新しい生活様式のもとでリアル文化に触れる

掲載日:2020年6月11日

緊急事態宣言の解除を受け、一部の美術館や博物館などの展示が再開されている。新しい鑑賞ルールに従いつつ、リアルな文化に触れる機会を増やしてみてはどうだろうか。

2020年の春、全国の美術館・博物館のほとんどが、自治体の自粛要請、また緊急事態宣言を受けて臨時休館となっていたが、緊急事態宣言の解除によって、段階的に開館するようになってきている。会期が休館時期と重なっていた企画展については、会期を延長している場合も多い。

以下、印刷・メディアに関連のある企画展のいくつかを紹介する。

各施設とも消毒などの感染防止策を講じるとともに、開館時間の短縮・一部の展示や関連イベントの中止、入場制限などもある。各館のアナウンスに従いながら鑑賞してほしい。

[宮城県美術館] ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡

2020年5月18日(月)-6月28日(日)
5月18日(月)より開館。
これまで顧みられることのなかったモリスの幼少期や学生時代にはじまり、晩年に至るまで、デザイナーとしてのモリスの生涯を紐解く。

[福島県立美術館] もうひとつの江戸絵画 大津絵展

2020年5月19日(火)-6月28日(日)
5月16日(土)より開館。
江戸時代、東海道の旅人相手におみやげ品として売られた大津絵。明治末以降に大津絵に魅せられたコレクター群像をひもときながら、日本民藝館をはじめとする名品約140点を味わう。

[江戸東京博物館] 特別展「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」

2020年6月2日(火)-6月21日(日)
6月2日(火)より開館。
北は北海道から南は九州まで、全国から35人の奇才絵師を集め、その個性溢れる作品を選りすぐり紹介する。

[東京都写真美術館] 写真とファッション 90年代以降の関係性を探る

2020年7月19日(日)まで
6月2日(火)から再開。
「写真とファッション」をテーマに、国内外のアーティストによる作品を通して1990年代以降の写真とファッションの関係性を探る。時代のターニングポイントとなった稀少なファッション誌も展示。

[21_21 DESIGN SIGHT(東京都)] 企画展「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」

2019年11月22日 (金)-2020年9月22日 (火)
事前予約制。
すぐれたプロダクトの選定やデザイン展の開催を通して、日本のデザインに貢献してきた日本デザインコミッティーメンバーたちのスケッチ、図面、模型の数々を紹介。

[ギンザ・グラフィック・ギャラリー] 第379回企画展 TDC 2020

2020年06月22日(月)-2020年08月29日(土)
6月22日(月)より開館。
東京TDC賞の成果を紹介する。グランプリ含む受賞12作品とノミネート作品を中心に、タイポグラフィを軸にしたグラフィックデザインの優秀作品150点あまりを展覧。

[竹尾 見本帖本店 2F(東京都)] 日本タイポグラフィ年鑑2020作品展

2020年6月18日(木)−8月12日(水)
会期を変更し開催。
日本タイポグラフィ協会が国内外より募集し、1689点の応募作品の中から選出した、グランプリ、学生部門グランプリ、ベストワークなどの上位高得点作品を一堂に展示する。

[岡田美術館(神奈川県)] 生誕260年記念 北斎の肉筆画 —版画・春画の名作とともに—

2020年4月5日(日)-2020年9月27日(日)
5月30日(土)より再開。
北斎が約70年にわたる画業を通じて取り組んだ肉筆画から「夏の朝」や「堀河夜討図」などの収蔵作品とともに、版画、版本の代表作である「冨嶽三十六景」と『北斎漫画』なども展示する。

[光ミュージアム(岐阜県)] 日本美術 デザインと文様展

2020年2月27日(木)-9月7日(月)
6月19日(金)より開館。
日本美術の中に見られる「和のデザイン」、単純で平明な色彩と金銀による装飾性を特徴とする「和様式」、四季の自然や風物から生まれた伝統的な「和模様」などを紹介する。

[京都dddギャラリー] 第225回企画展 コントラプンクト タイプ Kontrapunkt Type

2020年6月9日(火)-2020年10月3日(土)
6月9日(火)より開館
企業のオリジナルタイプデザインを多数手がけてきたデンマークのデザイン会社Kontrapunkt(コントラプンクト)。彼らが手がけた10のプロジェクトを紹介し、今一度、書体に対する見方を考え直す機会とする。


この他にも興味深い企画展はあるが、再開日を告知していない施設もあり、まだまだ厳しい状況であることがうかがえる。

臨時休館中、施設によってはオンラインで作品を公開する試みもあり、自宅で過ごす人々の心を癒した。

しかし、会場に足を運び、芸術作品をこの目で見るという体験は何ものにも変えがたい。

美術館・博物館は、作品をベストな状態で鑑賞するために考えられて設計されており、その施設自体に芸術的な価値がある場合も多い。建物の構造、外装、エントランス、内装など。また、企画の主旨に沿った展示会場の構成・サイン・照明、作品の見せ方・解説の手法など、創造・表現のヒントがたくさん詰まっている場所だ。

作品を書物やオンラインで鑑賞するのとは違う魅力がある。

美術館・博物館で過ごす時間は、作家と、そして展覧会の企画者との無言の対話の時間、日常から少し離れた観点から、物事を捉え直すひとときともいえる。

もちろん、そんな難しいことを考えず、作品に囲まれてぼーっと座っている時間も大切だ。

こうした体験が、明日からの仕事に、暮らしに、潤いをもたらすことだろう。

新しい生活様式の中で、美術館・博物館も、これまでにない運営に試行錯誤の段階ではないかと思う。文化の灯を絶やすことなく、存続していってほしい。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

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