日本アグフア・ゲバルト株式会社 プリンティング戦略部部長 知識 三富 氏
国内の印刷紙業が8兆円から5兆円、減少の段階である。印刷業界、特に製造部門の変化は著しい。小ロット化が非常に出てきて、増大する損紙、ジョブの台数は増加。納期、品質に厳しい状況である。なおさら、生産コストへの要求が高まっている。
この辺をどう切り盛りしながら、今後の状況にどう対応するか。生き残るためにやっていかなければならないことはどういうことなのか。
アグフア・ゲバルトは単に版を販売するだけではなく、経営革新、革新が必須と思っている。経営改革のために、速乾技術を導入していただき、既存の設備・人材をフルに活用して経営の健全化、儲かる企業への改革をしていただきたいと考えている。
Azuraの速乾印刷を立ち上げていただいている会社は、2013年度まででオフ輪、枚葉印刷含めて35社くらいになっている。
先般、「低環境負荷型ケミカルレスサーマルプレートAzura NEWSの共同開発」で、新聞協会の技術委員会賞を受賞した。日本経済新聞様と日経東京製作センター様が連名で受賞された。
技術委員会賞とは、新聞の製作部門での技術の向上、改善を促進する目的で技術委員会が表彰するものである。
Azuraとは
Azuraは、現像レスCTPプレートでは業界シェアナンバーワンである。90%以上である。
現像ありでは超ロングランCTPである。UVも使えるもので、特長が速乾印刷、省エネ、省資源、品質向上を狙ったプレートである。
シェアナンバーワンの理由としては、プレート制作方法の比較であるが、今までのアルカリの現像方式が、露光をかけて、現像、水洗、ガム、検版、それから印刷工程。もう1つが1世代前のものだが、プロセスレスの露光をかけて、機上現像があった。
私どもがご提供するのは、ガム洗浄方式、現像レスAzuraTS。露光をかけて、ガム洗浄、検版、印刷であり、現像液が不要である。検版ができ、機上現像がいらないという特長がある。
Azuraの現像レスの露光状態は未露光の版が全面的にこういう状態であるが、サーマルCTPで画像部を露光するというところで、画線のところはインキがつくが、これはクリーニングユニットというが、ここで洗浄し画線だけが残り、検版し、即印刷可能という工程である。
Azuraの砂目構造
砂目については、細かい砂目だが、向かって左が一般的な砂目。右がフラットサブストレートである。よく見ていただきたいのが、画線と非画線のエッジの部分、砂目の構造が大中小になっているが、フラットサブストレートは均一な砂目になっている。
ベースとなる砂目が細かいこと、より正確な画像形成を可能とする。また、現像液を使用しないために、画像形成の安定度が保たれている。別名デジタルプレートと言われている。
露光をかけてそのまま画像、劣化がほとんどないということである。つまり、カラーマネジメント軸の運用形態の印刷会社さん、クライアントをお持ちの会社さんは、非常に品質標準化がしやすいプレートということである。
まず、先端の砂目構造だが、イメージ的には大中小標準的な砂目だが、フラットサブストレートをよく見ていただくと、本当に均一なものである。水が絞れ、大中小の水の被膜を薄くしたいけど、一般的には砂目はできない状態である。
これは薄紙を刷っていただくとすぐに分かる。ファンナウトが出るかどうか。非画線で水持ちが良ければ、汚れないが紙に対してのダメージは大きい。その他に対しても大きいのである。
要するに、水を抱いている分だけ、インキの中に乳化するという原理が働くのである。つまり、砂目の構造違いで印刷の技術は変わるということである。
これは、一般的にアグフアで刷った、印刷条件を整えたものである。50%の網。98%の網の抜け。2次色の色の鮮やかさ。相当よく出る。ガモット色域を数字で拾うと非常によく出ていることが分かる。特に3色のグレーの鮮やかさ。格別なものである。プロセスの今お使いのインキでできるのである。すごいことである。
安定した色の再現。3点グレー。当然、こういう状態だと何が出てくるかというと、ハイライト、中間、シャドーのところが確保できる。この版を使うと、デジタルプレートといわれるほどの、データイコール、劣化があった版、もしくは変動があった版、経由してやるのではなく、版自体が安定しているので、印刷のところも安定させると、こういうものも比較的安定しやすいということになる、
