日本の近現代史をたどる写真展「後世に遺したい写真」

掲載日:2020年1月10日

東京・品川区の光村印刷株式会社が運営する光村グラフィック・ギャラリー(以下MGG)で2018年10月25日から11月24日まで、公益社団法人日本写真家協会(JPS)・日本写真保存センター主催の写真展「『後世に遺したい写真』―写真が物語る日本の原風景―」が開催された。

「後世に遺したい写真」展示風景
1910年代から2000年にかけて写真家が捉えた日本の記録約100点を、写真原板からバライタ紙にプリントして展示した。

リーフレットに掲載された作品

▲リーフレットに掲載された作品
上段左:「原節子 芝浦製作所の扇風機」1936(昭和11)年 名取洋之助
上段右:「銀座4丁目 服部時計店前」1945(昭和20)年 菊池俊吉
下段左:「学童疎開 入浴を喜ぶ児童たち」1944(昭和19)年 中村立行(品川区立品川歴史館所蔵)
下段中:「白さぎ」1960(昭和35)年 田中徳太郎
下段右:「おにぎりを持つ親子 長崎」1945(昭和20)年8月10日 山端庸介

このほか、
江見写真館によるガラス乾板作品「津山高女全校生徒800人の記念写真」1930(昭和5)年
外国向けグラフ雑誌『NIPPON』14号に掲載された土門拳による「極東の共栄のために」1937(昭和12)年
戦後グラフジャーナリズムで活躍した吉岡専造による「鳩山一郎首相の退陣 日比谷公会堂」1957(昭和32)年
興福寺、法隆寺、唐招提寺などの国宝・重要文化財を記録した写真
品川区ゆかりの写真家 笹本恒子、若目田幸平、諸河久の作品
などが展示され、激動する歴史と人々の営みが、写真家の視点を通じて語られている。

写真原板を後世に遺す

写真原板とは、デジタルカメラ登場以前のカメラで記録されたフィルム、あるいはガラス乾板などを指す。
日本写真保存センターは、文化庁の委嘱を受けて2007年から「我が国の写真フィルムの保存・活用に関する調査研究」を始め、さらに2011年から「文化関係資料のアーカイブの構築に関する調査研究」を行っている。

この事業は、JPSが文化庁に働きかけて実現したものである。

日本には東京都写真美術館、横浜美術館など、写真のコレクションを持つ美術館がいくつかある。ただし、これらの施設が収集しているのは、原則として現像された写真である。
写真は、撮影するだけで完成するわけではなく、作家の、あるいは専門技術者の手で現像されて初めて作品となる。

だから写真原板そのものは作品とは呼べない。

一方、写真原板には、現像された作品にはない価値がある。
写真原板は新たなプリントを生み出す元となる。
作品を破損・紛失してしまっても、写真原板があれば再現が可能である。
また写真家は1点の作品を生み出すために、膨大な点数を撮影している。
写真原板を時系列で追うことで、作家の観察、思考過程をたどることができる。
だから作家研究のためにも、写真原板の保存は不可欠である。

しかし適切に保存されない写真原板は、経年変化や化学変化で劣化し、その価値を失ってしまう。

そこでJPSは写真原板を収集・保存する組織とその運営を企画し、2006年に「日本写真保存センター設立推進連盟」を設立、文化庁に「日本写真保存センター」設立要望書を提出し、その年の暮れに予算化、2007年から活動を本格的に開始した。
その後、東京国立近代美術館フィルムセンター相模原分館(現:国立映画アーカイブ)にある収蔵棟の一部を借り受けた。

収集・調査・保存の過程

日本写真保存センターのスタッフは、写真家が存命であれば本人、故人であれば著作権を継承した遺族を訪ねて写真原板の寄贈を依頼し、収集を行ってきた。
これまでに、1910年代以降に撮影された写真原板約30万点を収集している。

入手した写真原板は状態を確認し、長期保存可能な中性紙製の包材に入れ替える。

その後スキャンしデジタル化する。
撮影日時、場所、写真集に使用された画像などを記録し、画像とともにデータベースに登録する。

調査が終わった写真原板は相模原のフィルム収蔵庫に送り、温度10度、湿度40%の状態を保って保存される。

併せて、画像データを写真保存センターのWebサイトにある写真原板データベースで一般公開しており、現在約5000点を検索・閲覧することができる。

日本写真保存センターの活動

▲日本写真保存センターの活動(「後世に遺したい写真」展 パネル展示より)

写真原板の価値を多くの人に広める

日本写真保存センターは収集した写真原板を新たに現像し、写真展を開催することを通じて、センターの活動をアピールしてきた。
2018年3月には、カメラ・写真映像ショー CP+2018の一環として特別展示「『後世に遺したい写真』日本写真保存センター写真展」をみなとみらいギャラリーで開催し、約8000人の来場を得ている。

光村印刷は美術印刷で定評があり、JPSとは作品集などの制作を通じてつながりがあった。光村印刷がアート発信の場と位置付けるMGGを会場に、写真原板の価値をさらに多くの人に知らせたいという意図から、今回の写真展が企画された。
なお、光村印刷は同展の図録の制作・印刷も手がけている。

写真は歴史の語り部

歴史を変えた瞬間、今はなくなった建物や町並み、その時代特有の風俗など
写真は歴史の語り部として貴重な存在である。
日本写真保存センターの努力で、日本のどこかに眠っている写真が今後も蘇っていくだろう。

現在はデジタルカメラが主流となってはいるが、撮影されたオリジナルデータを保存することの大切さに変わりはない。
誰もが気軽に撮影し巷に溢れている写真は、今後どのように保存・継承されていくのだろうか。
そんなことも考えさせる展覧会である。

「後世に遺したい写真」―写真が物語る日本の原風景―

・会  期 :2018年10月25日(木)〜11月24日(土)
・会  場:光村グラフィック・ギャラリー(MGG)
・休 館 日 :日曜日
・開館時間 :11:00〜19:00(土曜・祝日 〜17:00)
・入 場 料 :無料
・主  催 :公益社団法人日本写真家協会・日本写真保存センター
・共  催 :光村印刷株式会社
・後  援 :品川区、公益財団法人品川文化振興事業団
・協  力 :一般社団法人日本写真著作権協会

日本写真保存センター Webサイト

*初出:「紙とデジタルと私たち」2018年11月7日

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)