第30回 国際 文具・紙製品展 ISOTと第28回 日本文具大賞の結果から、印刷業界に関わりのあるトピックを紹介する。
2019年6月26日〜28日に、日本の文具業界最大の商談展である第30回 国際 文具・紙製品展 ISOT(主催:リード エグジビション ジャパン株式会社)が東京ビッグサイトで開催され、国内外の最新の文具や雑貨が数多く展示された。第28回 日本文具大賞の発表もあり、文具をめぐる最新情報を得ることができた。
定番文具に新たな価値を見出した日本文具大賞
第30回を迎えたISOTは14カ国282社が出展し、価値ある製品を求めるバイヤーが多数来場して賑わった。
初日に開催された第28回 日本文具大賞表彰式では、機能部門・デザイン部門合わせて10点の優秀賞を表彰するとともに、各部門のグランプリを発表した。
機能部門グランプリ/プロシオン(プラチナ万年筆株式会社)
ステンレス大型五角絞りのペン先によりステンレス製ながらも金ペンのようなしなやかさを持つ、スリップシール機構でインクの乾燥を防ぐなど書きやすさを追求すると同時に、特殊塗装による5色展開など持つ喜びを刺激する外観にもこだわっている。審査員から「万年筆市場を刺激し、より拡大させる新しい機能を評価しました(清水)」などの評価を得ている。
デザイン部門グランプリ/システム手帳(株式会社マークス)
PU素材のカバーとバインダーを分けることで従来のシステム手帳よりも軽く、持ち運びに便利である。ダイアリーリフィルや柄入りインデックス、ポケットなど女性のニーズに特化したオリジナルの目的別リフィルで、自分らしくカスタマイズできる。昨今増えている、自分でつくった手帳やノートをSNSにシェアするコミュニケーションをサポートしている。現在審査員から「スマホネイティブ世代の女子高生を中心に新しいトレンドを生み出す起爆剤になりそうな商品です(安田)」などの評価を得た。
グランプリのいずれも、書く文化を支える定番文具だ。ただし、従来の定番文具よりも使いやすく、親しみやすくデザインし直して、新しいユーザー層を取り込んでいることが特徴である。
そのほかの優秀賞もユーザーの新しいニーズに応えた工夫がなされている。
その一部を紹介する。
機能部門優秀賞/マグサンド(株式会社マグエバー)
窓ガラスに使えるシリコンマグネットフック。強力なネオジム磁石をシリコン樹脂で覆ったシリコンマグネットを2つ組み合わせ、ガラスや樹脂、木等を挟んで使用する。
マグエバーは永久磁石の専門商社でオリジナル製品の製造販売も手がける。2017年にシリコンマグネットを素材としたiフック・jフックでグッドデザイン賞を受賞している。今回のマグサンドは、ガラス面など、磁石が使えなかった場所にも取付けられることが特長だ。文具としてだけでなくインテリアツールとしても活用できる。
デザイン部門優秀賞/グロススティックマーカー(株式会社カミオジャパン)
スタイリッシュなリップグロス型ケースにカラフルなフィルム付箋をセットした。キャップを外すとプレートの両面にデザインが異なる2種類のフィルム付箋が付いている。一見文具には見えないデザイン性と同時に、ケース入りのため汚れにくい、スリムなのでコンパクトに持ち運べるといった機能面のメリットもある。
カミオジャパンはステーショナリー・雑貨等の企画・デザイン・販売を手がけている。社名の由来は、「カミオ(紙王)ジャパン(日本)」。
ブースでは、グロススティックマーカーの他、大きく開いて中身が取り出しやすいパコトレーペンケース、読んで見て楽しむ大人の図鑑ステーショナリーシリーズなど機能性とデザインをプラスしたさまざまなアイテムを紹介していた。
デザイン部門優秀賞/Kuramae Concrete ペン(株式会社ピージーデザイン)
コンクリート製の軸を持つボールペン。コンクリートの表面を磨いているため、人々が一般的に抱くざらついたイメージとは違い、なめらかで触り心地が良い。芯交換の構造や、書きやすさと耐久性を両立するペン軸の太さなどを工夫している。
ピージーデザインは、デザイン雑貨の開発から販売までを手掛けている。シリコン製のがまぐちや小物入れなどをシリーズ展開してきたが、昨年、コンクリート素材の新ブランドKuramae Concreteを立ち上げた。ペンのほか、マグネット、ペンスタンド、スピーカーなどのラインアップがある。Kuramaeは、同社の拠点である蔵前に由来する。モノづくりの街・蔵前で、新たなものづくりを目指すという同社の意気込みを込めたネーミングである。
印刷・加工技術が生きるアイデアグッズ
その他のブースから、印刷会社の出展や、紙や印刷技術を生かした製品の幾つかを紹介する。
himekuri(株式会社ケープランニング)
2018年度の日本文具大賞機能部門優秀賞を受賞した日めくり付せんカレンダーhimekuri。めくった日付をノートに貼って再利用できる。箇条書きリストを軸としたバレットジャーナルというノート術が注目される中で、売り上げを伸ばしている。
2020年版himekuriカレンダーは、前年の4種から全8種に拡大。himekuriのシリーズとしてA5スリムノート「himekuri note」のほか、新製品のマスキングテープ用収納ケース「himekuri masking tape case」を出展した。
