今後のビジネス展開を見据え、新たな収益モデルの構築が求められているが、新規事業の立ち上げの際には、企業の事業特性や強みを今一度、検証することで活路が見いだせる。ここでは具体的な事例としてJAGATの「印刷ビジネス開発実践講座」に参加した企業による、その後の新規事業の取組状況についてレポートする。
JAGAT では、印刷会社の事業特性や強みを生かした印刷ビジネスの開発手法、またビジネス立ち上げ後のプロモーションまで、一社一社の新事業開発のサポートをする「印刷ビジネス開発実践講座」を毎年開催している。昨年度、本講座に参加した株式会社丸信の吉村忠寛氏と山本大樹氏から現在の取り組み状況を伺った。
丸信は福岡県久留米市にあり、シール・ラベル印刷加工、パッケージ印刷加工、食品包装資材販売をメインに事業展開を行っている。
本講座において、お客様支援に重点をおいた2つのサービスの構築やプロモーションの見直しを行い、修了後に実際にサイトを立ち上げ、新サービスをスタートさせている。
印刷会社が支援する食品業界のマッチング (吉村忠寛氏)
パッケージ印刷加工や食品包装資材を取り扱っているため、食品関係の顧客が約7 割を占めている。新サービス開発の契機となったのは、4〜5 年前にある顧客から相談を受け、「技術はある」会社と「原料があり加工したい」会社をマッチングしたことである。その後も同様の相談を受けることがあり、かつコロナ禍で顧客の売り上げが落ち込んでいるのをなんとか打開して、顧客同士のマッチングで互いの業績を向上させることができるのではないかと事業化を検討した。
そして、「印刷ビジネス開発実践講座」受講後の今年2月、既存の顧客だけではなく、困りごとを抱えている食品関連企業も支援できるように、
「食品開発OEM.jp」のウェブサイトを立ち上げて運用を開始した。
OEM に興味がある人は誰でも気軽にサイトを閲覧できるよう、会員登録制にはしていない。当面はサイトへの掲載料金を無料にして、登録社数を増やすことでサイトの価値を高めていく方針である。そのため、収益源はマッチング時の資材製作料(パッケージなど)のみである。一方で、掲載企業の情報(新作情報や今後の動向など)をいち早く得ることができるので、ここからパッケージなどの印刷物につなげていけるように、企画の段階から提案をしていきたいと考えている。現在、商品や登録企業の他にコラムや展示会情報を掲載しているが、今後は成功事例なども紹介していく予定である。食品開発を考えている人が興味を持つようなコンテンツ、例えば関連記事やダウンロード資料などを用意して、試行錯誤を繰り返しながら、これからもこの事業に取り組んでいく。
”食”を産地直送でお届け!印刷会社が取り組む通販サイト (山本大樹氏)
九州の食を産直で届ける通販ショップ「九州お取り寄せ本舗」を5 年前に立ち上げた。これは、弊社の包装資材を使用している顧客に対して、通販市場参入への足掛かりや情報提供の場として始めたものである。商品PR から販売までの一連を弊社が代行しており、顧客は商品を発送するのみである(いわゆるドロップシッピング方式)。そのため、顧客は手軽に通販事業を試すことができる。最初はある大手通販サイトをメインにしていたが、売り上げはあるもののリピーターが安定しないという課題もあり、昨年より本店のショップに注力した。その結果、会員数や売り上げも増加し、一年間で売り上げが約2 倍となった。また、そこで得られたノウハウなどは顧客にも還元しており、そのような支援も行っている。
基本的には商品をそのまま代行販売する形態であったが、そこにひと手間を加えて、パッケージを変えることやギフト化する提案を行った。当初は業態に伴う制約がネックとなっていたが、コロナ禍で売り上げが低下すると状況が変わり、例えば母の日などのイベントに合わせて商品にメッセージカードを付けたり、パッケージをギフト化したりして販売したところ、同一商品にもかかわらず価格を上げても一定の販売実績を得ることができた。そこで次のステップとして「印刷ビジネス開発実践講座」を受講し、展開方法や改善点のヒントを得て、事業の進め方の再確認を行った。
お客様に提案の際には小ロットでパッケージを作り、試験販売で様子を見てもらっている。なお、ギフト化に当たっては、資材は弊社が負担して、価格に上乗せする方法を試している。
ただ、全ての顧客がギフト化で売り上げを伸ばせたわけではない。一つ一つ経験値を上げていき、商品をリメイクできるようにしている。また、商品が少しでも売れるように別の商品と組み合わせたセット売りを行うなど、さまざまな施策を練って、顧客に合った方法を提供したいと考えている。今後のビジネス展開としては、弊社にはさまざまなサービスがあるなか、事業同士がつながり、サービスを組み合わせることでさらに飛躍することができればと思う。
昨年度からオンラインでの開催となった「印刷ビジネス開発実践講座」だが、双方向のやり取りも問題なく、実際に会うことはできなくても、回を重ねるごとに仲間意識も芽生え、講師や他受講者からのアドバイスが新サービスを開発するうえでのヒントにつながることも多かったようだ。そして、今回、丸信の取り組みの取材を通じて、一つ一つは異なるプロジェクトであるものの自社の強みを活かした親和性の高いビジネスであり、事業間で連携して、組織全体で顧客に役立つ新サービスの開発に取り組む姿が見受けられた。今後のビジネス展開に注目していきたい。
JAGAT CS部 加治寛子
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