を高くすると波打ち現象等のトラブルが発生してしまうことが報告されていた。せっかくデジタルなのだからと全ページカラーにした。さらにカラーなのだからなるべくカラフルにということで、カラー部分を多くしようとするのだが、インク量が多くなると波打ち現象は強くなってしまうのだ。

印刷会社とも協議・検討した結果、薄紙は波打ち現象には弱いので、90kg以上の紙を使用することにした。にじみ等の問題もあるので微塗工紙よりはコート紙、それもマットコート紙を使うことで、現在は品質面では落ち着いている。

今後はインクジェットに最適な用紙が増えて行くと思うが、一昔前のオフ輪での「ひじわ」と同じトラブルに悩まされるとは思わなかった。そこで今回は 、「ひじわ」について簡単に解説してみることにする。

「ひじわ」とは、オフセット輪転印刷機において、ドライヤー加熱の影響により発生するちりめん状の用紙のしわのことである。発生原因には印刷テンション、絵柄量、絵柄配置、用紙の繊維配向性などがある。しかし、最大の要因は高温加熱乾燥であり、印刷スピードを下げて、加熱乾燥温度を下げることで減少する。オフセット輪転印刷特有の問題の一つである。

印刷紙面がドライヤー内で加熱され紙中の水分が蒸発する際、インキの着いた部分は蒸発し難いのに対し、インキの着いていない部分は蒸発がスムーズに行われるため絵柄によって、用紙に不均一な寸法変化が生まれ、ひじわが発生する。水性インクジェット印刷の場合も同様である。

「ひじわ」は乾燥によって印刷部と白紙部の残存水分に差が生じることになり、用紙収縮が部分的な差となって現れ、収縮の少ない絵柄部が膨らみ、これに印刷テンションが作用して流れ方向に波打ち状のしわが発生、冷却後しわとして固定化されるというトラブルである。水性インクジェット機の場合は、オフ輪ほど極端なものではなく、しばらくすると落ち着いてくるようである。オフ輪ほどには急激に乾かさないという理由かもしれないが、波打ち現象のひどい場合は本文ページだけが伸びてきてしまうこともある。余りに顕著な場合は二回断裁も必要で、カバーを付けるのも回避策なのだろうが、紙さえ吟味すれば大問題になることはないようである。

「ひじわ」の軽減は、用紙水分ダウンや、寸法安定性(伸縮性)の改善などがあるが、極端に紙製造時の水分を下げると、静電気発生による工程上のトラブルと、また、折り割れなど、別の品質問題発生の可能性が出てきてしまう。

従って現在も、「ひじわ」の完全解消は難しいのだが、 ①現状の熱風乾燥方式で、できる限り乾燥温度を下げること(インクジェットも同様) ②印刷機ドライヤー長さの延長や低温乾燥型インキの開発・採用などによる乾燥温度ダウンによる乾燥条件の緩和(インクジェットも同様) ③印刷テンションの緩和 ④水なし平版の導入 ⑤用紙の改善(インクジェット機は、専用紙の方がトラブルは少ない) ⑥熱に代る乾燥方法として、UV(紫外線)やEB(電子線)硬化方式などの新乾燥システムの開発・実用化の検討 などの減少策がオフ輪でも進められている。

インクジェット機の方は、今後導入が増えていけば、専用紙の需要も増えて、価格的な問題もなくなっていくのかもしれない。しかし、溶剤インキだったら水分の問題もないので、「ひじわ」だけに着目すれば、「これも一つの解なのかもしれない」などと思ったりする今日この頃である。

(JAGAT専務理事 郡司 秀明)
(会報誌『JAGAT info』 2019年5月号より抜粋)