私どもはこういう版を使い、オフセット印刷の原理である技術を抱き合わせた形で、印刷の工程の標準化、色の再現の標準化、速乾に取り組んでいる。枚葉油性、UV、オフセット輪転、低温乾燥も含む。
一昨年、去年、お客さんのところを回りながらやったが、そこのユーザーはオフ輪3台お持ちで24時間回っていて、インキの値段が1億8000万くらい使っていた。約1年、アグフアの版を使って適正化した結果、今年の5月に集計が出て、1割必ず出ている。つまり、1800万である。インク削減の数字しかお聞きしていないが、10%は削減。これは大きなことである。
実際に枚葉でどういう結果が出ているか。速乾技術により確実なコスト削減ということで、当然、印刷資材の延命が出ている。ローラーについては、2倍~3倍近く。枚葉であるが。毎日のメンテをしっかりするから、保つ。同時にコスト削減。損紙、インキ。それから品質改善の超安定というと、吸い出しの濃度安定、間違いない。網点の再現。特に枚葉で乾きが悪いという、特殊紙のバンヌーボ。これは1時間くらいで断裁できるのである。1時間あれば十分である。
それから超薄紙、ファンナウト。トライダウン。先ほど見ていただいた色彩値向上ということで2次色、3次色の鮮やかさ、これは間違いない。
当然、生産性の向上、A能率、B能率、段取り時間、ジョブの点数。それから印刷トラブル解消。全ていいことづくめである。これは現場、もしくは技術者さんの置かれている立場の前向きな姿、ご努力の結果である。版だけの問題ではない。ただし、版はこういう方向にもっていけるということである。
オフ輪の場合。速乾による確実な利益確保ということで、オフ輪ユーザーさんは紙支給が多い。ただし、2番目のインキ代については支払い額が大きい。諦めているユーザーが結構いる。「うちはこうだから」、「版くらい変えったって、なんでそんなもの出るのか」と。オフ輪をお持ちの会社さん、是非、チャレンジしていただければと思う。
また、乾燥温度を下げるのでヒジワ。特に薄手の微塗工紙については、ヒジワの軽減もかなりできる。ある会社では、枚葉で刷ったのかと言われるほどだそうである。
印刷のトラブルは物理現象なので、何らかの原因がある。皆様の中で、こういったことが日常茶飯事、起きているのかなと思う。
例えば、地汚れし易い。濃度が安定しない、刷り出しが不安定、乾燥が悪くなった。また、ドライダウンが大きい。網の抜けが悪いなど。ここをどのよう形に切り分けて判断し、訂正してその方向にもっていくのか。これが印刷会社さんのあるべき姿で、その積み重ねで利益確保ができるのではないか。
アグフア診断
機械を丸ごとスキャンして診断する。2日間の工程で、連続的に継続していく。ポイントは水舟、チラーの温度、壺の温度、版面、ゴム胴。シンプルに考えているが、ここが重要である。計ると見えてくる悪さ。利益が取れる状態からそうでない状態。こういうことをやっていかないと、機械のトラブルも未然に防げないということである。版面温度とか壺の温度、ゴム胴温度とか水舟温度など何が悪いのか調べていく。
計った結果、赤丸のところに非常に問題がある。これはすべて直せることである。壺の温度とか水舟温度、そういったものは直せるのである。
1色目が1度違う。版面とゴム胴。たかが1度であるが、これが大きな問題である。トラブル発生が多い要因。縦軸に温湿度、横軸に時間。24時間計っている。ここでも水舟の温度と給水タンク、印刷機の周りの温度と湿度を取っているが、水舟の温度で一番重要なことは、各ユニットの温度が違うこと、左右の温度が違うこと。これはオペレータにとっては問題がある。
次は、ロールの条件確保。まず、印刷機というのは各ロール、問題なく仕事をさせないとならないのである。各部門のチェックをしながら、最終的にはインキロールは完全に親油処理。水溶性のものがあったら絶対にあったらだめということである。
一方、給水ロールは、最終的にチェックして給水の親水処理。油性のものがあってはいけないのである。真逆である。特に給水ロールは、運転中でもちょっと風があると水膜が切れて汚れるという現象が起きるので、十分にそれなりの手当をしていかなくてはいけない。
これは非常にまずいパターンである。ニップがだぶっている。水が切れない原因とか耐刷にも問題がある。これは驚きだが、版面が錆びている。
