2020年の印刷市場はコロナ禍の影響に尽きる。消費増税の影響が薄れかけたところにコロナ禍が到来、影響は未曾有の大きさになった。年末にかけて持ち直したが、どこまで戻るのか、まだ何が戻って何が戻らないのかまだわからない。2021年を考えるために2020年を振り返る。
■2018年:天災が続発、印刷出荷額の下げ幅が拡大
2018年の印刷産業出荷額は4.9%減の4.9兆円(経産省「工業統計」)。2018年は、1月に日経平均株価が26年ぶりの高値を記録するなど、年初は好調な日本経済を背景に印刷会社の売上高は堅調だった。しかし豪雨・台風・地震が相次ぎ、秋以降は失速した。「JAGAT印刷産業経営動向調査2019」によると、印刷会社の売上高は4年連続の減少。営業利益率は4年連続の1%台と低迷が続いた。1人当り売上高・1人当り加工高が3年ぶりに改善したものの、1人当り人件費も3年ぶりに増加するなど諸物価の上昇をこなしきれず、生産性の改善が収益性に結びつかなかった。
■2019年:売上高:天災の影響は続くが差し引きはプラスか
「JAGAT印刷業毎月観測アンケート」に基づき2019年の印刷経営を振り返る。春まで用紙不足が影響して売上高はマイナス圏で推移した。4月は統一地方選とGW10連休前の駆け込み需要があった。7月の参院選で与党が勝利するなど政治経済に安心感が広がるに従い、印刷会社の売上高もプラスに転じ、特に9月は増税前の駆け込み需要等によって大幅増となった。10月の反動減は大きかったが、米中貿易摩擦、日韓関係悪化、大型台風などマイナス要因はありながらも、改元、選挙、ラグビーW杯、増税対策などが生み出したプラス要因の方が大きかったと見られる。
■2020年:売上高:コロナ禍による未曾有の落ち込み
「JAGAT印刷業毎月観測アンケート」に基づき2020年の印刷経営を振り返る。2019年10月の消費増税の影響がようやく薄れかけて1月の売上高が4か月ぶりのプラスを果たしたところにコロナ禍が起きた。2月中旬からその深刻さが明らかになるにしたがい、3月から売上高が急落、各社が本格的なテレワークに取り組んだ5月は25%減となった。緊急事態宣言解除の5月以降は、景気全般の回復ほどには至らないまでも、売上高は少しずつ戻りを試していった。10月には対前年比でプラスを回復した会社が散見されるようになり、回復傾向は11月まで続いた。しかしその後は第3波が到来、GoToトラベルの中断などもあり、不透明感は再び濃くなった。
■2020年:景況感:景況感の急激な悪化と持ち直し、改革の進展
「JAGAT印刷業毎月観測アンケート」によれば、2020年春の設備投資意向は実に2011年以来のマイナスになった。各社が急激に投資予算を引き締めたのである。しかし8月以降はプラスを回復したので、各社は少しずつ様子を見極めながら再開し始めとみられる。全般的な印刷経営者の景況感は11月にかけて持ち直していった。JAGATの年末調査によれば(回答社には12/25に8枚のレポートを送付 ※1)、ほとんどがコロナの影響と対策に言及、しかも各社がコロナにポジティブな一面を見出していた。「課題が明らかになった」「オンライン会議になって時間ができ製品開発が進んだ」「動画の仕事が増えた」「ようやく社員の意識が変わる好機になった」など。
■2020年:製品別:商業系の不振、出版系の回復、デジタル系の活況
コロナ禍の影響が製品・業態別で最も大きかったのは、多くのイベントが縮小・延期・中止になった影響が大きい商業印刷。巣ごもり需要によって紙の本の見直しが進んだ出版印刷は10数年に及ぶ長期低落からの出口が見えてきた面があった。包装印刷はインバウンド需要の蒸発と個人消費減退の影響を受けた。事務用印刷はコロナ対策・景気対策などの政策需要が底割れを防いだ。ほとんどの印刷会社がかつてない落ち込みを経験するなか、デジタル印刷、あるいは動画などデジタル系事業が印刷系事業の減少の一部を補完したとの声がかつてなくあった。そして、デジタル系事業への領域拡大を目指す声もかつてなくあった。
■2021年:印刷ビジネスに影響を与える要因は何か
1月にアメリカ大統領の交代があり、過度の自国ファーストには歯止めがかかるなど世界の枠組みに変化が起きそうだ。2月のpageは3~5日が会場でのリアル、8~28日がインターネット上でのオンラインというハイブリッド開催となった。4月に延期されていたdrupaは中止になり、バーチャルへの移行が発表された。7~8月は東京オリンピック・パラリンピック。変化は多そうだし、afterコロナへ向けた出口が見えてくる年になることを望みたい。印刷市場の増減要因には経済、人口動態、企業と生活者のメディア選好、そして選挙や法改正などがある。自社と周辺市場に及ぼす材料、影響は何があるか、洗い出して影響とチャンスを考え、2021年に備えたい。
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)
※1 関連レポートはJAGAT会員限定誌「JAGAT info」2021年1月号に掲載予定
※2 より詳細な分析を加えた研究会・カンファレンスを下記開催予定
<関連セミナー>
■研究会 2021年1月26(オンライン)
「印刷とメディアの動向と展望 2020-2021」
■page2020セッション(計31本)2020年2月5日~7日 東京・池袋サンシャインシティ
基調講演(1本)
カンファレンス(9本)
ミニセミナー (16本)
<関連書籍・レポート>
「印刷白書2020」
「みんなの印刷入門」
「JAGAT印刷産業経営動向調査2020」
「テレワーク時代の印刷ビジネスモデル読本」