2019年の印刷ビジネスを振り返る

掲載日:2019年12月31日

2019年の印刷市場は繁閑が大きく、天災の影響もあったが、例年になく多かった各種イベントの好影響もあった。2020年を考えるために、2019年を様々な材料から振り返る。

■2017年:出荷額の下げ止まり傾向

2017年の印刷産業出荷額は3.4%減の5.3兆円(経産省「工業統計」)。2007年に7兆円台だった印刷市場規模は、リーマンショックとデジタルメディア革新、東日本大震災を経て、2011年に5.7兆円まで加速度的に減少した。しかし最新統計の2017年は前年比0.7%減の5.2兆円と、実質的な下げ止まりに近い微減だった。2017年は、株価が26年ぶりの23000円台に上昇、為替はほぼ110~115円台という日本に望ましい水準で推移した。トランプ大統領によるブロック経済化を危ぶむ声のなか、アメリカも日本も経済は堅調だった好影響が印刷業界にも波及した。

■2018年:印刷市場は年後半にかけて失速、物価上昇が重しに

2018年は、1月に日経平均株価が26年ぶりの高値を記録するなど好調な日本経済を背景に印刷会社の売上高は堅調だったが、豪雨・台風・地震が相次ぎ秋以降は失速した年だった。「JAGAT印刷産業経営動向調査2019」に基づき2018年の印刷経営を概観する。印刷会社の売上高は4年連続の減少。営業利益率は4年連続の1%台と低迷が続いた。1人当り売上高・1人当り加工高が3年ぶりに改善したものの、1人当り人件費も3年ぶりに増加するなど諸物価の上昇をこなしきれず、生産性の改善が収益性に結びつかなかったのである。

■2019年:売上高:天災の影響は大きかったが差し引きではプラスか

「JAGAT印刷業毎月観測アンケート」に基づき2019年の印刷経営を振り返る。春まで用紙不足が影響して売上高はマイナス圏で推移した。4月は統一地方選とGW10連休前の駆け込み需要があった。7月の参院選で与党が勝利するなど政治経済に安心感が広がるに従い、印刷会社の売上高もプラスに転じ、特に9月は増税前の駆け込み需要等によって大幅増となった。10月の反動減は大きかったが、米中貿易摩擦、日韓関係悪化、大型台風などマイナス要因はありながらも、改元、選挙、ラグビーW杯、増税対策などが生み出したプラス要因の方が大きかったことになる。

■2019年:景況感:例年になく多いイベントが印刷需要を喚起

JAGATの年末調査によれば(回答社には12/27に7枚のレポートを送付 ※1)、用紙不足・物価高騰・相次ぐ天災への言及が目立った。一方でラグビーW杯での「ワンチーム」に勇気をもらった経営者も多かった。コスト上昇の価格転嫁が遅れがちで多くの会社の減益要因になっている。しかし「底打ち」「明るさが見えた」との見方も見られ、増収増益を達成したとの会社も少なからずあった。改元・選挙・増税などの大型イベントが集中したので、月による繁閑が激しい年でもあり、経営の舵取りの難しい年でもあった。特需的要因を割り引いて実質を見る必要がある。

■2019年:製品別:生活系の好調、情報系の伸び悩み、価格修正の寄与

総じて悪くなかったが、包装印刷や事務用印刷など生活系が好調な一方、商業印刷や出版印刷など情報系が伸び悩んだ。包装印刷は、個包装の流れや最後の顧客接点としてのマーケティング機能を重視する流れから順調。事務用印刷は個人情報活用によるDM・通知需要が寄与。商業印刷は、折込チラシが減少の一方、パンフ・DM・POPなどが補完。出版印刷は、書籍の下げ幅が例年よりやや大きい一方、雑誌は過去2年の10%近い加速度的な減少局面からは抜け出したが予断を許さない。遅れ気味とは言っても価格転嫁の進んだことが全体的な金額を押し上げた一面もある。

■2020年:印刷ビジネスに影響を与える要因は何か

いよいよ始まる東京五輪では、展示会や花火大会なども含め、様々なイベントが開催日や開催場所の変更を余儀なくされる。そして改元・選挙・ラグビーW杯・増税などが目白押しだった2019年に比べればイベント自体が少ない。しかし喫煙や残業の規制強化や脱プラの潮流があり、従来の価値観とは異なる新しい十年紀の幕開けになりそうだ。印刷市場の増減要因には経済、人口動態、企業と生活者のメディア選好、そして選挙や法改正などがある。drupa2020に象徴される技術革新も影響を与える。自社に及ぼす材料、影響は何があるか、洗い出して2020年に備えたい。

(JAGAT 研究調査部 藤井建人)

※1 関連レポートはJAGAT会員限定誌「JAGAT info」2020年1月号に掲載予定
※2 より詳細な分析を加えた研究会・カンファレンスを下記開催予定


<関連セミナー>
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<関連書籍・レポート>
「印刷白書2019」
「みんなの印刷入門」
「JAGAT印刷産業経営動向調査2019」
「印刷会社と地域活性 Vol.3」
「デジタル印刷レポート2018-2019」
「地方創生/地域活性ビジネス」