irodo(株式会社扶桑)
アイロンなしで貼れる布用のステッカー。2017年度東京ビジネスデザインアワード(TBDA)最優秀賞受賞をきっかけに生まれた商品だ。多彩なラインアップがあり、生地をカスタマイズする楽しさを提供している。ブースでは、サンプルを貼って試せるコーナーを作り、来場者の注目を集めていた。
ウェアラブルメモ wemo(株式会社コスモテック)
2016年度(TBDA)優秀賞、2018年度日本文具大賞優秀賞を受賞した、油性ボールペンで書いて消しゴムで消せるシリコンメモ。初年度販売10万本を突破したバンドタイプに続き、現在スマホやパソコンに貼るパッドタイプ、iPhoneに対応したケースタイプを開発している。
CRU-CIAL(クルーシャル)(加藤製本株式会社)
技術と開発力で定評のある加藤製本が運営し、「毎日が心躍るものになるためのものづくり」をコンセプトとしている。コロンとした形が愛らしいマカロン付箋、レーザー加工を施した木素材で表紙を仕立てた御朱印帳、ノートの中面が上下に分かれ、前ページに書いた内容を見ることができるLOOKING BACK NOTE、迫力満点のハンバーガー/サンドイッチ単語帳などを紹介した。
Item OSP(大阪シーリング印刷株式会社)
シール業界のリーディングカンパニーを掲げる、大阪シーリング印刷(OSP)はシール・ラベルのノウハウを生かした事業「Item OSP」を紹介した。
シートの裏面どうしがくっつく、ラッピングシート「Pitta wrao」、動物がぶら下がる「ぷらぷらメモ」、美味しそうな「フルーツメッセージ」、花を開くとメッセージが現れる「フラワーメッセージ」、ペットボトルをデコレーションできる「シュリンクル」など、多彩な製品が注目を集めていた。
WAO!POP(株式会社小西印刷所)
レーザーカッティング技術を駆使した3Dポップアップグリーティングカード WAO!POPのシリーズから、2018年に日本文具大賞デザイン部門優秀賞を受賞した「ひとひらシリーズ」「ジュラシックシリーズ」のほか、「フラワーシリーズ」「クリスマスシリーズ」などを紹介した。
ベトナムのペーパーハンドクラフトメーカー Paper Art Viet社と提携し、1点1点手作りで製造しているという。
nanoblock®ポストカード(有限会社室町スピード印刷)
nanoblock®は株式会社カワダが開発した4×4×5mmのミニサイズブロック。室町スピード印刷は、カワダからライセンスを受け、nanoblock®をシート状に並べ、ハガキとセットにした商品を企画した。92円切手を貼れば、郵送できる。
室町スピード印刷は、京都に本社を置き、年賀状や名刺印刷で定評がある。
会場では、nanoblock®ポストカードのほかに、招き猫型ポストカード「にゃんPOS」、くるくるカップケーキカード、2020年の年賀状デザインや、用紙や印字にこだわった名刺など、高品質な自社製品も展示した。
geodesign(株式会社ジオ)
食べ物そっくりの文房具と雑貨のブランド。
まるでレタスなメモ用紙「東京書けるレタス」、豆腐の容器に入った付箋「豆腐一丁」、かまぼこ型の紅白付箋「かみぼこ」、チューブ入りスパイス型のマーカー、ネバネバくっつく「金色納豆くりっぷ」、野菜型の「折り巻きタオル」などなど、本物の特徴を捉えて、よく作りこまれた製品が並んだ。
ジオはプロダクトデザインを中心に、ブランディング、調査・企画から販売支援にかかわるデザイン開発を手がけている。
geodesignは同社の開発力を生かした独自プロダクト商品のブランドだ。
●アジアの文具
アジア勢の出展が目立った。
▲台湾の印刷会社が合同出展したTAIWAN PRINTING & MACHINERY, MATERIAL INDUSTRY ASSOCIATIONのブースでは、デザインに工夫を凝らした紙製品を展示。
▲上記合同出展社の一つ、HK PRINTING GROUP, LTD.はエッセンシャルオイル入りのインキで印刷した用紙で包装紙やノートなどを作成し、来場者の注目を集めていた。
▲AP GROUP (CHINA) CO., LTD.(中国)
ノートやダイアリーなどの豊富なラインアップを紹介。
▲COPYRITE INDUSTRIAL CO., LTD.(タイ)
カーボン紙とカーボンフィルムのメーカー。香り付きの包装紙を紹介。
手書き文化はSNSとの連動で新たな段階を迎えている。それは、自分の個性を表現しながら、同じ価値観を持つ他者と繋がりたいという意識の表れである。手書きにこだわる人々が求める文具は、開発者の思想や製品が生まれる物語が見えるもの、技術や伝統に根ざしたものなど、作り手のメッセージが明快に伝わる製品であろう。
文具をめぐる市場動向や可能性について、今後も注目していきたい。
*初出:「紙とデジタルと私たち」2019年7月11日
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)