では、印刷機の構造と条件がどうなるか。印刷機の原理原則を言うと、印刷機側は4色どこも、温度、印圧、どこも一緒にならなくてはいけないのである。2つ目はインキメーカーがよく考えているのだが、機械はすべて平らになっている。プロセスインキは全部そうである。相手の機械が平らでないと、印刷機に乗せるインキは墨がやや堅くて、黄色が一番柔らかいのである。トラッピングを重視するために、インキの乗りを安定的に印刷するために、そのようにしている。そこに印刷機側が各ユニットの温度差があったり、まちまちな印圧だと印刷にならない。安定するまでにヤレ紙をジャンジャン流して、安定させるということがある。
乾燥のメカニズムのもう1つが、酸化重合。これは空気中の酸素と重合し酸化被膜を作る。酸素と結合するというものである。
もう1つ同時進行で、紙の上にインキが乗った場合、浸透するのである。インキの中から溶剤、乾性油、顔料。紙の中にも酸素を持っているので、紙の繊維に沿ってすっと入るのである。すごいスピードである。オフセットの1度目から2度、3度、4度あるが、この間にインキがセットに入る。印圧、紙、インキの堅さ、水の入り方。微妙なバランスである。これが崩れるとヤレ損紙が非常に増えるのである。
原理としては、酸化重合と浸透乾燥の組み合せ。特に紙に乗って浸透し、ゲル化が入る。やや印刷の直後はベトベトすると思う。そのベトベトしたところからすぐに酸化重合が入り、乾燥が入る。
ゲル化直後から、UVだったらUVランプがポンとつくのである。オフ輪はそのまま乾燥の高温高熱でバンと乾く、酸化重合はそのまま自然乾燥ということになる。
非常に微妙なバランスでとっているということである。
それから汚れのメカニズムである。これはオフ輪も枚葉もUVも一緒である。原理としては、黒いラインが版である。水着があり、インキ着。このインキ着のところにインキがやや勾配になっている。水がここから上に上がろうと練られて、最終的には4本目のローラーで水のバランスをとって汚れを回収している。こういう状態になった場合、インキ着の3、4が強い、もしくはニップが強かったり、インキのバンランスが取れていないと水の膜より強くなる。これが何かというと、汚れである。汚れを解消するためには何をするかというと、水を上げるだけである。単に水を上げていくだけである。
これが今起きている印刷の現状である。つまり、乳化のメカニズムと地汚れのメカニズムは背中合わせである。
ではどうするかということである。
過剰乳化のギリギリのラインで印刷しているので、ブロッキングとか濃度変動などが起きてしまうのである。乾燥のメカニズムはローラーのところを調整していただく。プラス、Azuraの版は、同じように水が切れるのである。印刷条件がもともといいところについてはそれほど差がないが、柄、もしくは薄紙をしていくと、かなりその差が出てくる。
つまりインキの厚盛りをすると、柄が多いと、この中にインキの中に練られてしまい、その差があまり見えなくなる。またインキの中からはき出す水の量もある。総合的に見ると、水を絞れるので、この分だけ濃度が上がる。
濃度が上がった分だけ送り量を下げて、水に対するインキの量を適正化する。これが速乾の原理であり、まずやらなくてはいけないことである。
オフ輪はこの効果でインキの削減量10%くらいいっている。実機量の検証とほぼ同じような状態だと思っている。
速乾もそうであるが、高濃度とか網点再現とか、2次色、3次色が鮮やかである。皆さんでもできるのではなかろうかと。ただ、しやすさから言うと、安定度。他社さんの水を抱ける版はずっとやっていると慣れてしまうのである。私どもはプロ仕様というか、要は範囲がちょっと狭い。
だからそこを超えると汚れる。超えないところのアジャストを皆さんで努力して作っていただきたい。決して難しい話ではない。
私どもがまだまだやらなくてはいけないと思っているのは、オフセット印刷の原理原則。インキの特性、乾燥のメカニズム、水の働き、色の再現。濃度をきっちり決めていただく算出方法。それから印刷のトラブル、解消方法。印刷の適正な維持管理の方法、数値化ということである。
そういうことをシミュレーションできるソフトも出てきている。印刷機は精密機械。機械だけではなく、化学、画像処理の幅広い知識が必要である。
管理者、機長として判断の遅れ、間違いはロスを増大する。アグフアが今、力強く進めている品質向上とか、生産性向上、現場のモチベーションアップ、営業活動の活性化、環境対応。是非、耳を傾けていただき、経営のお役立て、改善、利益を取っていただければと思っている。
2014年7月15日「速乾印刷を科学し、そのメリットを検証する」より(文責編集)